第1030話 息子

 何事もなくマーダ村に到着した。


「うわー! 巨人がいっぱいだ!」


 モニスを見ているから巨人には慣れているだろうが、これだけの巨人が動いているのは壮観だ。この世界で生きているマルゼでもびっくりだろうよ。


「マルゼも巨人になってみるか?」


 巨人になれる指輪は誰でも嵌められるもの。マルゼの指でも問題ないだろうよ。


「え? なりたい! なってみたい!」


 注意事項を教えてから装備を外させ、巨人になれる指輪を嵌めさせた。


「なんだか凄くお腹空いてきたよ?」


 指輪にエネルギーに溜められているはずなんだが、指輪を初めて嵌めたからか?


「この栄養剤を飲んでみろ」


 栄養剤中を渡して飲ませた。


「あ、お腹空かなくなった!?」


 嵌めた者のカロリーを吸い取って生命情報を読み取っているんだろうか?


「まず三十秒だ。空腹に堪えられないようならすぐに戻るんだぞ」


「わ、わかった」


 踏まれないところまで下がり、あとはマルゼの覚悟を待つことにする。


 十秒ほど深呼吸をしたら覚悟を決めて巨人となった。


 感じからして五メートルは超えているか? 確かマルゼは百四十五センチくらいだから約四倍はデカくなるのは皆同じなんだな……。


「こうしてみると、ラダリオンと初めて会ったとき、相当栄養が足りてなかったのがよくわかるぜ」


 大体四メートルくらいだった。それが一年もしないで二メートルも成長してんだからどんな体してんだか。まあ、ラダリオンの場合、身長とか関係なく強いけどな……。


 巨人でも飛び抜けた身体能力と戦闘センスを持っている。今なら一人でもグロゴールを倒せるだろうよ。


「よし! 戻れ!」


 三十秒が経ち、マルゼの巨人化を解かせた。


 よろけた体を支えてやり、地面に座らせてスポーツ飲料を飲ませてやった。


「どうだった?」


「体が重かったし、なんか今、凄くお腹空いてる」


 やはり最初は同じか。


「カロリーバーを食べろ。慣れないうちは栄養剤は飲まないほうがいい」


 まだ幼いマルゼには負担が大きすぎる。一日一粒にしておこう。


「腹が落ち着いたらもう一回やってみるか。五日くらい続けたら三十分は巨人でいられるはずだ」


 辛くて避けていたが、巨人になれる指輪は慣れが必要だ。マルゼも巨人になれるようにしておこう。しばらくここにいるんだからな。


「わかった」


 カロリーバーを三本食べると腹が落ち着いたようで、次は一分にしてみた。


「今度はそんなにお腹が空いてない」


 よろけることなく自分の力で立っていられた。


「また夕方くらいにやってみるか。よく食べてよく休んでおけ。次は五分に挑戦してみようか」


 そのためにもまずはテントを張らないといかんな。いや、巨人に作ってもらうか。ちゃんと雨風を防げて暖炉があったほうがいいだろう。


 RMAXを出したらランティアックで回収したものをフォークリフトで出した。


「マルゼ。とりあえずテントを張って休んでいろ」


「わかった」


 テント張りは任せてオレは巨人になれる指輪を使って回収品を巨大化させることにした。


 剣のような金属類はカロリーを食うので、まずは衣服類を巨大化させ、まだ余裕があるので靴や鞄なんかを巨大化させた。


「ふー。巨人化を繰り返すとカロリーがかかるな」


 栄養剤は一日三粒は飲めるようになったが、これ以上は危険だと止めておいた。


「タカト」


 RMAXの荷台に腰かけて缶コーヒーを飲んでいると、ガガンたちがやってきた。


「お疲れさん。衣服を持ってきたからわけてくれ。金属類は明日な」


 離れたところに敷いたブルーシート上の衣服類を指差した。


「助かる。女衆にせがまれて困っていたんだ」


 女性陣が遠巻きにしていたのはそのせいか。種族が違えど女の習性は変わらんのだな。


「裁縫道具も明日な」


「裁縫道具もあるのかい!? それは助かるよ!」


 巨人でおばちゃん(いや、まだ若いのか?)たちに囲まれるのは恐怖でしかないな。興奮してつかまないでよ。


「ガガン。ここに人間用の家を作ってくれ。家族四人が住めるくらいのを」


「わかった。任せろ」


 衣服をわける者と家を作る者にわけてくれ、女性陣八人で家を作り始めた。


「……おじちゃん……」


「うるさかったか? 眠れないならイヤーマフを持ってくるぞ」


「大丈夫。眠くないから」


 とは言いつつも眠そうだ。


「ほら、横にこい」


 荷台にはマットを敷いてあるので横で眠らせることにした。


 荷台に座り、オレによりかかると眠ってしまった。ふふ。まだまだ子供だな。


「タカトの息子か?」


 忍び足で近寄ってきたガガンが尋ねてきた。


「ああ、息子だよ」


 自然とそう答えた。


「……そうか……」


 オレは東洋系の顔立ちでマルゼは西洋系の顔立ち。その違いから察したのだろう。回れ右して去っていった。


 オレも子供ができて親がなんなのか考えるようになり、親のありがたみがわかるようになった。


 そして、親がいないマリルやマルゼのことを考えてしまう。


 先のわからないオレが二人の将来に責任は持てない。だが、一緒にいてやるときは父親として生きる術を教えてやろう。


 マルゼが起きるまでその体を支えてやった。

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