第1032話 湖
シエイラとの話を終えてルースブラックに向かうと、樽をたくさん積んでいた。なにそれ?
「塩です。ロンレアで作ったものが運ばれてきました」
職員に尋ねたらそんな答えが返ってきた。
「塩ってそんなに早く作れるものなんだな」
「巨人がいますし、ヒートソードを使っているそうですよ」
ヒートソード、大活躍だな。本来の目的には使われてないけど。
「塩、足りてないのか?」
「そのようですね。流通が完全に途絶えてますので」
海岸線沿いは魔王軍に支配されたか滅ぼされたかのどちらかだろうから、塩を作っているところも壊滅した、ってことだろうな。
「そうか。麦と交換できたらいいな」
その辺はミリエルが上手くやってくれるだろう。
「麦を手に入れたらマーダ村にも回してくれ。パンを作らせるから」
そろそろ窯を作らせようとしていた。パンの味を覚えさせたら定住する気持ちも強くなるだろうよ。
「わかりました。ミリエル様に伝えておきます」
ルースブラックには職員も乗っている。報告連絡は職員の仕事だからな。
樽が載せられたらオレも乗り込み、マーダ村に運んでもらった。
「塩って案外重いんだな」
一樽百キロだろうか? 十樽載っているから一トンだ。ルースカルガンは二・五トンまて積載できるが、やはり一トンも載せると魔力の消費は激しいのな。
「速度も出てないな」
時間ができたらルースカルガンも改造してもらうか。
それでも難なくマーダ村に到着。樽を二つ降ろしてもらった。
「じゃあ、気をつけてな」
ルースブラックを見送り、姿が見えなくなったらサイルスさんやマルゼたちがやってきた。
「なにかありましたか?」
「いや、これと言ったことはない。昨日は巨人たちに酒を振る舞って親交を深めたよ」
意外と、と言ってはなんだが、サイルスさんはコミュニケーション能力が高い。種族とかも問わないので、仲良くなるのが早かったりするのだ。
「巨人になったんですか?」
「ああ。あれはなかなかエグいな。二回やっとだったよ」
「体に異常は?」
二回と言ったって巨人に飲ませるだけの酒を抱えてだろう? よく平然としてられるな?
「問題はない。栄養剤も飲んだからな」
それでいてこれ? オレのときは凄い空腹感が続いたものだが。なにか別の力──魔力か? 魔力もエネルギーに変換されているのか?
「……元々、魔力をエネルギーにしているのか?」
魔力に変換するために食わなくちゃならない、とかか?
「うーん。女神製はよくわからん。マルゼ。巨人になって村に塩を持ってってやってくれ」
「わかった」
巨人になれる指輪がマルゼに渡り、巨人になって樽をつかんで村に運んでいった。
マルゼでも片手で樽をつかめるか。両手で二百キロ。巨人になると筋肉量が変わるから三、四倍は力持ちになるみたいだな。
「サイルスさんたちは、村でも見て回っててください」
なにを見て回るかは皆様にお任せし、オレは湖に向かった。
「桟橋が欲しいな」
柵を作っている巨人に声をかけ、十メートルくらいの桟橋を作ってもらった。
「ここにも小屋を作ってくれ。そう立派なものでなくていいからさ」
雨宿りできるもので構わない。焚き火ができたらそれでいい場所だ。
「誰か湖に入ってくれるヤツはいないか? 深さを知りたいんだよ。やってくれるなら酒を一本やるよ」
昨日のことが忘れられないのか、希望者がわんさかと出た。これじゃ収まりもつかないので仕方がないので三人に任せ、あとはジャンケンで決めた。
冬の湖は冷たいだろうに、巨人の皮膚(痛覚か?)が厚いようで、そこまで嫌がる様子はなかった。今、気温は二度ですよ。
「手前はそんなに深くなく、桟橋の先は二メートルくらいか」
巨人の膝くらいまでで、それ以上は深くなっているようだ。
「ありがとさんな」
マルゼにきてもらい、ワインを巨大化してもらって三人に渡した。
「仕事があるならいつでも言ってくれな」
溢れた者たちが酒飲みたさに仕事を求めてきた。完全に酒の虜となってんな。
「ああ。そのときは声をかけるよ。まずは柵の完成を頼むよ。終わったら酒を振る舞うからさ」
それでやる気全開。柵作りに戻ってくれた。
桟橋を進み、湖にジャンプしてホームに入った。
奥に片付けたプレシブスを天井クレーンで玄関まで持ってきた。
「平らな場所に置けるような造りで助かったよ」
安定フィンが収納されているので、床に置いても倒れないでいる。元々、陸揚げするように造ってあるんだな。
プレシブスに乗り込み、外に出た。
少し上だったようで水面に叩きつけられ、水飛沫を浴びてしまった。冷た!
こんなことなら戦闘強化服を着てくるんだった。水上、思ったより寒いでやんの。
一度、桟橋に接岸させ、杭とプレシブスをロープで繋いだ。
落ちている石を集めて焚き火をこさえて体を温めた。
「巨人、よくこの寒さの中、湖に入ったものだよ。オレなら絶対、風邪引いてるわ。ふぇっくしゅっ!」
プレートキャリアからスキットルを出して体の中から温めることにした。
冬の湖、ナメてごめんなさい。
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