②
はナンパ目的で行くのだが、僕はナンパの前に帰る。そんで2人の武勇伝を次の日に聞くというのが大体のお決まりパターン。昔1度だけ3人組の女の子をナンパしてご飯に行ったことがあった。3人が美女美女美女の組み合わせなら僕もテンションが上がるのだが、そんなことはない。美女普通ブスの組み合わせだった。
その3人組はご飯を食べているときからなんとなく美女と普通はイケメン1号、2号にとられ僕はブスと盛り上がらない会話を1時間もしていたなんてことがあった。そんな経験からナンパしようぜってイケメン2号が言い出したら適当に用事つけて帰ることにしていた。まあそんな感じでずっと一緒にいるわけではなかったが、仲は良かったし親友と呼べるのはその2人くらいだった。
「君、一人?」
急に後ろからそんな声が聞こえた。まさか自分にかけられている声だとは思わないから反応しなかった。
「ねえねえ無視しないでよ」
次は肩をちょんちょんとたたかれてそう言われた。
はっと振り向くとよく見た顔の二人組が立っていた。イケメン1号と2号だ。
話しかけてきたのはイケメン2号こと上村俊介だった。大学の入学式で出席番号が前後だったから隣に座って仲良くなった、というありふれた仲良くなり方だった。ただ、もともとは嫌いなタイプだった。入学式で隣に座るなり
「俺、上村俊介。俊でええで。俺さ、こっち引っ越してきたばかりでようわからんのや。君、地元?ならいろいろ教えてな。あとなこの辺でおいしいラーメン屋だけはすぐ教えてな。こっちに来たらまずはやっぱラーメン食べんとなと思うとんねや。さっきもなここ来る前にラーメン屋が・・・」
この後長い長い俊のラーメンのお話は入学式が始まるまで続き、そのあとに学長の長い長いお話を聞いて、結局流れでラーメン屋に行っても、俊の長い長い話は続いて一日の聴聞文字数の限界を超えていた僕は俊の家への誘いを適当な理由を付けて自分の家に帰った。明日からはなるべくかかわらないように生きていこうと決心して眠りについたのだが、その決心は1日で崩壊することになる。朝、大学に行って教室に入るなり
「あ、らーんー」
と大声で叫ばれてしまってはもう無視するわけにはいかない。ばれないように後ろの教室から入ったのに見つかるどころか一気に教室の注目を浴びることになった。これによって声の大きいイケメンとちょっと地味な普通そうな子が友達であるという認識が全員に広まった。僕は軽い笑顔を見せて俊の隣の席に座った。
「おはよう」
「おはよう。朝から元気がいいこと」
ちょっと皮肉っぽく言ってやった。
「朝にカレー食べると元気が出てええで。カレーっちゅうても自分で作ったんやのうてレトルトなんやけどこれがまたおいしくて・・・」
始まった。昨日はラーメンで、今日はカレー、食べ物の話ばっかやな。また長い長い話を聞かされるのかとややうんざりしていると後ろからようという声が聞こえた。イケメン1号こと金沢誠は高校からの同級生で高校では知らない人がいないほどのイケメンだ。その誠話しかけてきた。
「誰?友達?」
「昨日会ったばかりなんだけどね」
友達というところには肯定も否定もしない。
「蘭の友達の上村俊介や。俊でええで」
俊が友達と自己紹介したから友達なんだろう。
「金沢誠です。こっちも誠でいいよ。蘭とは高校の同級生でね」
高校ではクラスも3年間同じだったし、部活も同じだったが、それ以前に家が近所で小さいころから仲良しだ。高校では僕と誠が仲がいいことは大いに知れ渡っていたし、そのせいで誠宛てのラブレターが僕の靴箱に入ってるなんてこともしばしばあった。封筒自体には何も書かれていなくてクリップで止めた小さな紙に『誠さんに渡してください』とだけ書かれていた。ただ、それだけモテていたにも関わらずほとんど彼女はいなかった。高校の時も1人としか付き合わなかったし、今付き合ってる子も確かいなかったはずだ。そういう感じもかなり好感を持たせるのだろう。イケメンでモテるからといって次から次に彼女を作るではなく自分の好きになった人としか付き合わない。彼はモテるべくしてモテる男だった。高校時代の唯一の彼女の話によると誠は中身も完ぺきだったらしい。そんな噂もあって誠の人気は一層高まりを見せたが、同時に完璧すぎて私にはと思う子が急増したためガチのラブレターは減った。当の本人はそんなこと全く気にもせずただ淡々と毎日を過ごしているように見えた。ただ、誠が硬派だったのは高校や大学初期だけで、それ以降はナンパを繰り返して適当に遊ぶようになっていった。
