第1064話 昔のまま

 一旦、火がついた経済のエンジンは止まらない。


 移住者が持ち込んだものを金に変えようと動き出し、マリットル要塞に物資が回り出した。


 持ち込めた物資だけでは限界があったのだが、ソンドルク王国に知られたのか、行商人が現れるようになったのだ。


「ソンドルク王国の商人も強かですな」


 マグレットが呆れている。


「それでも麦は入ってこないか」


 やはり足りてないんだろう。もしかして、行商人の中にスパイとかいるのかもしれんな。


「ランティアックから運んでいるのがバレたら攻めてくるのではないですか?」


「それならそれで構わない。マガルスク王国を纏めるために犠牲になってもらうさ」


 オレにソンドルク王国を優遇する得はない。それどころか損害を出してもらってコラウスにちょっかいをかけないようにしてもらいたいね。


「想定済ですか」


「想定しているだけさ。済にするにはもっと兵士を鍛えてもらわないとな」


 ソンドルク王国にどれだけの数を出せるかわからんが、こちらは要塞。二、三千人を連れてきて、攻城兵器もないと落ちることはない。そもそもソンドルク王国にそれだけの胃袋を支えられる食料を持っているかも怪しい。


「少人数で攻めてきて、主要な者を暗殺する、ってのを警戒しろ。お前はもうマガルスク王国を支える一翼なんだからな」


 要塞司令官なら一番に狙われるだろうよ。


「……どちらにしろ大変なことになるんですね……」


「そうしないために部下を育てるんだよ。要塞で働きたいって者はいたか?」


 オレが活気づけるために動いている間、マグレットには兵士勧誘をさせていた。


「まあ、三十人くらい雇いました」


「そうか。しっかり教育しろよ」


 とりあえず兵士たちの訓練に放り込んで鍛えてもらい、鍛えられたら要塞に配備したらいいさ。


「オレは少し離れる。ランティアック方面の道造りの様子が気になるしな」


 ルースブラックに物資を運ぶように伝えてある。食料は足りているだろうから食うには困ってないが、もう一月は過ぎている。巨人とドワーフの組み合わせなら下手したら終わっているかもしれない。


 放浪組にはまだまだ付き合ってもらいたいからな、旅立たれていては困るんだよ。


「メビ、いくぞ」


「了ー解」


 ルースミルガン改に乗り込み、内陸部にある湖を越えたら、なんか人間とバデットの戦闘が行われていた。


「生き残りがまだいたんだな」


 ここならカインゼルさんたちが通ったはず。それなら遭遇していると思うんだがな。ラダリオンからそんな話は聞いてないぞ。


「メビ。やるぞ。416でいいか?」


「全然余裕」


 オレは全然余裕じゃないんだがな。まあ、戦闘強化服を着ている。首を跳ねれることはできる。


「じゃあ、やるぞ」


 急降下し、十五メートルくらいでメビが飛び下りた。


 戦闘強化服以上の肉体を持つメビにはなんてことはない高さのようで、バデットをマットにして着地した。


 オレはルースミルガン改があるので少し離れた場所に着陸させ、マナ・イーターを取り寄せた。


 準備運動をイチニッサン。よし、やるか!


 肉離れしてもおかしくない年齢。戦闘前の準備運動は必須だ。戦闘強化服を着てても足がつったときはびっくりしたよ。


 メビの邪魔にならないよう離れたところのバデットの首を狙ってマナ・イーター振り払っていった。


 バデットは二百匹以上いそうだが、メビは的確にバデットの足首を狙って行動を奪っていっている。


「お前たち! 逃げろ! 邪魔だ!」


 どこの誰だか知らんが、固まっていられると邪魔でしかない。オレは周りに配慮しながらは戦えんからな。


「た、頼む!」


「いく場所がないならランティアックかマリットル要塞を目指せ! そこなら安全だ!」


 どちらも遠いが、希望はあったほうがいい。オレたちは付き合ってやれないからな。


 返事はなかったが、こちらも聞いてやる暇はない。メビの弾で行動力を落としたバデットの首を跳ねてやる。それでも死なないのだからたっぷり魔力を溜め込んでいるようだ。


「どこからか魔力補給を受けているのか?」


 ずっと溜め込んでいられるわけもない。だからと言って魔力を作り出すのも無理だ。呪い(魔法)で動かされているのたからな。


「ゾンビみたいに魔力を奪っているのか?」


 なんて考えている間にバデットは根絶やしに。魔力を吸われたらただの屍。あとは腐るだけだろう……。


「タカト、大丈夫?」


「あ、ああ。でも疲れたよ」


 久しぶりにこんなに動いた。明日は筋肉痛かな?


「しかし、バデットと戦うの初めてなのによく戦い方わかったな」


「どんな敵も足を撃てば動けなくなるものだよ」


 うん。才能のバケモノだったな、メビは。


「ふふ。まったくそのとおりだ」


 もう頭を撫でるような年齢でも見た目でもなくなったが、つい頭を撫でてしまった。


「いつまでも子供扱いなんだから」


 プンプンと怒りながらもまんざらでもないメビ。こういうところは昔のままだな~。


「ふふ。さて、そろそろいくか。休むのはあちらでやろう」


 ルースミルガン改に乗り込み、飯場へと向かった。


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 第22章が終われば、『ダメ女神からゴブリンを駆除しろと命令されて異世界に転移させられたアラサーなオレ、がんばって生きていく! 3』に移ろうと思います。よろしくお願い致します。

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