第1047話 巨人の結婚式

 結婚式って、なにが必要なんだ?


 思い出してみると、オレ、結婚式に参加したことねーわ。


 社会人を十年もやっていたら一回くらい招待されそうなものだが、まったくないのだから仕方がない。晩婚化が原因か?


 まあ、巨人も結婚式をやるのは村でも有力者くらいだそうで、やらないのが普通らしい。


 タブレットをつかんでウェディングドレスを調べたらメッチャ高かった。こんなにするものなの!?


「そりゃ、結婚式もやらないのもわかるわ」


 ピンキリとは言え、そこそこのものは二百万円くらいする。てか、結婚式っていくらかかんだ? 五百万円くらいかかんのか? 怖いわ。


「とてもじゃないが、ウェディングドレスなんて買ってやれんな。シエイラにも着せてないのによ」


 仕方がない。ベールだけで我慢してもらうか。レースがついたヤツでも三千円しないしな。花束は……いらんか。櫛や鍋でもプレゼントしてやるか。回収品に新品なのがあったはずだ。


「てか、ベールってどうつけるんだ?」


 わからないときは女性陣に任せるとしよう。女性ならなんとなくわかんだろう。


 必要なものをせっせとホームから出し、巨大化させていく。ふー。


「ガガリ。男もなんか飾りがないのも寂しいから帯を巻いて短剣でも差しておけ」


「いいのか?」


「回収品だ。気にするな」


 別に手間は巨大化させるために栄養剤を飲んだだけ。ベール代と酒代くらい。三万円も使ってないさ。


 花嫁は二人。マーダ族の二人だ。


 ガガリの嫁はマーダ村に戻ってからにすることにしたよ。ここで式を挙げてもマーダ族の中に入るのが大変そうだからな。それなら、マーダ村でやったほうがロースト村と繋がりができたと認識できるだろうよ。


「煮だったらそれを入れてくれ」


 ロースト村としても肉を出してくれたので、カレーを作ることにした。鍋は一番デカいものを巨大化させたよ。


 ……お陰でその日のエネルギーを持っていかれたよ……。


 作るのは女性陣に任せ、オレはカロリーバーを食い、スポーツ飲料で流し込んだ。


 巨人パンはホームに運び込まれているので、入る毎に外に出した。


 暗くなる前に準備はでき、ベールをつけた花嫁と花婿が広場に出てきた。


 好きでもなく、今日会った者と結婚するってどんな気持ちなんだろうな? 仕方がないと諦めているんだろうか? こんな時代じゃそれが当たり前と思ってんだろうか? 元の世界の常識に縛られているオレには受け入れ難い結婚だよ。


 だからって口に出さない配慮は持っているので、結婚式はロースト村に任せ、マーダ族とオレは客人って立場で端のほうに座らせてもらっている。


 これと言って余興があるわけじゃないが、マーダ族より酒に強いようで、陽気に歌ったり踊ったりしている。


「他の人間がタカトに従うのがよくわかったよ」


 ワインをチビチビ飲んでいたらガガリが口を開いた。なんだい、突然?


 騒がしいのでオレの声は届かないだろうから顔を向けた。ちなみにオレは巨人が出してくれたテーブルの上にいます。酔った巨人に踏まれちゃ敵わんからな。


「巨人の暮らしを一変させたどころか明るい明日を見せてくれた。お前についていけば大丈夫だと思ってしまう。タカトには大変なことだろうがな」


 そんな考えられるガガリは貴重だ。他の誰にも思いつかない答えだろう。


「……お前は王になる器だよ……」


 オレの声は届かないだろう。だが、今決めた。こいつを巨人の王にすると。


 タダオンではダメだ。力は強いが、他種族と交渉する才能はガガリより下だ。いや、かなり下だ。とても話し合いなんてできない。ストレスで胃に穴が開くだろうよ。


 さすがのロースト村の巨人も酒に倒され、ほとんどの者が地面で眠ってしまった。


 新しく夫婦となった二組は、まあ、察してください。種族は違えどやることは一緒なんだよ。


「ガガリ。子供を作るなら相手が十八になってからにしろよ。若いと危険が大きくなるっていうからな。それまで生活をよくしてから子供を作ることだ」


 人間と巨人が同じかどうかわからんが、さすがに十四歳は危険だ。せめて十五を過ぎてから。可能なら十八になってからのほうがいい。


「……わかった……」


「嫁を大切にしてやれよ。これから先、一緒に生きていくんだからな」


 ガガリはまだ二十代。あと五十年以上は生きていかなくちゃならない。嫁のため、子のためにもガガリは生きなくちゃならん。いい夫婦になっていい人生を送れるようにすることだ。


「さて。オレたちも寝るか。また明日な」


 テーブルから降ろしてもらい、ホームに入った。


「あ、タカトさん。結婚式はどうでした?」


 玄関にいたミリエルが尋ねてきた。


「いい感じに終わったよ。皆、酔い潰れた」


「それはなによりです。なら、ロースト村は完全にタカトさんにつきますね」


 さすがミリエル。オレのやっていることを理解してくれているよ。


「ああ。コラウスからマーダ村までの道はもうできたようなものだ。あとは、マーダ村からマガルスク王国に続く道だな」


「考えはあるんですか?」


「あるよ。ただ、タイミングが合うかどうかだな。そっちはどうだ?」


「全然動きがありません。ただ、バデットの動きは活発になっていますね。エサとしてミルズガンに集まり出しています」


「かなり知恵の回るヤツがいそうだな」


「だといいですね。無秩序に動かれたら困りますし」


「そうだな。そうなったらミリエルに任せるよ」


「はい。お任せください」


 頼もしいミリエルに笑みが溢れた。本当にオレの出番がなくなりそうだ。

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