第1036話 情操教育

 朝、外に出たら雪がちらついていた。


「そろそろプライムデーだな」


 何日とかアナウンスはないが、時間が空いた者がタブレットを見て、買い物リストは中央ルームに貼ってある。オレが忘れてもミリエルかミサロ辺りが買ってくれるだろうよ。


「なんだ、マルゼ。小屋で寝たのか? 寒かっただろうに」


 湖の側に建ててもらった小屋はそこまで気密された作りじゃない。暖炉があっても寒かっただろうに。


「うん。でも大丈夫だよ。このくらいの寒さで参るような軟弱者じゃないしね」 


 軟弱者な大人でごめんなさい。オレはこの寒さに耐えられません。余裕で凍死する自信があるわ。


「強いな、マルゼは。でも、無理はするなよ」


 まだ九歳になったばかり。まだ体ができあがってないんだから無理は禁物だ。


 朝飯を持ってきてやり、一緒に食べることにした。


「おはようさん」


 食休みしていると、サイルスさんがやってきた。


「おはようございます。朝飯は食べましたか?」


 食事はそれぞれに任せてあるし、食料や道具を渡してある。好き勝手にやっているだろうよ。


「ああ。今日、ルースブラックがきたらコラウスに向かう」


「わかりました。領主代理によろしくお伝えください」


「ああ、また酒に付き合ってくれ。あれに付き合える酒豪はいないからな」


 オレは別に酒豪ではない。領主代理と飲んだあとは大体死んでいるけどな。サイルスさんからしたらオレを人身御供にしてんだろうよ。


 ルースブラックがくるまでサイルスさんと話し合い、昼前にやってきたルースブラックに乗ってコラウスに向かった。


「近いうちにコラウスに戻らんとな」


 ダルスの答えをまだ聞いてないし、領主代理への報告もある。あの人とは意志疎通しておかないといけない人だからな。


 昼になって少し陽が出てきたから湖に出るとする。


「マルゼ。寒いときは言えよ」


 電熱ジャケットを着させてやり、安全帯を着けさせた。


 プレシブスが転覆したら大変だが、プレシブスはよほどの波でもなければ転覆したりはしない。この湖ならこれで充分だろうさ。


「おじちゃん。巨人たちが湖岸沿いを歩いているよ」


「湖を一周できる道を作るようお願いしたんだよ」


 巨人としても道はあったほうがいい。ここで生きていくんだからな。


「今日またグルングを狩るの?」


「いや、今日はグルングの調査だな」


 何匹いるかで狩る量が決まってくる。湖を把握するついでに数も調査しておくとしよう。

 

 湖岸沿いを進み、もう少しで半分かな? ってくらいに四メートルはありそうなロースランが水を飲んでいた。


「こんなところにもいたんだな」


 そういや、バデット化したものが渡ったのに、バデットになった魔物っていないな? やはり魔王軍の差し金だろうか?


「倒す?」


「いや、面倒だから止めておこう」


 今日はちゃんとEARとタボール7を持ってきたが、あんなデカいロースランを相手にしたら時間を取られてしまう。面倒だから巨人に任せるよ。


「花火でも打ち上げておくか。マルゼ、三発頼むよ」


「了ー解」


 マルゼに任せて打ち上げ花火を三発放った。


 ロースランは慌てて逃げ出し、湖にいたグルングが浮かんできた。


「グルングの楽園だな」


 さしずめオレらは楽園を荒らしにきた悪魔か。食物連鎖の頂点にいられるようがんばらんとな。


「お、砂浜なんかあるじゃん」


 三十メートルくらいに渡り、砂浜ができていた。


 変温動物なら太陽を浴びる打ってつけの場所だな。魔石を持つグルングには関係ないんだろうけど。


 動体反応を探り、問題ないなら上陸してみた。


「マルゼ。発信器を持ってくる。それまで警戒していろ」


 EARを渡した。


「任せて!」


 ホームに入り、ガレージの奥に置いてある発信器を出してきて外に出した。


「ありがとな。周辺を見ててくれ」


 砂浜は発信器が倒れてしまうので、少し森に入ったところに打ち込んだ。


「少し休憩するか」


 まだ十時の休憩には速いが、そう急ぐこともない。ゆっくり休むとしよう。


「おじちゃん。少し、森を探ってきていい?」


「一人で怖くないか?」


「山では一人でよく入ってたから怖くないよ」


 まあ、確かに一人でも平気な環境で生きてたな。オレ、過保護なのか?


「わかった。さっきロースランがいたからP90を持っていけ。P90の弾ならロースランにも効果があるからな」


 P90とマガジンを三本を取り寄せ、マルゼに渡した。一応、扱い方は教えてある。いないならいないで練習で撃ってくるといいさ。

 

「じゃあ、いってくる!」


 元気よく森に入っていき、一時間くらいして狼の子供を連れて戻ってきた。


 ……オレも子供の頃、捨て犬を拾ったことあるな……。


「親は?」


「殺されたと思う。血が飛び散っていたから」


 ロースランか? まあ、魔物がたくさん犇めくところだし、生存競争は大変なんだろうよ。


「……飼っていいかな……?」


「ちゃんと面倒見れるなら構わないぞ。できるか?」


「うん! できる!」


「なら、構わないさ。ちゃんと首輪をさせろよ。他に狩られてしまうからな」


 自分の請負員カードで首輪を買い、狼の子供の首に回してやった。


「ぐったりしているから回復薬小を飲ませて、犬用ミルクを飲ませてやれ」


 産まれて一月も経ってないだろうか? てか、冬に産んだりするものなのか? 自然の獣って春に産むもんだと思ってたよ。


「わかった」


 回復薬小を無理矢理飲ませたら元気になり、犬用ミルクを出してやったら凄い勢いで飲み出し、満腹になったら眠ってしまった。まったく獣なこった。

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