第1053話 英雄ではない

 道作りは順調だった。山があるところまでは……。


 そう高い山ではないのだが、RMAXが通れて登れるような道にするとなると、山沿いに作り、橋などを作らないといけなかった。


「参ったな。時間がかかりそうだ」


 山の中で野営となり、タダオンに相談してみることにした。


「おれらは構わないぞ。ここなら獣もいるしな、どこかに拠点を作って春までに道を作るぞ」


 だったらマーダ村でもいいだろう、とは言わないでおく。放浪組にしかわからないことがあるんだろたいからな。


「そうしてくれると助かる。報酬はなにがいい? 拠点を作るなら小麦粉や塩を運ぶぞ」


「服と靴をくれ。布でも構わない」


「金は?」


「それはいらん。おれらには使えないからな」


「わかった。人数分の靴と服、あとは布を用意しよう。ただ、十五日くらいかけて渡すな」


「わかった」


 巨大化させるにはかなりのエネルギーを使うことは説明しているので、あっさりと承諾してくれた。


「じゃあ、マーダ村に戻って靴を作ってもらうように言ってくるよ」


 タダオンたちのようにぴったりの靴ではなく、山を歩ければ問題ない靴でよく、服は女性陣がやるそうなのでサイズは問わないそうだ。


 ルースミルガン改を出してマーダ村へと飛んだ。


 五日ほどしか時間は過ぎてないが、人が増えたことで村作りが目に見えて進んでいた。


 放浪組の靴を頼んだら小麦粉を仕入れるためにランティアックに飛んだ。


 ゴブリン駆除なのにゴブリン駆除してないが、ダメ女神が口を出してくることはないので巨人のことに集中させてもらいます。


「ん? 報酬が動いた」


 いや、毎日のように報酬は跳ね上がっているが、今回は五百万円くらい一気に増えた。


「約千五百匹か。ミリエルのところか?」


 一気に千五百匹も駆除できるのはミリエルが混ざっていなければ不可能だろう。


「本隊が動いたか?」


 そうだとしてもミリエルがいるなら不安はない。援護が必要なら合図を出すだろうからな。


 ランティアックに着いたら男爵に面会し、小麦粉をわけてもらうようお願いした。


「冬の前に粉にしたものがあるから持っていくといい」


「気前がいいですね」


「粉にしたものは保存には適さん。カビる前にお前に渡したほうが有効に使うだろうと思ったまでだ。で、なにに使うのだ?」


「今、巨人にソンドルク王国とマガルスク王国を結ぶ道を巨人に作らせています。道が完成したらランティアック辺境公は陸の孤島になることもなければコラウス辺境伯代理が味方となります。ミルズガンが生き抜いたとしてもランティアックの発言力は衰えることはないでしょう。マリットル要塞もこちらが抑えてますしね」


「ふふ。地図が塗り替えられるな」


「現在のマガルスク王国では自分で守り切れないのですから仕方がありません。ランティアックの名がこの世から消えないだけよしとしてください」


「もちろん、文句はないし、ランティアックの名が残ることに感謝している。好きなように地図を塗り替えてくれ」


「話のわかる方で助かります」


「しかし、巨人を味方にして得はあるのか? 食料がとんでもないことになるだろうに」


「巨人は輸送にも戦力になります。ソンドルク王国とマガルスク王国の間を巨人の国とすれば文句を言う者はいません。両国が多少の費用を出せば無敵の軍隊を呼ぶことができますよ」


「……お前は恐ろしいことを考えるな……」


「両国のためでもありますが、これはオレのためでもあります。歴代の駆除員は凶悪な数のゴブリンか災害に匹敵する事象に殺されています。その二つに対峙するにはこちらも数を揃えるか、災害級の戦力を持つかです」


 そもそも駆除員としてのキャパを超えることばかり起きており、どんな優秀な者でも乗り切るなんて不可能。それを押しつけるダメ女神が間違っているのだ。


 オレは運がよかった。幸運が続いてくれた。だが、それに甘えてはいられない。自分の身と家族を守れるよう動かなければならない。ダメ女神がちょっかいかけてくる前にオレたちの生存圏と対抗できる力を持つのだ。


「……まるで英雄の考え方だな……」


「弱い者の考えですよ」


 オレが英雄になる必要はない。英雄を目指すつもりもない。オレなんかより英雄に向いた者が多くいるんだ、そいつらをお膳立てして、真の英雄にしてやればいい。オレは影に隠れてていいんだ。表に出る必要はないのだ。オレの目的は寿命で死ぬことなんだからな。


「……そうか……」


 とだけ呟いた。


 この人は、こちらの言葉を否定しない。どんな事実でも受け入れて、それに合わせて動き出す。


「理解ある人で助かります」


「ふふ。持ち上げてもなにも出せないからな」


「必要なときに必要なものを提供してくれるだけでこちらは大満足ですよ。そちらもなにか必要になったら言ってください。可能な限り、用意させていただきます」


 オレの勘が言っている。この人は絶対に味方にするべきだとな。いや、それは前からか。公爵並みにキレる人だからな。

 

「そのときは頼むよ」


 敬礼して答えた。

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