第1052話 胸の中に仕舞い込む

 ロースト村から帰ってきたらタダオンたちが戻っていた。


「明日から道作りを始めようと思うが、どうだ?」


「おれたちは構わない。そろそろ移動しようかと思っていたからな」


「移動? 冬の間はここにいるんじゃなかったのか?」


「族長の命令だ」


 それ以上答えるつもりはないのがわかったので、追及することはしなかった。このままいたら堕落しそうだとわかったんだろうな。


 明日は発着場に集合ってことで解散。オレはマリャのところに手紙を届け、湖側の小屋に向かった。


「順番制なのか?」


 ルディームのチームのヤツがいた。


「はい。これと言ってやることもありませんから」


「それなら発着場の様子も見てくれ。定期便が降りてきたら声をかけるくらいでいいから」


 降りなくてもコラウス・マガルスク王国間は飛べるが、急ぎでもなければ降りてくるときもある。そのときにここの情報を伝えてくれると助かる。


「わかりました」


 よろしくと、発着場からホームに入った。


 明日のためにも巨人になれる指輪にエネルギーを溜め込み早めに就寝。朝の五時に起きて栄養剤中を一粒飲んだ。ふー。


「ミサロ。巨人たちの食事を頼むな」


 報酬とは別に放浪組の食事はこちらで用意する。少しでも堕落させておかないとな。古い考えを破るには贅沢を覚えさせるほうがいいからな。


「任せて。美味しいのを作っておくから」


 そのためにも装備は簡素にし、朝飯を積んだRMAXで外に出た。


 外はまだ暗いが、RMAXのライトで朝飯を巨大化させていき、終われば元に戻ってカロリーバーを食った。


 なんだかんだと栄養剤の次に効率よく、体に負担なく指輪にエネルギーを溜められるのはカロリーバーなんだよな。さらにいいことに食費もかからんし。ただ、飽きるってのを我慢すれば、ってだけど。


 陽が昇ると、旅姿の放浪組がやってきた。


「おはようさん。朝飯を用意したからたくさん食っていい道を築いてくれ」


 五十人分の朝飯を巨大化させるのは本当に大変だったよ。カロリーバー、また食わんとな。


 一人ハンバーガー一個だが、カロリースープも出しているので腹一杯になるはずだ。マーダ族はそこまで大食漢じゃないしな。


「鍋は持っていってくれな。また使うから」


 寸胴鍋デカくしたり元に戻したりでエネルギーを使いたくない。面倒でも運んでもらうとしよう。


「よし。これが通れるくらいの道で頼む」


 道具を持たせて道作りを開始した。


 どうするかは放浪組に任せる。オレは後ろからついていく。昼のために巨人になるエネルギーを摂取しないといけないのだ。


 指揮はタダオンと年配の男だ。族長は二人に任せて道を均していた。


 五十人もいて、一列になって進んでいるので全体は見れないが、交代で切り拓き、休憩するために後方にきている。


 連携が取れているので進みは早く、昼には十キロは切り拓けた。


 このままなら一日二十キロ。約五日ってところか。ただ歩くわけじゃないから仕方がないか。


「昼にしよう!」


 そう呼びかけて昼の用意を始めた。


 昼はコス○コのディナーロールにジャムを出し、放浪組の女性陣にカロリースープを作ってもらった。


 思い切りサボってしまったが、夜に向けて指輪にエネルギーを溜めなくてはいけないのだ、昼はそれで我慢してください。


 放浪組はあまりおしゃべりではない。タダオンが窓口となって昼飯の用意をした。


 これと言った文句はなく、ただ、雰囲気は悪くはない。昼飯に満足しているようだ。


 ……オレはカロリーバーばかりで嫌になるよ……。


 昼飯が終われば再開。もっと休んでもいいのに働き者だな、放浪組は。


 黙々と道を築いていき、予想どおり二十キロ進めた。


「夜は酒を出そうと思うんだが、どうだ?」


「それはありがたい。頼むよ」


 タダオンたちは大喜びだ。やはり攻略するのはこちらだな。


「二日酔いになるほどはダメだぞ」


「わかっているよ」


 タダオンも冗談がわかるようになっている。まだ柔軟な思考を持っている。掟だけではどうにもならないのが欲は怖いものだ。


 夕飯は冷凍肉団子入りのトマト煮だ。トマトがないので口に合うかどうか心配だったが、結構口に合ったようだ。


 ワインにも合うのでコップ三杯は飲んでいた。こりゃ、明日起きれるかな?


 巨人が五十人もいるから夜に見張りに立つこともない。酒に酔った者がそのまま寝込んでしまった。今冬だぞ。大丈夫なのか?


「困った男たちだよ」


 女性陣はあまり飲んでいないようで、酔いどれどもに毛皮をかけていた。


 オレは踏まれたらたまらんので、巨人たちの輪から外れたところで様子を見ていた。


「あの二人か」


 やっと見つけた。ラダリオンの両親。そして、母親は産まれたばかりの子供を背負っていた。


「母親似なんだな」


 栄養が足りなく、髪はボサボサだが、顔つきがラダリオンとそっくりだ。


 ずっと気になっていた。ラダリオンは別に会う気はないみたいだが、親が娘を捨てたことを気に病んでいたらと。だが、見ている感じ、そうでもないようだ。


 安心した。あれなら娘が生きていること伝える必要もなさそうだし、ラダリオンに伝える必要もなさそうだ。


 これはオレの胸の中に仕舞い、ホームへと入った。

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