第1037話 マーダの英雄たち

「お前の名前はマラキだ」


 長いこと考えて出た答えがそれだった。なんか意味あんの?


「山で生ってる木の実だよ。こんな色なんだ」


 狼の子供は茶色だ。茶色の木の実ってなんだ? 食欲湧くのか? 美味いのか? 悩んだ末の答えがそれなのか?


 ま、まあ、マルゼが決めた名前。そうかと肯定しておいた。


「他に目ぼしいものはあったか?」


 狼の子供が寒そうにしているので、ヒートソードを二百度くらいにして地面に突き刺してやった。


「これと言ってなかったよ。春になったら山菜が咲きそうな感じはあったけど」


 山菜とかは興味はないので、記憶から排除。ただ、砂浜があまりないのでここに桟橋を作っておくか。なにか必要になるときを考えて。


「マルゼ。ホームで着替えてくる。ここを少し開拓しておくよ」


「了解」


 ホームに入り、戦闘強化服を脱いでつなぎに着替え、鉈を持って外に出た。


 栄養剤中を飲んだらすぐに巨人となる。これなら巨人になるエネルギーを持っていかれると同時に補給できるのだ。


「一時間は動けそうだな」


 ちょっと満腹感がある。これなら一時間は動いても空腹にはならないはずだ。


 発信器を打ち込んだ場所までの木を伐ったり抜いたりしていると、笛の音が聞こえた。巨人たちか?


 グロック17を抜いて弾を装填。空に向かって撃ち、三秒間隔で三発撃った。


 また笛が吹かれた。長く、自分たちの位置を教えるように。


「砂浜に戻るか」


 ここでは視界が悪い。砂浜なら巨人たちが集まっても問題ないはずだ。


 巨人になって二、三十分は過ぎているので一度巨人化を解いた。


 栄養剤中をまた飲んで指輪にエネルギーを溜めておく。アポートウォッチをしてワインを取り寄せておいた。


 プランデットをして巨人たちの位置を確認。百メートルまで近づいていた。


「五人か。放浪旅組かな?」


 オレがよく話しているのは定住組で、放浪旅組とはあまり話さしてないんだよな。


「やはりタカトか。なにしているんだ?」


 現れたのは巨大グルングに止めを刺したマーダ族の英雄、タダオンだ。その他もマーダ族では上位にいる連中だ。鉄の武器もこの五人に行き渡っている。この五人ならマガルスク王国の王都にも突入できそうだ。


「船を停めるのにいい場所があったからなこの辺を開拓しようとしていた。そっちは狩りか?」


「ああ。ロースランの足跡を見つけたから探しているところだ」


「それなら逃げたかもな。ここにくる途中でお前たちの半分くらいあるロースランに遭遇したからな」 


 人間を恐れたりしないだろうが、巨人の臭いを嗅ぎ取っていたら逃げたはずだ。


「そうか。まあ、賢そうなロースランだったから仕方がないな」

 

 なんかあっさりしたものだな。本気の狩りではなかったのか?


「そう急ぎでもないなら手伝ってくれるか。礼に冷やしている酒を出すんで」


「おお! 任せろ! 酒が飲めるならなんでもやるぞ!」


「あれ、全部飲んでいいのか?」


「ああ。桟橋も作ってくれたらもっと持ってくるよ」


「任せろ!」


 巨人はそう変わらんようだ。


「マルガー、お前は桟橋を作れ。残りは木を伐れ」


 タダオンが指揮を執り、オレはどうするかを指示を出した。


 ルースミルガン改が着陸できるように野球場くらい拓いてもらった。


 さすがの巨人でも二時間くらいじゃ木を引っこ抜くのが精一杯。仕方がないので今日はここでキャンプすることにした。


「マルゼ。これをデカくしてくれ」


 さすがに巨人になる限界を迎えている。ワインや食い物はマルゼに巨大化してもらった。


「すまんな。今日はこれで我慢してくれ。明日、たくさん用意するから」


「いやいや、これでも充分さ。一人二本も飲めるとか贅沢すぎんだろう。仲間に申し訳ないぜ」


「ああ、こりゃ皆に秘密だな」


「バレたら皆に袋叩きにされる」


 と言いながら酒を飲む巨人たち。日頃飲んでないから一本も飲むと酔ってきているよ。


「ワインは温めて飲むのも美味いぞ。残りはツマミを食いながらゆっくり飲むといい」


 巨人たちのコップにヒートソードを入れてやり、最弱にして温めてやった。


「寒い日にいいな、これは」


「おれ、これ好きだ」


「おれもだ」


 種族的にそうなんだろうか? ラザニア村の巨人もホットワインが好きだったっけ。


 二本飲んだら五人は眠りについてしまった。


「マーダ族の英雄も酒には弱いか」


 まあ、それでもマーダ族の中では酒豪に入るんだろうな。他はコップ二杯くらいでダウンしてたし。


「マルゼ。お前も寝ていいぞ。オレはもうちょっと起きているから」

 

 巨人が五人もいれば危険はないだろうが、万が一がある。二十四時までは起きているとしよう。


「わかった。マラキ、寝ような」


 エサをくれる存在とわかったからか、狼の子供はマルゼの腕の中で大人しくしている。ってまあ、巨人に恐れているから動けないのかもな。野生の感がDNAに刻まれてんだろうよ。


 焚き火の前に椅子を置き、薪を放り込んだらアードベック十年をお湯割りにしてちびちび飲み始めた。こういう夜もいいかもな。


 今日は雲もなく月が出ている。酒を飲むにはいい夜だ。

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