第1038話 生存戦略
マーダ族の英雄たちは酒に弱ったが、アルコールを分解する能力は高いようで目覚めは快適なものだった。
オレも指輪にエネルギーが溜まったので、コトコト煮込んだシチューを巨大化して朝飯にしてやった。
「こんな美味いものを食うと旅がキツくなるな」
「そうだな。酒と料理の美味さは毒だ」
だろうよ。よくわかるよ。オレも前の世界の料理が忘れられず、こちらの料理になかなか手が出せないでいる。美味いは毒と言っていいだろう。止めるに止められない罪な毒だ。
まあ、それを理解して利用しているんだがな。
どんな種族も贅沢を覚えたら止められないものだ。マーダ族の英雄たちも酒や料理の誘惑に勝てないだろうよ。
「いっぱい食ったら今日も頼むな」
巨人を解いたらマルゼに指輪をつけてもらい、たくさん食べてエネルギーを溜めてもらった。
巨人の下で動くのは危険なので、オレは一旦村に戻ることにした。なにも言わないできちゃったからな。一応、連絡だけいれておくとしよう。
広い湖でも最短ルートで走れば二十分もかからない。すぐに村に到着できた。
「よかった。帰ってこないから心配したぞ」
桟橋につけるなりガガリに声をかけられた。
「悪い。いい砂浜があったんでタダオンたちに開拓してもらっていたんだよ」
「タダオンたちと一緒だったのか」
「ああ。ロースランを追っていたが、オレが警戒させたみたいだからな、謝罪ついでに開拓をしてもらっているわけさ」
酒を出しているのは黙っておくとしよう。
「こちらはなにかあったか?」
「いや、なにもない。ただ、カロリーバーだけでは飽きてきたというヤツが出てきているよ」
もうか。もうちょっと時間がかかると思ったんだがな。
「それならコラウスに魔石を売ってきたらどうだ? 赤い魔石は売れるそうだからその金で麦を買ってくるといい。ロースト村に伝手はあるんだろう?」
「まーな。だが、あまり歓迎されてないんだよな。おれたちは……」
「それならオレの名前を出せ。マーダ族と取り引きしてくれるていどには関係を結んでいるから」
「……お前は顔が広いんだな……」
「オレは弱いからな。誰かの力を借りないといけない場合がある。仲良くなれるならどんな種族でも仲良くなるさ」
敵にするより味方にしろ。オレの生存戦略だ。
「確かに、お前はいろんな種族を味方にしているな」
「マーダ族もたくさんの種族を味方につけるように動け。大きいってのは武器だ。人間の何倍もの荷物を運べるし、集団で動けば魔物に襲われることもない。流通として巨人に勝る種族はいないぞ」
まだ族長と話してないが、意識改革は下から進めたほうがいいだろう。特に定住するガガリたちは仕事を見つけなくてはならない。巨人が狩りだけでいけないのはコラウスで学んだよ。
「何人か選べ。オレもついていってロースト村と繋いでやるから」
コラウス側は村の連中にやらせるとしよう。
「……わかった。選んでおく……」
「ガガリが指揮をしろ。まだタダオンたちがいる。村を空けても問題ないだろうからな」
巨人の足ならそう苦ではないだろうし、百キロなら二、三日で到着できるはずだ。往復でもそう長く空けることにはならないはずだ。
「なにか魔石以外にあるだろうか?」
「途中で狩ったものを持っていけばいいんじゃないか? 肉を食える機会は少ないからな」
「そうだな。肉を渡したら喜ばれたっけ」
「グルングを増やせるようになったら麦や服なんかと交換できるようになるからな」
ロンレアで増やしているガーグルスがコラウスに流れてくるのは何年も先だし、コラウスの巨人の胃を満たすほど流れてはこないだろう。なら、距離的に近いここから肉を回したほうが鮮度もいいはずだ。
「……皆と話し合ってみる……」
「そうしろ。マーダ族の未来を決めることだからな」
その未来はオレの未来とも繋がる。是非ともよき未来を選択してくださいな。
「じゃあ、オレは戻るよ」
プレシブスは桟橋に繋いで、ルースミルガン改で砂浜に戻った。
湖を一望できるまで上昇したらルースミルガン改の熱源反応センサーを使って周辺の熱源を探った。
「強い熱が固まっているな。ロースランか?」
熱の大きさや形からしてロースランだろう。四十匹くらいいるな。あいちらやっぱり群れる習性があるんだな。
プランデットに換えて生体反応を記録する。これならすぐ見つけられるだろう。
「お前たちには悪いが、マーダ族の信頼を得る糧になってもらうよ」
記録が終わったら降下。砂浜に着陸した。
「やはり仕事が早いな」
完全に木々が抜かれ、野球場くらいの広さが拓かれていた。
「今日中に終わりそうだな」
あとは移住組に柵と家を建ててもらえばいい別荘になりそうだ。子供が産まれて落ち着いたら連れてきてやろう。
「タダオン! 少し休憩しようか!」
十時の休憩には早いが、タダオンたちの仕事は早い。急ぐこともないんだからゆっくりやればいいさ。ロースランのことも話したいしな。
ノンアルコールのワインをホームから持ってきてやった。
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