第1034話 冒険者の発想

 ラットスタットを使い、グルングを感電させた。


 リミッターを外したラットスタットではないので、殺すまではいかなかったが、三十二匹を感電させることができた。


「サイルスさん。一匹こちらに寄せてください」


「わかった」


 槍を出して一匹プレシブスに寄せてくれた。


 首に槍を突き刺してもらい、そこから血を吸い出して陸地に向けて放った。


 それを繰り返し、プレシブスに集まったグルングをつかんでホームに入った。


「よし。上手い具合に入れたな」


 ガレージ側に運んだら外に出る。うおっ!? プレシブス動いてるじゃん!


 あぶねーあぶねー。ちゃんと錨を下ろしておかんと。出たら湖に落ちるなんてゴメンだわ。


 いや、別に湖に入っても問題ないか。戦闘強化服は密封型。水の中に入っても平気じゃんか。


「サイルスさん。見張りをお願いします。水ん中に入ってやるので」


「それなら陸に上がるよ。ここじゃ不安定だからな」


 そう言うと、四メートル先の岸にジャンプした。ほんと、この世界、バケモノ多すぎくん。


「この辺、刈るから待ってろ」


 生い茂る岸を剣で刈り、あっと言う間に空間を作ってしまった。


 水中より岸に揚げてからのほうが処理しやすいので、とりあえず残りを岸に揚げた。


「血を抜きますか」


 サイルスさんが首を切り、オレが血抜きをする。さすがにこの数は疲れる。魔力を使ったから脱力感が激しいぜ……。


「休憩しますか。なにか食べます?」


「ティラミスが食いたい」


 ティ、ティラミスって、どこで覚えてくるんだか。いや、ラダリオンか。大体あそこが発信源だろうよ。


 ホームに入り、コス○コのティラミスを買い、オレは久しぶりにアルコールの入ってない炭酸飲料を持って外に出た。


「サイルスさん、ほんと甘いものが好きですよね」


 見た目は酒豪なのに。不思議なものだ。


「魔力を使うとよけい甘いものが食いたくなるよ」


 もう半分は食べてしまい、ミルクティーで一息ついた。


 ……見ているだけで胸焼けしてきそうだ……。


「久しぶりの炭酸飲料、美味いな」


 サイルスさんから目を反らし、炭酸飲料を飲み干した。


「血に寄ってきたみたいだな」


 サイルスさんの言葉に立ち上がり、ホームに入ってEARを持ってきた。


 ヘルメットを被り、動体反応センサーに切り替えた。


「狼か?」


 反応は二十。体長一メートルくらいの四肢を持つ生き物だった。


「面倒だ。一匹くれてやれ」


 サイルスさんがティラミスを食いながら吐き捨てるように口にした。


 バケモノからしたら脅威ではないが、休憩を止めてまで戦う相手ではないということか。


「そうしますか」


 戦闘強化服なら血が抜けたグルングを投げるくらい問題はない。軽そうなのを選んで首をつかみ、森に向かって投げ込んだ。


 サイルスさんの魔力が高まる。たぶん、狼に警告しているんだろう。近づけは殺すと。


「野生の獣は正直ですね」


 投げ込んだグルングを森の奥に運んでいった。


「そうでないと生き抜けないからな」


 野生の獣も大変だ。まあ、だからって同情はしないがな。


 残りの血抜きをやり、ホームに運んでいく。


「タカト、なにこれ?」


 ホームの中で一服してたら雷牙が入ってきた。


「グルングって魔物だ。なんか美味いらしいから一匹持っていっていいぞ」


 てか、今どこにいるんだ?


「そう? なら、一匹もらっていくよ。今、新要塞都市にいるから」


 新要塞都市か。なら、肉はもっとあったほうがいいだろうから三匹持っていかせることにした。


「魔石は取り出してないから注意しろな」


「了解」


 トイレに入ってきたようで、済ますとグルングを担いで外に出ていった。


 じゃあ、オレもと立ち上がったらラダリオンが入ってきた。


「美味しそう」


 見ただけでわかるんだ。なんの才能だろうな?


「グルングか。久しぶり」


「ご馳走なのか? マーダ族は喜んでいたみたいだが」


「うん。ご馳走。あたしは一切れしか食べられなかったけど」


 ラダリオンの場合、一切れでもずっと覚えていそうだな。


「何匹か持っていっていいぞ。魔石は取り出してないんで気をつけろよ」


「じゃあ、十匹持っていく。皆、肉食べてないから」


「ああ。持ってけ持ってけ」


 数も多いしな、皆に行き渡るようにしてやるといい。


「それでも残り十八匹か。ミサロにもやるか」


 トラクターで入ってこればトレーラーで出せんだろう。五匹ほど載せておくか。 


 トラクター用のトレーラーを引っ張り出してきてグルングを載せた。


「これを見ればわかるだろう」


 なかなか入ってこないので諦めて外に出た。


「サイルスさん。帰りますか。また明日探索しましょう」


 もう十五時を過ぎて寒さが増してきた。雲行きも悪くなったので帰るとしよう。


「そうか。お前が動けばなにかあると思ったんだがな。残念だ」


 サイルスさんの中ではグルングが大量にいたことは「なにか」ではなかったようだ。


「冒険者の発想ですね」


 オレはゴブリン駆除員。稼げないなら平和なほうがいいわ。


「ふふ。そうだな。おれは冒険者としての生き方のほうがあっているからな。こうしているほうが楽しいよ」


 冒険者ギルドで見た顔ではなく、野性味に溢れた笑いだった。

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