第1063話 マリットルの湯 下
風呂文化のないところ。最初は誰も入ろうとしなかったが、そこは兵士を入れたら問題はない。
兵士たちには金を払ってあるので一湯、銅貨二枚。湯上がりに飲む安ビールは銅貨一枚。ツマミはソーセージの盛り合わせ銅貨二枚で出した。
金はこちらで出し、安ビールもソーセージもこちらから提供している。それで儲けるってことはないし、する気もない。すべてはマリットル要塞を活気づけるため。金で信頼を買えるなら安いものだ。
兵士は請負員にしているので十五日縛りはないも同然。春まで続いて新たに風呂屋ができたらオレらが離れたところで問題はないさ。
兵士たちが入り、訓練で流した汗をさっぱりとさせたら安ビールで水分を補給。空いた腹をソーセージで満たす。
それを五日も続けたらゴブリンの死体を片付けるヤツらも興味を持ち始める。
金は行き渡っているので風呂に入るくらいの金はある。それでも我慢していたようだが、美味そうに飲む安ビール。パリッと弾けるソーセージ。それに堪えられるヤツなんてこの世にはいない。すぐに安ビールとソーセージに屈したよ。
「もう一つ増やすか」
人気になりすぎて二つでは足りなくなり、入る時間が集中するので、兵士にも片付け員にも休みを設けることにした。
「屋台ができることがわかっていたのか?」
いつの間にかできていた屋台に、アルズライズが驚いていた。
「まーな。そこに海があるし、ソーセージは値段を高めにしておいた。そこに商売に割って入ることができるようにな」
さすがに酒で入ることはできないが、魚なら誰でも釣れる。焼き魚を銅貨一枚で売ったらそちらに移る者も出るだろうさ。
一旦、儲かるとわかれば人は真似するもの。調味料を安めに売ってやればさらに違いが出てきて、人気屋台が現れる。
「てか、帰ってたんだな、アルズライズ」
移民を連れにアレクライトで出ていたアルズライズ。思ったより早い帰還だな。
「アレクライトの足なら八日もあれば余裕で戻ってこれる」
それでも早いってことは移民がもう集まっていたってことだ。
「移民、そんなに多いのか?」
「集まっていたのは五百人いたが、今回は百人は連れてきた。荷物も制限しなかったから商売に拍車がかかるだろう」
「そんなにか。もう降ろしたのか?」
「ああ。さすがに港では問題があるだろうから少し離れた場所に降ろした。あとは男爵に配分してくれ」
「わかった。移民はこちらで片付けておく。また移民を運んでくれ」
「次は商人も混ざってくる。ここで使ってやってくれ」
「商人もか」
「新たな地で一攫千金を夢見たのだろう」
それだけ都市国家は停滞しているってことか。なかなか大変な世のようだ……。
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