第1046話 若嫁

 案外、あっさりと受け入れられた。マジか?!


「ロースト村だけ取り残されるわけにはいきません」


 村長になぜか尋ねたらそんな答えが返ってきた。


「ここは、山の中です。山が豊かなのでラザニア村や街より食うに困ることはありません。ですが、下の流れに取り残されることがよくあります」


 田舎者って思われてんのかな? ラザニア村でもロースト村のこと、まったく聞かなかったし。


「ロースト村は街との繋がりがないので、外から血を入れることはラザニア村より少ないです。血が濃くなり産まれる子が減ってきて、もう百人もいない村となっています……」


 そっち方面の知識が少ないのでなんとも言えないが、そんな話を聞いたことはある。


「ガガリ。マーダ族もそうなのか?」


 この場にはガガリたちもいるので尋ねてみた。


「……ああ。段々と子が産まれなくなっている……」


「それだけか?」


 確かに子供は少なかった。十歳以下の子はまったく見てない。


「……奇形児は捨てている……」


 それを責めるつもりはない。こんな時代じゃ生きていけないだろうからな。


「ロースト村から女性をマーダ村に送れるか? これからマーダ村は発展するだろう。今はまだ暮らしは大変だろうが、十年先にはここの暮らしよりは豊かになっているはずだ。未来を見て幸せになりたい女性がいるならマーダ村に嫁ぐことを勧めるよ」


 ゴルグのような恋愛結婚は希な時代。見合いが巨人の主流だ。マーダ族から嫁がせるならロースト村からも嫁がせたほうがいい。


「なんなら男でも構わない。畑を耕すことができる者がいたら大切にされるんじゃないか?」


 別に婿に出しても構わんだろう。


「少し、話し合ってみてもよいでしょうか?」


「自分たちの将来に関わること。ゆっくり話し合ってみるといい。マーダ村にいく者がいたら女神からもらった薬を渡す。きっと元気な子供が産まれるはずだ」


 遺伝子障害も治してしまう薬だ。完全回復して健康的な子供が産まれるだろうよ。


 ブラッギーがあることで回復薬の出番が減ってしまった。そんなときに限ってガチャで回復薬が当たりやがる。せっかくだ、巨人に使って恩を売っておこう。オレが生きている間は巨人の力は絶対に必要なんだからな。


「し、神薬をですか?」


「血を薄くするにはそれしかないでしょう。子を産める若い者には飲ませてください」


 百人もいない村なら若いのは三分の一、いや、四分の一もいないか? なんなら全員に飲ませるか。産まれた子供が大きくなるまで二十年は必要なんだからな。それまでの働き手は多いほうがいいだろう。


 巨人を解き、ホームから回復薬大を持ってきた。


「若いのを集めてください。さっさと飲ませてしまいましょう」


 まずはここにいる者たちに一粒渡して飲ませた。


「……か、体が……」


 年寄りには効果覿面だろうよ。てか、老人かと思ってたら案外若かった? 白髭に覆われていたのに茶色い髭になったぞ?! 


「タカト殿、ありがとうございます」


「ありがとうございます」


「別にオレの力ではないので感謝はいりません。他の者にも飲ませてください。ガガリ、ついでだからお前たちも飲むといい。ブラッギーじゃ治せない病気もあるからな」


 マーダ族にはブラッギーを打たせたが、病気や怪我を治せるようなもの。失くした腕や足を回復させる力はない。完全回復してオレのために生きてください、だ。


「はい。すぐに皆に飲ませます」


 村人全員集められて回復薬大を飲ませる。


 やはり老人だと思っていた者は老人ではなく、四、五十くらいの年齢だった。どんだけ老けていたんだよ!


「……これは、来年には子供が増えてそうだな……」


 なぜ? とは言わないでおく。いろいろあるんだよ。察しなさい。


「そういや、ガガリに嫁はいないのか?」


「いないよ。おれは軟弱だからな」


 まあ、確かにタダオンたちと比べたら体格は細いが、これからはガガリみたいな者が重要となる。今が狙い目だと思うがな。


「村長。いい年頃の女性はいますか? ガガリに相手が欲しいんですが」


 もういないのならラザニア村か街の巨人に声をかけてみよう。ガガリには家庭を持ってマーダ村を発展させて欲しいからな。


「十四の娘がおります。気立てのよい娘ですよ」


 十四? いや、アウトな年齢だろう。巨人も十六歳になったら結婚が許されると聞いたぞ。ラダリオンより下じゃん。


「ガガリ、どうする? お前が構わないのならオレはいいが……」


「その娘さんが嫌でなければお願いします。結婚できないと諦めていましたから」


 マーダ族の価値観は現代社会を生きてきたオレにはよーわからんわ。


「村長。よろしくお願いします。もし、上手くいったら式をお願いします。食事や祝い品、婚礼服を用意しますんで」


 連れてきた二人の女性も一緒に結婚式をやらせてやろう。ロースト村とマーダ村の繋がりを強くするためにな。


「はい! お任せください! すぐに娘を呼びます!」


 やる気に満ちた村長。あなた、そんなキャラだったのね……。


「す、すべてお任せします」


 あーまあ、オレはオレのやれることをしましょうかね。

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