第3話 転校生

「おはよー」

 そう言いながら教室に入った私は、クラスメートたちが興奮状態にある事にすぐ気が付いた。私は自分の席まで移動すると机の上にランドセルを置きながら、横の席に座る同じソフトボール部員の亜季あきに話しかけた。

亜季あき~おはよ!どうしたの?何かあったの?」

「おはよう、花音かのん。あのね、転校生が来るらしいのよ。」

「へっ!転校生?…ねえ、男の子?女の子?」

「知りたい?」

 亜季あきがもったいぶる。そんな亜季に私はじゃれてヘッドロックをかけながらお願いする。

「あ~ん、教えてよ亜季あき!」

「こら~それが人にお願いする態度か~」

 私はヘッドロックを外すと今度は両手を顔の前で合わせると頭を下げて〝お願い〟ポーズをした。

「よろしい!…お・と・こ・の・こ」

 私が〝ニーッ〟と笑うと亜季あきも〝ニーッ〟と笑い返した。その時、教室の扉が〝ガラガラ〟と開いて担任の井上先生が入ってきた、とその後ろからスラっと背の高い男の子が続いて入ってきた。イケメンだ、クラスの女の子たちが息を飲むのを私は感じた、そんな私も彼に釘付けだ。そしてさざ波のように、彼の第一印象がささやかれた。

 「はい静かに!」と井上先生が注意すると教室内に緊張が走り一瞬で〝シン〟と静まった。「今日からこのクラスに新しい仲間が加わります。」

 そう言うと井上先生は脇にどいて斜め後ろにいた彼に自己紹介をうながした。彼は先生に軽く一礼すると前に進み出た。

「今日から皆さんのクラスメートになる加藤です。下の名前はだんボールのだんくらと書いてぞう加藤段蔵かとうだんぞうです。」

 ここで一度加藤君は軽く頭を下げると更に自己紹介を続けた。

「勉強はどの科目も好きですが、特に」ここで何故か加藤君が私を真っ直ぐに見つめると続けた。「体育は得意です。このクラスには体育の得意な生徒がいると聞いているので勝負するのが楽しみです。」

 そう言うと彼は私の方をがっつり見ながら自信たっぷりの笑顔でウィンクした。周りの女の子が〝キャーッ〟と嬌声きょうせいを上げる中、明らかな宣戦布告と理解した私は、右手の親指を下に向けながら変顔で返した。

「こら服部はっとり、それが初対面のクラスメートにする態度か!」

井上先生に怒られても私は加藤君から目を離さなかった。だって井上先生が私に注意を向けている隙を見て、加藤君は親指で自分の首を真一文字に切るフリをした。プロレスラーが相手を挑発する時によくやるゼスチャーだ。お互いが視線を外さない、こういうのをバッチバチって言うのだろう。ちょうどその時〝キーンコーンカーンコーン〟と1時間目の始業のチャイムが鳴った。加藤君は井上先生に指示された机に移動して着席した。加藤君はまだ私をガン見していたが、いつまでもにらみ合っているわけにもいかず、私は黒板の方に視線を向けた。

 授業が始まっても私はイマイチ集中できなかった。どう考えても加藤君は私に敵意てきいを持っている。だけど私は加藤君に見覚みおぼえが全くない。その時だった、声が聞えた。

(昼休み時間、体育館裏で待ってる)

 私は驚いて周囲を見回した。というのも今聞こえた声は、以前父とうさんから学んだ周りに多くの人がいても気付かれずに会話をする忍者の技だ。独特の発声方法で話された言葉は、訓練を受けた人しか聞こえない。視線が合った、加藤君だった。

(そう俺だよ、俺)

加藤君がニヤリと笑った。

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