第1054話 土木商会

「タカトさん。ゴブリンが下がりました」


 山の道に取りかかって数日。ミリエルがそんなことを言ってきた。


「不自然にか?」


「いえ、最前線を切り捨てて規律よく本隊が下がりました」


「将軍らしき姿は確認したか?」


 ミサロからの情報では身長三メートルくらいはあり、白銀の鎧を着ているそうだ。


「いえ、それらしき者はいませんでした」


「ゴブリン以外の存在は?」


「いないと思います。特異体らしき存在は何種類か確認しましたが」


「……ドワーフはいないか……」


 ランティアックで巨大な肉人形を操っていたヤツはドワーフだった。だからドワーフの部隊もあるかもと思っていたが、出てこないとなると単独犯だったのか?


「まずは様子見だな。王都に逃げるか、別の場所に逃げるか、今の段階ではどうにもできんな」


「はい。ニャーダ族に探らせます」


「アリサたちは戻ったか?」


「まだです。カインゼルさんを呼びますか?」


「いや、カインゼルさんたちにはランティアックを守ってもらう。エサとして狙いにくるかもしれないからな」


 近隣の生き残りやドワーフが集まっているからゴブリンにいいエサと思われる可能性がある。守りを外すことはできないのだ。


「あまりいい流れではないが、こちらはゴブリンを駆除することを第一とする。罠と思ったら逃げてもいい。たとえ、女子供を盾にされてもだ」


 オレたちは正義の味方でも人間の代表でもない。憤怒にかられて飛び出すほうが愚かだ。見捨てて構わない。


「わかりました。また動きがあったら連絡します。そちらはどうです?」


「ちょっと難航している。五メートル幅の川があって橋を作るか、そのままにするか悩んでいる。土魔法に長けたマイセンズのエルフがいるといいんだがな」


 マイセンズのエルフは地下の作業をやっているとか報告が上がっている。元々少ない数だからこちらには回せないだろうよ。


「それならドワーフの連中を使って。皆、仕事がなくて暇してた」


 とは、ラダリオンだ。


「畑とか耕しとかしてないのか?」


「畑はトラクターで終わらせたわ。今は春を待つ感じよ」


 とは、ミサロだ。


「ってことはまだ先ってことか」


「そうね。麦は人間の生き残りがやるからドワーフたちは暇なのよ」

 

 うーん。見通しが甘かったか~。


「じゃあ、小さな橋はドワーフにやらせて、川幅があるところは放浪組に作ってもらおうとしよう」


「じゃあ、ルースブラックがきたら飯場まで運んでもらうように伝えるわ」


 放浪組が拠点にしているところを飯場と呼んでいるのだ。文字どおり、飯を作る場所なんでな。


「了解。じゃあ、ドワーフが寝泊まりできる家が必要か。大事業になるな」


「タカト。おれ、都市国家にいってもいい? メビがこっちにきたいんだって」


「メビが? ガーゲーにきてるのか?」


「ううん。ロンレアにきてる。都市国家の穀物を運んでる」


「雷牙はいいのか? 代わるってことだろう?」


「おれは構わないよ。マガルスクにいてもゴブリン駆除できないならあっちで食料を集めるよ」


 雷牙は本当に成長したものだ。一兵卒より裏方として物を考えるようになっている。このまま成長してくれたら一部隊を預けられるな。


「それは助かる。手に入れたらホームに入れてくれ。ドワーフや巨人に食わせるから」


「了ー解。たくさん集めるよ」


 食料が確保できるなら問題は解決したようなもの。すぐにドワーフがやってきて小川をかける橋作りを始めてくれた。


「職人だったのか?」


 ドワーフの中に場を仕切るヤツがいて、まっとうな橋を作ってしまった。


「マガルスクではドワーフは職人にはなれません。見て覚えました」


 スゲー。一昔前の見て覚えろをやってたんかい。


「よし。お前、人を纏めて土木商会をやれ。ランティアックから金を出させるから」


 橋を作れるヤツがいるならどんどん道を作らせる。ソンドルク王国とマガルスク王国を距離を縮めるぞ。


「お、おれなんかでいいんですか?」


「構わない。その技術でのしあがれ。ドワーフの技術力をしらしめろ」


 巨人と一緒にやれば百年後には林道並みの道がソンドルク王国・マガルスク王国間にできているぞ。


「は、はい、がんばります」


 ああ、全力でがんばってくれ。


 雷牙がホームに食料を入れたくらいにメビがやってきた。


「見ないうちにさらに成長したな」


 見た目年齢は十七歳くらい。初めて会ったときの幼さは完全に消えてしまっていた。ニャーダ族の成長力、ハンパねー。


「来年にはタカトを追い越すかもね」


 百六十五センチはあるだろうか。本当に追い越されそうだ。


「それはそれで悲しいな。メビとビシャは小さいままのイメージだからな」


 なんでこんなに成長力が凄まじいんだろうな? オレも百八十は欲しかったよ。ここじゃ貧弱に見えんだもん。


「せっかくきてくれてなんだが、今は道作りと橋作りばかりだ。巨人が動いているから魔物も逃げた。暇だぞ」


「構わないよ。タカトの側にいるほうが暴れられるし」


 いや、ここ一ヶ月、暴れることなかったんですけど。オレ、トラブルメーカーじゃないからね。


「しばらく暇してろ」


 オレは食っちゃ寝の繰り返しだけどな!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る