第1026話 マリバラ嬢

 グルングから出てきた魔石は、赤色だった。


「熱の魔石だったっけか?」

 

 暖房に使われる魔石のはず。この世界の変温動物は魔法で体温調節してんのか?


「しかし、マスクメロンくらいある魔石だと相当な値段になるな」


 金貨何百枚ってなるんじゃないか? まあ、こんだけデカいと需要はなさそうだがな。


「ガガリ。これだけのものになると金が用意できないから物で払うよ。なにがいい? 剣でいいなら五十本は渡せるぞ」


 さすがに巨人の剣となれば鉄の使用量はとんでもないものになる。五十本がいいところだろうよ。


「剣は三十本でいい。残りは衣服にならないか?」


「構わないぞ。じゃあ、用意してくるよ。何日か空けるが、仕事を続けておいてくれ」


 すっかり忘れていたが、ランティアックにいかなくちゃならなかったんだ。そこで揃えるとしよう。


 オレがいなくなることはガガリに伝えてもらい、ルースミルガン改でランティアックに向かった。


 百キロちょっとなのですぐに到着。まずは男爵のところに挨拶に向かった。


「ん? なんか人が増えてね?」


 城の中は疎らだったのに、なぜか人とすれ違うのが多くなった。そんなに人がいたっけか?


 男爵の部屋にも見たことがない男が二人いた。


「失礼します」


 男爵の部屋の扉は開いていたので構わず中に入った。


「よくきた。なかなかこないから心配したぞ」


「申し訳ありません。不測の事態が放ってくれないので、時間がかかってしまいました」


「ふふ。お前のことだ、その不測も上手いこと片付けたのだろう?」


「片付けている最中ですよ。あちらこちらで問題が起こっているんですから。こちらは順調ですか?」


「順調と言っていいかわからんが、周辺の生き残りが集まりつつある。バデットも街からいなくなったしな」


 生き残りがいたんだ。やはり一国を滅ぼすってのは大変なんだな。


「それはなによりです。他も生き残っている町がそれなりにあるようですが、他と連絡が取れないことで疑心暗鬼になっているみたいです。ミルズガンも下手に生き残ったことでこちらの話を真剣に聞いてもらえません。おそらく、主戦場はミルズガンになるでしょう」


 自ら窮地に立ちたいのならこちらも尊重してやろうじゃないか。がんばってゴブリンを全面に受けてください、だ。


「……そうか。無理もないことだ。ミルズガンは独自でも生きていけるだけの力を持つ領地だからな……」


「まあ、いいでしょう。ランティアックはランティアックで周辺を纏めてください。王国を復活させるには数が多いほうが有利ですからね」


 誰を王に立てるかはそちらの問題。オレが口を出すことではない。が、ランティアックが力をつけてくれるならセフティーブレットとしては有利に動けるからな。


「……王国はダメか……」


「ダメにするかはあなた方が決めることです」


 王家の者が一人でも生きていたら御輿にできるんだろうが、いないのなら身分の高い者を御輿にするしかない。でなければ内戦になるだろうよ。


「……そうだな。それはこちらでなんとかしよう」


「必要とあればセフティーブレットが全面的に協力させてもらいますよ。王都から必要なものを取ってくるとかね」


 マガルスク王国でなにをもって国王とするかはわからんが、杖とか王冠とか、国王を示すものがあるはず。魔王軍の将軍が壊してないのなら残っているはずだ。なら、それらを持っている者が主導権を握れるはずだ。


「……そうか。そのときはお願いしよう……」


 ため息を吐いたあと、諦めるように口にした。


「がんばってください」


 ホームから差し入れの品を持ってきて渡した。


「では、オレは街を見て回ってから帰ります。なにかあれば自治領区に手紙を送ってください。オレの仲間がいるので一日二日でやってこれると思うので」


「ああ。なるべくこちらで解決しておくよ」


 ではと部屋を出て外に向かっていると、マリバラ嬢の一団に遭遇した。


 廊下の端により、一礼する。


「あの」


 と、声をかけられて顔を上げたらマリバラ嬢が目の前にいた。


「はい。どうかなさいましたか?」


 周りの者はあまりいい感じはしてない様子だが、相手は十歳の女の子。勇気を振り絞って声をかけてきたのだから応えてやるのが大人ってものだろう。


「ありがとうごさいます。あなたのお陰でランティアックは救われたと聞きました」


 礼を言うために声をかけてきたんだ。なかなかいい子じゃないか。


「ランティアックを救ったのは打算です。その言葉は兵士たちに言ってあげてください。守り抜いたのは兵士たちががんばってくれたからです。マリバラ嬢からの励ましの言葉は兵士たちの力となるでしょう」


 アポートウォッチで飴の袋を取り寄せてマリバラ嬢に渡した。


「飴です。袋を破いて食べてください。甘くて美味しいですよ」


 周りの者が止めないということは、男爵に渡した差し入れがマリバラ嬢にも届いているってことだろう。


「またきたときにお菓子をお渡ししますね。元気でいてください」


 マリバラ嬢に敬礼してその場から去った。

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