「蘭の友達やったら今日から俺と誠も友達やな」
めでたく誠も友達にされました。俊が大声で話してたということもあり、周りの人からこの3人は友達という認識ができた。イケメン2人に普通の子1人のパーティーが完成した瞬間だった。地元の大学といっても一応は国立大学なわけで同じ高校の奴は少ない。地元からの奴よりも県外組の方がむしろ多いから誠も大学に入った瞬間は無名だった。俊の友達宣言から数日でイケメンがいるって噂は回ったし、あの3人よく一緒にいるよねなんて声をちらほら聴くようになった。実際よくというよりもいつも一緒にいた。
俊の長話にもだんだん慣れていき、逆に俊がよくしゃべるからこそ間が持ったことも多々あった。始まりは強引だったが結果4年間ほぼ遺書にいる仲になったということにおいて俊には感謝していたし、誠も長い付き合いでたくさん感謝していた。この現世への旅の本当の目的は父に会って問うことなんかよりも友達、つまりこの2人に会うことだった。ほぼ、これで目標は達成された。
「ねえねえ聞いてる」
「聞こえてるよ」
満面の笑みで答えた。こうもすぐに2人に会えるなんて思ってなかったからテンションが上がっていた。
「今、何してんの」
地元の方言を忘れ、すっかりこっちに染まった俊が聞く。1歩後ろにいる誠は一言も発さない。
「別になんもしてないよ」
「じゃあさこれから俺らとご飯行かない?おいしい焼き鳥屋さんがあるんだけど」
断る理由もない。
「行く。どこ行くの?」
「すぐそこのハチマキ屋ってとこ」
いつも3人でよく行く焼き鳥屋だ。久々に食べたくなっていたところだ。
「あそこおいしいよね」
「あっ、行ったことあるんだ。じゃあ行こうよ」
ノリノリの俊を見るのはいつぶりだろうか。少なくとも43日は経過しているはずだがその前の記憶なんて細かくは覚えていない。俊のかわいらしい感じの笑顔を見ると男の僕でさえ癒される。
「あとさ、できればでいいんだけど、もう1人誰か呼べないかな。ほら、俺ら2人じゃん」
俺ら2人。と言われて思い出した。僕、今女か。2人に会えたうれしさのあまり忘れてた。てことは2人のイケメンが美女に声をかけているこの状況は・・・ナンパ。僕、今この2人にナンパされてるのか。しかも僕もノリノリで行くなんて言っちゃってるし、すげえ尻の軽い女だと思われてるよ。しかももう1人呼べなんていわれてるし。もう1人呼ぶ相手なんかいないし。でも呼べないなんてことになったら違う子をナンパするかもしれないし。そうなると何も話せないし。こうなったらその辺の1人でいる女の子に声をかけて一緒にナンパされる。辺りを見渡してみる。カップル、女性の集団、カップル、カップル。クリスマス前後の夜に1人で何も用がない女の子がこんなとこに普通いませんよね。こうなったら最終手段か。
「ちょっと待ってて」
「はいはーい」
携帯を取り出す。着信履歴から電話を掛ける。プルルルルと1課なった後うさぎが出た。
「どうかしましたか」
「女の子を1人出してほしいんだけど」
「ナンパされて人数合わせにもう1人呼べとでも言われたんですか。というかそもそもナンパされたかったんですか」
「いや、さっき話しかけられていた2人は友達で少し話したいと思ったらそんなことになって」
「お友達だったのですね。こちらから見てるとナンパされて喜んでるだけに見えてたので」
やはりそうか。こんな美女がノリノリでナンパについてきたらそりゃナンパした側はもううはうはだろう。うはうはしてるイケメンが少し遠くでこっちを見てる。
「女の子と呼べるかどうかはわかりませんが、そちらに派遣することはできます。友達ということでしたら私としても必要と判断するに値しますので。ただ、かなり高額のポイントがかかりますがよろしいですか」
「いくら」
「1時間2万ポイントです」
高っ。そんなにポイント払ったら俺の死世での生活が苦しくなる。最初だけいてあとは勝手にどっか行ってもらうでいいんだけどな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます