第3話 バグ
1年振りに動かすバイクの点検を終え、俺は両親の眠る墓へとやってきた。
「父さん、母さん。俺、覚醒者になったよ。」
墓を綺麗に洗い、花を飾り現状の報告をする。体のダルさはバイクに乗ってここまでくるうちに解消されていた。
「じゃあ、また来るよ。」
名残り惜しさを胸にバイクを飛ばす。次にきたときはもっと大きな花を持ってこようと心に決めて。
「ふぅ~、久々に乗ると最高だな。」
ドカリとベッドに大の字になる、時計の針は15時を指していた。
「まったく大人になると時間ばかりを気にしてしまうな。」
ボサボサと頭をかきながらジャージに着替えて準備をする。
「いざ!ダンジョンへ!!」
そして勢いよく扉を開け踏み出した。
「……は?」
扉の先は森だった。これはありえない事だった。
「いやいやいや!おかしいでしょ!?朝は洞窟だったのに」
ダンジョン内部は一度扉を開いた時に固定化される。ダンジョン研究者はそう言い、そして今まで現れたダンジョンでもこのような異変は確認されなかった。
「まさか…」
森から部屋へと戻り、扉を閉めてゴクリと唾を飲み込んだあと再び扉を開ける。
「寒〜い!!」
今度は雪山だ。慌てて部屋へと戻りもう一度扉を開ける。
「暑ーい!!」
今度は溶岩地帯だった。
「……この扉、バグってやがる。」
何度か開閉するうちにようやく洞窟へと繋がった。不安を感じながらも索敵を使用し、モンスターの場所を把握する。
「近くなってきたな。一応、感知、と」
そして目の前に現れたのはスライムだ。だが朝のスライムと違ったのは速さだった。
「おいおい!朝はあんなに遅かったのに今度は速いだと!」
こちらに向かってくるスライムの速さが異常に速い。まるで大人が全力疾走するスピードでこちらに突っ込んできた。
「うおっ!!あぶね~」
感知のお陰でなんとかギリギリでかわす。だがスライムは助走も無しで再びその勢いで飛びかかってくる。
「ひぃ!?」
情けない声を上げ、不格好に避ける。再び感知を使用し身構える。今度は壁を背にして。そんな俺にスライムはまたも飛びかかってくるが、3度目となると流石に反応もできる。素早く躱すとスライムはそのまま壁に激突、一瞬止まったその隙に俺は包丁で核を潰した。
「ふぅ~…」
『スキルポイントを30P獲得しました。』
すると例の機械音声が聞こえた。
「朝は10Pだったのに…もしかして、強さに応じて貰えるポイントがかわるのか」
スキルツリーを確認する。
「何を選ぶか…」
チラリとスライムが激突した壁を見れば僅かに壁が窪みができている。
「あんなの喰らったら骨が折れるな…」
となれば回復系か守備系のスキルだろうな。
「回復スキルは、500Pか。高いな~」
ならばと守備系のスキルを確認する。
「この硬化とかちょうど30Pか。コレにしてみるか」
ポチッと画面を押せばすぐにスキル名が明るくなる。
「硬化!」
スキルを発動するとすぐに体が硬くなった……のだが
動けないだとーーー!
スキル効果が切れるまでまったく動く事ができなかったのだ。そういえば昔やったことのあるゲームもそんな感じの仕様だったな。
「失敗した……」
がっくりと項垂れる。防御ができてもすぐに攻撃できないと意味がない。コレは仲間が居て活きるスキルだろう。
「よし!切り替えて次だ次!」
ブラックな会社ではいちいち落ち込む暇もないので、切り替えは早い方だ。俺は再び索敵を使用し近くのモンスターへと向かう。
「お!今度は遅いスライムだな」
それは朝に見たスライムと同じくらいの遅さで、簡単に岩で核を割る事ができた。
『10ポイント獲得しました』
やはりモンスターの強さによってポイントが変わるようだ。
「そういえば索敵の横にまだ数字があるな?」
スキル画面を見て不思議に思う。索敵の横には5という数字。気になった俺は索敵を押すと
『索敵のレベルを上げますか?』
例の機械音声が聞こえた。
「なるほど!獲ったスキルのレベルも上げれるのか!あ、でも生活魔法は横に数字がないな……」
おそらくスキルによるのだろう。とにかく索敵のレベルを上げて使用してみると。
「おお!範囲と表示時間が長くなった!」
今までよりも広範囲の索敵ができるようになっていたのだった。
吉良 彼方 34歳
スキル 生活魔法 索敵LV2 感知 硬化
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