第1056話 八人の男爵

「移住か。まあ、簡単に人を増やすにはそれしかないだろうなな。だが、移民はいろいろ問題が出るぞ」


 それはわかる。元の世界にも移民問題はあったからな。


「多少の問題は仕方がないさ。解決策として、要塞で優秀なヤツを男爵にして領地を与える。そいつに苦労してもらう」


「またとんでもないことを。前代未聞だぞ」


「何事にも初めてはある。これがそうだっただけ。爵位を与えたところで文句を言ってくるヤツはいないんだからやっあれだ。仮にいたとしてもランティアックの名で爵位を与えたことにすれば文句を言えるのはミルズガンだけさ」



 文句を言ってくるのが一つだけならなんとでもなる。力はこちらのほうが上なんだからな。


「……お前、案外強行に事を進めるよな……」


「自分の命に関わることだからな。強行でやれることなら遠慮なく強行するさ」


 のんびりやってられるほどオレの運命は優しくない。ダメ女神がどう接触してこようと生き抜けるようにしておかなくちゃならんのだ。恨みを買わないのならどんどんやったれ、だ。


「五人くらい選出できるか?」


「まあ、声をかけてみる」


 そして、呼び出されたのは八人だった。こんなにいるのか?


「野望があってよし。なんなら伯爵にさせてやるぞ。まあ、死ぬまで苦労を背負い込むだろうがな。やりたい者、挙手!」


 残念ながら優秀な故に伯爵になる旨味がないと即座に計算したようだ。誰も手を挙げなかったよ。


「残念だが、まあ、いいだろう。全員を男爵とする。まずは家名を考えて、オレに伝えてくれ。ランティアック辺境公に伝えて承認してもらう」


「この男は本気だから下手に野望を見せるなよ。でないと夜も眠れぬほど仕事を回されるからな。ほどよくやるんだぞ」


「お前はどっちの味方だよ?」


「こいつらはおれの部下だ。部下を守るのは上司の役目だ」


「なら、お前が伯爵になるか?」


「断る。おれはアレクライトの船長だ。陸に揚がることはない」


 さらに残念だ。こつなら伯爵になってこの地を纏めて欲しかったんだがな。


「そっか。でも、ちゃんと後継者は育てておけよ。あの船は千年先も残る船なんだから」


 万が一のときはエレルダスさんに任せると言ってある。あれは権力者の手に渡ってはダメなヤツだからな。


「わかっている。おれが元気なうちに見つけて、立派な船長に育てる」


 アルズライズも考えてはいたんだな。よかったよかった。


「領地はそちらで決めてくれ。その間に移民を募るとしよう」


 すぐに、ってわけにもいかない。少しずつ広めて、少しずつ連れてくることにしよう。


「じゃあ、八人は仲間を募れ。領地は一人で運営できないからな。優秀なヤツは早い者勝ちだぞ」


「それだと要塞が回らなくなるだろう」


「外に人はいるんだから雇って鍛えろ。領地には兵士も必要なんだからな。纏めて雇って纏めて鍛えろ。アレクライトでカロリーバーは生産できるんだから食い物で釣れ」


 まずは食うために兵士として働くだろうし、優秀なヤツには役職を与える。そうやって増やしていくんだよ。


「外にはまだゴブリンがいる。優秀なヤツを釣るためにもエサ代を稼いでこい。下からしたら食わせてくれる上司が正義だぞ」


 マガルスクが正常なときは、一兵が男爵になるなんて夢物語だったはず。それが、こちらの手引きで男爵になれ、領地までもらえる。苦労しなかった分は違うことで苦労するといい。


「はぁー。お前は仕事を振る天才だよ……」


「できないヤツややる気のないヤツに振ったりしないよ。お前が認めたヤツなら優秀だってことだ。なら、遠慮なく仕事をさせる」


 アルズライズが選んだ時点でこいつらは嫌でも働かせる。それだけの見返りを渡すんだ、できませんなど言わせんぞ。


「さあ、時間があるようであまりないぞ。速やかに領地経営できるよう人を集めて教育を施せ。マガルスク王国の未来はお前たち次第だぞ」


 八人のケツを蹴ってやり、すぐに働かせた。


「アルズライズ。ここを任せられるようなヤツはいるのか?」


「そう簡単に任せられるヤツなどおらんよ」


 まったくもってごもっとも。


「それならソンドルクから連れてくるしかないな」


「それはもう侵略だぞ」


「もしものときはマガルスク王国をソンドルク王国に併合するさ。もう王族はいないみたいだからな」


 捜せばいるかもしれんが、それを証明できるヤツはこの世にはもういない。なにを言ってきても振り払ってやればいいさ。


「……そこまで考えていたのか、お前は……」


「オレの世界ではよくあったことだ。弱い国に存続する権利はない。強い国に飲み込まれるか属国になるか、下手したらドワーフのように家畜にされるかだ」


 まあ、それは万が一のとき。オレはマガルスク王国が残るように動いていくさ。仮にソンドルク王国が敵になったとき、マガルスク王国を引っ張り出してきてマガルスク王国に併合させてやるさ。


「お前だけは敵にできんな」


「オレもお前を敵にしたくないよ」


 アポートウォッチで酒と菓子を取り寄せ、久しぶりに飲みにケーションをやろうじゃないか。

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