第5話 夜逃げ

 新しく獲得したスキル、壁走りは5秒間壁を自在に走れるというものだった。ちなみにクールタイムも5秒。スキルレベルを上げればまだ長く走れるのかもしれないので、なかなか便利のよさそうなスキルだ。

 そして予想よりも感知が化けた。スキルレベルを上げる前は、集中力が上がるだけだったがレベルを上げる事で周囲の気配を感じる事ができるようになった。表現し辛いが、いわゆる第6感とよばれる勘のようなものだと思う。


 そしていま俺の前には宝箱が置かれている


 コレは通常のダンジョンではありえない事だ。通常のダンジョンでは、宝箱は最下層のボスを倒すことでしか現れないからだ。

 感知を使ったあと、なんとなく良いことがありそうな気がしてそちらの方へと向かうと宝箱があったのだ。


「罠ではなさそうだが……」


 ダンジョンには罠もあるらしいが、宝箱タイプの罠はいままで聞いたことがない。


 感知を再び使用してみるが、先ほど同じようにこの宝箱から良さそうな気配があるのを感じるだけだ。


「ええい!開けてしまえ!!」


 腹を括って勢いよく宝箱を開けてすぐに離れる。紫色の煙が吹き出したり、矢が飛んできたりするような事はなかったため中身を確認する。


「これは!!」


 目に映るのは、刀身が氷ついた両刃の片手剣だ。

 明らかに、こんな最弱モンスターのスライムだらけのダンジョンから出てくるような代物では無い。


「色々おかしすぎるダンジョンだ……」


 氷の剣を手にとり一振りしてみると、キラキラと結晶が舞う。当然ながらとても冷たい。ダンジョン組合に売れば高値で取引されるだろうが、登録もしてないうえどこで手に入れたのか、根掘り葉掘り聞かれるだろう。それに手持ちの武器も無いので自分で使うと決めた。


「まぁ、武器はGETできたな!」


 これでバールを買う必要はなくなった。


「今日はここまでにするかな、もう23時だし風呂入って寝ないと」


 明日からはまた地獄のような仕事場に戻らなければない。憂鬱だが生活のためには仕方がない。


 部屋に戻り風呂に入りベッドへ入ると、疲れていたのかすぐに眠りについた。


 翌朝、支度を整え会社に向かうと人だかりができていた。


「先輩!大変です!!」


 俺の姿を見つけた後輩が、慌てて俺の下へくる。


「か、会社の中身が空っぽです!!」


 その衝撃の言葉に俺は、あんぐりと口を開け間抜けな顔をさらしていた。


『一体どうすれば…』『給料どうなるんだ?』


 周囲から聞こえる声。


「おかしいと思ったんですよね。昨日はみんな強制的に19時に帰るように言われて。けどみんないつもより早く帰れるから浮かれて……」


 後輩が昨日の事を説明してくれる。誰かが会社役員どもに連絡するが、すでにスマホも処分されているようで繋がらない。

 一時の間みんなが途方にくれていたが、俺よりも勤務年数の長い社員達が取りまとめ、後日法的手続きをするとの事でその場は解散となった。


「これからどうすればいいんでしょうか、先輩…」


 後輩が俺に問うが答えなど分からない。正直大災厄のせいで日本の人口は激減しているし、ダンジョンのせいで景気も不安定だ。そのため転職、再就職はかなり厳しい。

 俺自身は蓄えもあるし、あのバグダンジョンのお陰で覚醒者にもなれた。スキルを増やし強くなればダンジョン組合に登録して金を稼ぐこともできる。


「まぁなんだ……困ったら連絡してこい。飯ぐらいは食わしてやるよ」


「え?それってプロポーズのつもりですか?」


「なんでだよ!!」


 確かに30歳というのに可愛らしい後輩ではあるが、付き合ってもないのにいきなりプロポーズなんかするはずはない。


「私、これでも結構先輩のこと好きですよ?」


 うぐ、と言葉につまる。


「とはいえ順序というものがあるだろうが。」


 ハァと溜め息を吐きヒラヒラと手を振り帰ろうとする背中に


「これだから童貞は……」


 と呟く後輩。


 童貞ちゃうわ!……素人童貞なだけだが。




吉良 彼方 34歳

スキル 生活魔法 索敵LV2CT30秒 感知LV2CT10秒  

    火魔法 壁走りLV1CT5秒

CT=チャージタイム 


 残SP 11P


神野 夏花 30歳

彼方の後輩 少なからず彼方に好意を抱いている

童顔なためよく大学生に間違われる





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