第1061話 昼行灯タイプ 下
まずは司令室にある作戦台に紙を敷いてマガルスク王国の地図を描いた。
「この要塞がある意味はなんだ?」
「ソンドルク王国からの侵略を防ぐためでは?」
「それもあるが自国民を外に出さない意味もある。さらに言えば内戦になったときの避難場所にも使われたりもする」
そうでなければこんなに頑強なわけがない。当初からそんな目的があって造られたんだと思う。
「こんなものを造るには造るなりの理由がある。そう考えたとき、要塞の在り方をどうするか見えてくるものだ」
要塞の価値は左右に別の組織があってこそ。マガルスク王国が復活してくれないと存在価値はないも同然だ。
「今はマリットル要塞はなんの価値もない。守るべき国も攻めてくる国もない。それがマリットル要塞だ」
「では、おれはなにをしたらいいんです?」
「マリットル要塞の価値を上げるんだよ」
「? どういうことです?」
「今は価値はない。だが、いずれ価値は出てくる。それまでマグレットはマガルスク王国やソンドルク王国の情勢、要塞兵の教育、左右の町の再建、などなどやることはたくさんある。価値のない時期だからこそ、その間にやれることをやるんだよ」
要塞の価値を教えたら次は要塞の人事だ。円滑な人の運用で要塞は最強にも最弱にもなるものだ。
今の司令室はいないも同然。司令官、副司令官、参謀やらを決めるとする。
「うーん。できるヤツは男爵にもっていかれてたよ」
そこまでは考えていなかった。いや、要塞のことを後回しにしたツケが回ってきただけか。
「仕方がない。町から調達してくるか」
ソンドルク王国側にある町には千人くらい住んでいる。そこもほとんど持っていかれただろうが、残り物には福がある、ってこともある。兵士は将軍が率いるのだから戦闘力は望んでない。要塞を回せればいいのだ。
「メビ。なんかあったら頼むな」
戦闘強化服を着るの面倒だったから大した装備じゃないんだよ。
「了ー解」
久しぶりにメビの「了ー解」を聞いたな。出会って一年とちょっとなのに、それ以上に聞いているような気がするよ……。
「マグレット。お前も気に入ったら声をかけろよ。使えそうと思うなら女性でも構わないぞ」
おそらく女性は連れていかれてないはず。いないときは女性を要塞兵にすればいいだろう。まあ、女だけの職場じゃ気が休まらないだろうから男中心にするがな。
「そんなこと言われても……」
「人を見る目も養え。司令官たるもの人の本質を見抜けるようにならないとダメだ」
賢いだけじゃ上には立てない。賢さより人を纏める力を持つほうが大事なのだ。
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