第1048話 独身貴族

 結婚式は無事終了。オレが関わっていることでマーダ族の女性二人は悪い立場にはなってないように見える。これならいつロースト村を離れても問題ないだろうよ。


「ガガリ。魔石は売れたか?」


 これからも関わりがあるのだからと、交渉事はすべてガガリに任せたのだ。


「ああ。売れた。種芋や豆でも払ってくれたよ」


「それはなにより。もう帰っても大丈夫か?」


 これで帰れば予定通り、七日となる。いや、帰りは旅慣れていないガガリの嫁を連れていくから長くなるか?


「ああ。それと、二家族がマーダ村に移るそうだ」


「なんでまた?」


「ロースト村の血をさらに薄くしたいそうだ」


「じゃあ、マーダ族からも出すのか?」


「いや、今のところは出さない。と言うか、出せる者がいない。残るのは五十人もいないのだからな」


 確かに五十人なんて限界集落みたいなもの。子供が産まれなきゃ減るだけだ。


「これから交流していくのなら早々に道を築いたほうがいいな。行き来がしやすくなったら物の流れも多くなる。巨人の足なら朝に出れば次の日の夜には着くだろうよ」


 巨人が同じところを歩くだけで地盤は固まり、強固な道となる。ついでに橋を作ってくれてくれたら車で走られるようになる。こちらとしては万々歳だ。


「そうだな。村長と話し合ってみるよ」


 そう言ってすぐに行動できるのがガガリの強みだろう。嫁の次は配下を置いてやらないとな。


 話し合いをした次の日にロースト村を出発する。


 ロースト村からマーダ村に移住する者は八人だ。二家族というから夫婦と子供かと思ったら二家族の兄弟だった。


 どちらも四十から三十の兄弟で、女は二人だけ。そして、八人すべてが独身だそうだ。


 結婚できない者もいるとは聞いていたが、まさか八人すべてが独身だとは思わなかった。ロースト村、本当に存亡の危機だったんだな。


「大丈夫なのか?」


「大丈夫だ」


 なにが、とは言わなかったが、ガガリはオレの言いたいこと察したようにきっぱりと答えた。


 なら、それ以上は訊かないでおこう。種族繁栄にはそれぞれのやり方があるんだからな。


 きたときになるべく歩きやすいところを通ってきたので、ロースト村の者たちが苦労することはない。問題なく歩みを進めた。


 帰りは男手が増えたので、道を切り開き、中間地点付近の水場近くを拓いた。


 職人も混ざっていたので、一日かけて雨風が防げる小屋を作り、慣らすために狩りを得意とするマーダ族の男が一人残らせることにした。


 カロリーバーとブラッギー、巨大化させた鍋を渡すとなにか凄く喜んだ。


「おれはこうして一人で暮らすのが夢だったんだ」


 無口なヤツだと思ったらそういうことだったのか。どんな種族でも一人を好むヤツっているんだな。


「往来が増えれば賑やかになるがな」


「一泊するだけだ。それなら煩わしく思うことも人恋しくなることもないさ」


「こいつは昔っからこうさ。器量はあるのに嫁をもらうこともしない男なんだよ」


「独身貴族か。そんな生き方もいいものさ」


 この世界に連れてこられなかったらオレもそうなっていただろうよ。


「独身貴族か。ふふ。なんかいい響きだな」


 なにやら気に入ったようで、嬉しそうに笑っていた。


「じゃあ、食料は送るように伝えておく。危険になったらすぐに逃げろよ」


 そう言い残して中間地点を出発。夜中にはマーダ村に到着できた。


 村はもう眠りについていたようだが、元々大自然で生きていたマーダ族。放浪組は何キロ前から気づいていたようで、森の中から松明を持って出てきた。


 ……まったくわからなかったよ……。


「遅かったな」


 代表してタダオンが言葉を発した。


「ああ。詳しいことは明日話す。旅慣れない者もいるしな」


 ガガリが答え、広場に火を焚いてロースト村からきた者を休ませた。


 オレはホームに入ろうと思ったが、湖側の小屋に灯りがついていたのでいってみた。


「マガ、どうしたんだ?」


 小屋にいたのはマガとチームの二人だった。


「旦那、お帰りなさい。マルゼから巨人との繋ぎを任されました」


 へー。マルゼがね。もうそんな判断ができるようになったんだ。


「そうか。食料は足りているか?」


「はい。マルゼに用意してもらいました」


 棚に目を向けたら食料が置かれていた。マルゼのポケットマネーで買ったんだ。


「そうか。オレはホームに入る。朝になったらマルゼたちにオレが帰ってきたことを伝えてくれ。プレシブスの扱い方は教わったんだろう?」


 繋ぎというならプレシブスを教わったってことだろうよ。


「はい、わかりました」


 今日も寒くなるだろうから三人にワインを取り寄せてやり、ホームに入った。


「──あ、タカト。あたしたち、ランティアックに着いた」


 玄関に現れると、なにかを出そうとしたラダリオンとごっつんこしそうになった。


「おー。もう着いたのか。早かったな。ゴブリンやバデットはいなかったのか?」


「うん。どちらもいなかった」


 ってことは移動しているってことか。ミルズガンに終結中か?


「落ち着いたらミリエルたちと合流してくれ。なんならコラウスに戻っても構わないぞ。休息も必要だからな」


 ミリエルたちでも十二分に対抗できる。帰っても問題はないさ。


「わかった。そう伝えておく」


 中央ルームには全員が揃っていたので晩酌しながら他のところの様子を聞かせてもらった。

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