第1031話 すべての道は

 予想どおり、マルゼは五日で慣れ、三十分は巨人になっていられた。


「おじちゃん! 剣を大きくできたよ!」


「おー。凄いな。腹の具合はどうだ?」


「全然減ってないよ。三時のおやつ前くらいかな?」


 ふふ。子供らしいたとえだ。


「よし。元に戻っておやつにしようか」


 まあ、三時のおやつではなく十時のおやつだがな。


 巨人のDNAに建築スキルが刻まれているようで、発着場の横に立派な家が建てられ、手先の器用なご婦人がベッドやテーブルも作ってくれた。


 お礼に巨大化するのを忘れていた包丁をあげたら、他のご婦人方も家具を作ってくれて三部屋にベッドや家具を置けるようになった。


 ……てか、誰が住むんやねん! って話だな……。


 ま、まあ、誰かが住むだろうと、ランティアックでの回収品を並べていたらルースブラックがやってきた。


「発展がエグいな。巨人たちはなにを目指しているんだ?」


「オレにもわかりません。巨人に道具を与えると発展が加速するもので」


 何百年と放浪して、道具を与えたら二、三百年も時代を進めてしまった。いや、放浪さしていても他の種族や村と交流はあったから可能だったのかもな。


「少し、ここで見ていきますか? 将来の糧になると思いますよ」


「今度はなにを考えているんだ? その辺を話せ」


「オレは最初から道を造ることを目標に動いていますよ。コラウスからマガルスク王国へ。そして、海を目指す道を築く。その途中の町や村はセフティーブレットの味方とする。すべての道は速やかにゴブリン駆除をするために、です」


 空を飛べるようになろうと道は基礎の基礎。基礎があるからこそ応用ができるってものだ。


「……そう、だったな。愚問だった……」


「いえ、皆さんの頭に刻まれるなら何度でも訊いてください」


 ここの人には道の重要性がわからない。頭に地図を持ってないから理解もできない。概念を植えつけるには何度も説明するか世界の広さを教えるかしかないのだ。


「いつか地図を描ける者が欲しいものです。図にすれば皆も頭に入るでしょうからね」


 オートマップを大画面に映せる機能やプリントアウトできる機能があるといいんだがな~。


「ハァー。そうだな。巨人が村を作るところを見るのもいいかもしれんな」


「では、そこの家を使ってください。必要なものは揃ってますんで」


 発電機やトイレも設置した。冷蔵庫の中には酒とジュースも入れてある。二、三日は問題なく過ごせるはずだ。


「その間、オレは館に戻ってプレシブスを運びますんで」


「プレシブス?」


「そこの湖も調べたいので」


 湖はかなり広い。巨大生物はいないみたいだが、魚は泳いでいた。食えるのならドワーフを呼び込むことも可能なはずだ。


「すぐに戻ってきます。なにか必要なものはありますか?」


「今のところはないな」


「では、オレはルースブラックでコラウスにいってきます。マルゼ。皆を案内してやってくれ」


 ここに残る者らとは交流をしていた。マルゼもオレの息子として認識されている。受け渡し役としては問題ないはずだ。


「任せて」


「うん。巨人になれる指輪を渡しておく。必要なら使っていいからな」


 渡したらルースブラックの操縦士の二人にコラウスに向かうよう伝えた。


「交代で操縦しているのか?」


 ガーゲーで操縦士候補の中にいた二人だ。


「はい。四組三体制で動いています」


「じゃあ、定期的に往復してるんだ」


「はい。ミリエル様が決めました」


 そうなんだ。あちらは完全に任せているから重要度の低いものは報告さしなくてもいいと伝えてある。オレの頭では細かいことまで覚えてられないんだよ。

 

「なにを運んでいるんだ?」


 格納デッキにらコンテナボックスが一パレット載っていたが。


「ゴブリンに侵略された町の回収品です」


「ゴブリンがきたのか?」


「先見隊のようです。五十匹ていどの群れにわかれて近隣の村や町を襲っているようです。今のところ千匹は倒しました」


「知能があるヤツが率いているようだな」


 魔王軍には知能を持ったゴブリンがいる。遊撃隊を組織しても不思議ではないだろうよ。


「苦戦していなければのんびりやることだ」


 セフティーブレットの最強戦力を投入している。五十匹ていど、一人で倒せるだろうよ。


 負ける要素もないので、あちらのことはあちらに任せるとする。請負員の稼ぎを邪魔しても悪いからな。


 館にはすぐに到着。そのままプレシブスを仕舞ってある建物に向かった。


「残り二艘か。ガーゲーで造ってもらわんといかんな」


 使わなそうで結構使っているプレシブス。完全に古代エルフの技術に頼り切ってんな、オレ。


 プレシブスに乗り込み、そのままホームに。天井クレーンを使ってガレージ側に移動させた。


「天井クレーンも代えないとな」


 五百キロまで大丈夫なものにしたが、ルースミルガン改は軽自動車くらいはある。さすがに天井クレーンでは移動させられないので、皆で押して移動させているのだ。


「リリカ。マナックが入ったボックスコンテナを一つ、プレシブスに積んでいてくれ」


「畏まりました」


 すっかりガレージ番になっているゴーレムメイド。こいつがいるからシエイラにも必要なものを館に出せるのだ。


「さて。シエイラの顔を見にいくか」


 帰ってきたら顔を見せる。シエイラのためにもオレのためにも安らぎを与え、そして、いただくとしよう。

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