第1051話 紙

 靴作りをがんばってくれたお陰で三日で五人の靴が完成した。


「数日は慣らして、不具合があったら直すよ」


「わかった。少し歩いてくる」


 履き心地は悪くないようなので、慣らすために森の中に入っていった。


 その間にドワーフのところに向かうと、かなりの数の小屋ができており、畑でも作ろとしているのか木を伐っていた。


「マリワ。順調のようだな」


 なにか蔦で籠を編んでいたマリワに声をかけた。


「はい。皆も体力を取り戻して果樹園作りを始めました」


「そうか。なら、ここに住むことを決めたんだな」


「はい。ここを故郷にすると皆で決めました」


 それはなにより。巨人と上手く関係を築いてくれることを願うとしよう。


「ここの名前、決めたか?」


「マルビグ村にしました。わたしたちには馴染みのある名前ですから」


 まあ、マルビグの名を継ぐ者はいなくなったんだろうし構わないだろうよ。


 その名前を認めてやり、カロリーバーとスープを出してまたマーダ村に戻った。


「あ、タカト様。少しいいでしょうか?」


 ガガリの嫁さん(未だに名前を知りません)が声をかけてきた。どした?


「申し訳ありません。手紙をロースト村に届けて欲しいのですが、お願いできますでしょうか?」


「文字、書けるんだ」


「はい。大体の者は書けます」


 そうなんだ。ラザニア村で誰も書いているところ見たことないから字、書けないと思っていたよ。


「なにに書くんだ?」


 紙は高価なものだよな。だからドワーフに作らせようとしてるんだし。


「紙です」


「え、紙? 紙作れんのか?」


「はい。ロースト村で作っています」


 作ってんのかい! 城では聞かんかったぞ!


「まあ、外に出ませんからね、知らないのも当然かと」


 出せよ! 立派な産業になるじゃねーか!


「ロースト村に紙を作れと書き足してくれ。紙、セフティーブレットで高く買うから」


「わ、わかりました」


 新しい紙にペン(あるんかい!)で書いてくれた。ロースト村、もっと見ておくんだったよ。


「お願いします」


 丸めた紙を受け取り、ホームに運んだ。ルースミルガン改には入らんのでな。


「じゃあ、届けてくるよ」


「お願いします」


 ルースミルガン改に乗り込み、缶コーヒーを飲みながらゆっくり飛んでもすぐに到着。戦闘強化服を脱いで巨人になった。


「村長。ガガリの嫁さんからの手紙を届けにきました」


「マリャからですか?」


 あ、嫁さん、マリャっていうんだ。そういや、そんな名前が飛んでいた記憶があるな。オレ、頭に入れようとしないと人の名前って入ってこないんだよな。


「ああ。手紙にも書いてあると思うが、ロースト村で作っている紙をセフティーブレットで買わしてもらうよ」


「紙、ですか? まあ、構いませんが、今はそんなに作ってませんよ」


「これから作ってくれたらいいよ。追いつかないならドワーフに作り方を教えてくれ。領主代理に上手く伝えてロースト村の待遇をよくしてもらうから」


 これから紙は必要になる。コラウスで作れるなら産業にしてもらおう。紙がないと事務作業が滞るからな。


「わ、わかりました。作ってセフティーブレットに送ります」


「じゃあ、前金を渡しておきます。必要なものがあったら買ってください」


 最近、使ってない金貨を三十枚くらい渡した。


「マリャに返事を書きたいならゆっくり待ちますよ」


 ちょっとロースト村を見学したいしな。今度はちゃんと観察しよう。


「では、お願いします」


 まだ巨人になったばかりなので、そのまま村を歩いて見て回ることにする。


 よくよく見ると、ロースト村って家並みが整然としてんな。家もラザニア村より大きくて何軒だが、二階建ての家があった。


「ビルじゃん。なんで気がつかなかったオレ?」


 興味なかったにもほどがある。オレの目、どうなってんだ?


 窓には障子のようなものが嵌め込まれており、左右に動かせる作りだ。これは絶対、駆除員が関わってんだろう。数年しか生きてなかったのに影響力スゲーな。オレ、なに一つ前の世界のこと広めてねーぞ。


「あ、なんか既視感があると思ったら岐阜だか長野にある合掌造りってヤツじゃね? なんかテレビの旅番組で観たことあるわ」


 そう思うと、なんか日本昔話みたいな村に見えてきたよ。


 広場から見た家は西洋風だったが、あっちは新しいからか。古いところ日本家屋風なんだな~。


「……本当にたくさんの駆除員が送り込まれては死んでいったんだな……」


 無念にも死んでいった同胞たちを思うと自分のことのように悲しくなる。もっと生きたかっただろうに、ダメ女神のせいで人生を狂わされた。神を殺せる弾丸をくれるなら悪魔にでも魂を売ってやるよ。


「いや、悪魔に魂を売れんか。自分以上に幸せにしてやらないといけない存在ができたんだからな」


 寿命で死ぬ目標は変わってない。だが、それ以上に皆の未来を守りたい。皆と一緒に生きていきたいのだ。


 そのためにもダメ女神に邪魔される前に準備は進めておくとしよう。オレたちが生きやすいような世界に創り変えてやる。


「絶対に死んでやるものか」


 決意を新たに自分自身に誓った。

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