第1049話 意識改革

 朝の五時に外に出た。 


 まだ陽は顔を見せていないが、ロースト村からきた者の様子が気になったので早めに出てきたのだ。


 放浪組がどう思うかわからない。これまで他と関わりを持とうとしなかった一族。欲を刺激して懐柔したが、放浪組と定住組の意識の差があった。その差があったからこそロースト村の者をどう思うかが心配だったんだよ。


 空気がひんやりしているところからして血生臭いことにはなっていないようだ。


「意識改革は難しいな」


 定住組はまだいい。賢いガガリもいるからな。だが、放浪組は一見理性的に見えるが、考え方は石器時代だ。強さこそパワーみたいな感覚を持っている。


 こんな時代なら通じるだろうが、これからを考えると中世くらいまで意識を変えてくれないと困る。


 てか、マーダ族が放浪する理由が未だにわからないんだよな。それとなくガガリに訊いてみたが、一族の掟であり、それを知るのは族長だけ。その族長はオレと関わろうとはしない。放浪組は村から少し離れたところにいて、タダオンくらいしか近寄ってこないのだ。


 それがあるからマーダ族から目を離せないでいるんだよな。ラダリオンの両親もまだわかっていない。似たような者がいないから放浪組にいるんだろうけどな。


 マガたちはまだ眠っている気配なので、広場にいってみる。


 気温は氷点下になっているので焚き火がいくつも焚かれており、使い捨てカイロ(巨大化させました)をしているので、そこまで寒くはないはずだ。


「タカ、早いな」


 炎が上がっている場所にいくと、ガガリとロースト村からきた者が起きていた。


「ちょっと心配になってな」


 レモンティーの粉缶を持って巨人になった。


「飲むといい」


 粉缶をガガリに渡した。


「助かる」

 

 土鍋で沸かしたお湯の中に粉を入れ、濃さを調整したら木のお玉でコップに注いで飲み出した。豪快だこと。


 匂いに誘われてか、他の者も起きてきた。


 やはり村で生きてきただけはあり、起きたらすぐ川に顔を洗いに向かった。


「ガガリ。自分たちと生活が違うからって怒ったりするなよ。逆に村の暮らしを教えてもらえ。あっちは長いこと村を築いて生きてきたんだからな」


「わかっているさ。おれたちはもうここで生きていかなくちゃならないんだからな」


 やはり、ガガリたちは放浪組から捨てられた立場なんだろうな。村作りにはまったく手伝わない。やるのは発着場の柵作りだけだ。


 さて。放浪組をどう攻略したらいいものか。厄介この上ないよ。


 巨人の朝は早いので、陽が出たら家から出てきた。


 オレたちが帰ってきたことはわかっているので、マーダ村の者にロースト村からきた者を紹介する。


 それが終わればホームからカロリースープを出し、頼んでいた巨人パン、ガーグルスの肉、ワインをえっちらほっちら運び出した。


 調理、ってほどでもないが、我慢せず食えるだけでご馳走。村全体が高揚してくるのがわかった。


 ズルいという悪感情が出るかとの思いも杞憂のようで、段々と料理や酒に心を奪われてきた。


 ……もう少し、酒を追加するか? いや、食い物のほうがいいか……?


 どうするか悩んでいると、タダオンたち放浪組が何十人とやってきた。


「タカト。おれたちもいいか?」


「ああ、全然構わないよ。酒か食い物、どっちを追加しようか悩んでいたんだが、お前たちはなにがいい?」


 ガーグルスは一匹分はあるし、巨人パンも四十くらいは焼いてもらった。カロリースープに芋や玉ねぎを入れたから腹一杯は無理でもいつもよりは食えるはず。


 酒も六十リットルを巨大化させた。そう飲めないヤツらばかりだから足りるとは思うんだよな。


「いや、大丈夫だ。食い物ならロースランの肉を出す。すべてを持っていけるわけじゃないからな」


「なら、カロリーバーと交換しよう。袋を破らなければ十年は余裕で腐らないからな」


「それはありがたい。だが、そんなにわけていいのか?」


「問題ない。大量に作っているからな。ここにもたくさん運び込むからなくなったら取りにきたらいいさ」


 カロリーバーやスープは主食にするわけじゃない。あくまでも保存食。万が一に備えて貯蔵しておくだけだ。


「まあ、次からは魔石で払ってくれ。運んでくるのも人と金がかかっているからな」


 今は巨人の信頼を得るために破格の待遇をしている。自分たちで生きていくためにも次からはもらうものはもらうとするよ。


「それなんだが、おれたちに仕事をもらえないだろうか? いろいろ望む者が多くなっているんだ」


 ほー。思惑どおりに動いてて笑いが出そうになるな。だが、笑ったらこれまでの努力が無駄になるので表情は崩さないでおく。


「それならマガルスク王国までの道を築いてくれないか? そう立派じゃなくていい。人間が通れればそれで構わない。やってくれるのなら金でも道具でも構わない。人間の伝手も作ってやる」


 放浪組の意識が少し変わった。物質文明が二百年くらいは進んだはずだ。このまま意識改革を進めたらマーダ族は国を築けるまでになるはずだ。

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