第1025話 グルング

 族長の一声で正式にマーダ村と決まった。


 放浪の一族がいきなり村を作るのは無理なので、川があるところにまず家を作るよう提案した。


 約五十人。十数家族が残るそうだ。


 確かに百人規模で放浪するのは過酷すぎるわな。あの巨体を維持するのにどれだけの食料が必要になるんだか。ラダリオンみたいなのがいたら全滅もありうるわな。


 休憩地作りと家作りで、一族総出だ。ホームにあるカロリーバーだけでは足りなくなるかもしれんな。


「ガガリ。マーダ族は狩りとかするよな?」


 村の長になったガガリに尋ねた。


 ガガリは思った以上に若くて十八歳。族長の次男なだそうだ。コミュニケーション能力が高いことから交渉役を任せられていたそうだ。


「ああ。狩りで生きてきたと言ってもいいくらいだ」


「なら、魔石を集めろ。オレが買い取る。その金で必要なものを買うようにしろ」


 ここだと畑を作るとしても大した量は作れないだろう。家庭菜園をするのがやっとだろうよ。


「ただ、子や孫のために魔物は狩り尽くすなよ。どちらかと言えば増やすように動け。この広大な森をマーダ族の縄張りとしろ。今なら人は入ってこれない。ここはマーダ族のものだと宣言しても文句を言うヤツはいない」


 そうだよな。ソンドルク王国からマガルスク王国まで約二百キロ。国とするなら小さいかもしれないが、一種族が生きるには広大な場所だ。誰かに宣言される前にマーダ族に宣言してもらうとしよう。


「まあ、今は一つ一つ片付けていくとしよう」


 ガガリだけでなく、聞いていた巨人たちはキョトン顔。まったくわかってない感じだった。


 家は石を積んで作ることにしたようで、近くの川から石を集めることにした。


 オレからしたら岩のようなものも巨人からしたら小石ていどなもの。ついでに川を工事することに。長いこと放浪していただけに団結力はあり、役割分担が決められていた。


 土地を均す者、石を集める者、木を伐ってくる者と、大人も子供もよく働く。一日の仕事量がえげつない。ピラミッドでも一月で造ってしまいそうだな。


「このカロリーバーはいいな。これを食ってから調子がいいよ」


「昔のエルフが作ったものだ。エルフはそれに飽きてパンとか肉とか食っているがな」


「まあ、確かに肉は食いたいな。おれらだとそう食えないから」


「コラウスの巨人もよくそう言っていたよ。去年はミスズが大量に出てたくさん食えたと喜んでいたよ」


「ミスズか。もう何年も食っていないな~」


「あと数年もすれば食えるようになるかもな。巨人が肉を食えるよう巨大な鳥や象を育てている。数が増えたらそれを連れてくるといい。魔石を金に換えれば買うこともできるだろうよ」


「金か。おれらは金の使い方をあまり知らんのだよな」


「ドワーフって知っているか?」


「ああ。人間の国でちょこまか動いているヤツらだろう。話したことはないが」


 ってことはマガルスク王国のほうにもいってるってことか。


「ドワーフも国を創っているから協力してもらうといい。コラウスの巨人も人間に金を管理してもらっている。お前たちもそうするといい」


 種族間交流と種族間協力をしていけば人間に利用されることもないだろう。


「巨人はその大きさを活かして柵を作って金か食料を得るのもいいだろう。たまにそういうことしてるんだろう?」


 そんなことラダリオンやミシニーが言っていたっけ。


「ああ。村の柵を作って必要なものを得ていたよ」


 だからあんなに手際がいいのか。一日で三十メートルくらい作っていたよ。


「ガガリ! グルングだ! グルングが出たぞ!」


 槍を持った男が駆けてきた。グルング? 前も言ってたな。どんな魔物だ?


「わかった! 武器を持つ者はいくぞ!」


 オレも気になったのでついてってみた。


 槍や剣といった武器を持つようになったからか、巨人たちの動きが大胆だ。ってか、弓矢は使わないんだろうか? あ、使うほどの魔物はいないか。人間でいえば中型犬サイズのものを相手するようなもの。弓矢を使うより近接武器のほうが扱いやすいだろう。


 モニスは小型の弓を持っていたっけ。よほどの腕がないと当てられないんだろうよ。


 近くに現れたようで、森に入ってすぐのところにデッカいトカゲがいた。


 巨人になってもデカいって感じるのだから体長は十メートルはあるんじゃないか? 


 皮膚が堅いようで、鉄の槍でも表面しか刺さってない感じだ。


「あんなのまでいるのか」


 ロズたち、本当によく生きてコラウスまでこれたよな。あいつらスゲーよ。


 ガガリたちは苦戦してはいるが、そこまで窮地ってわけでもない。上手く連携してグルングと戦っており、勇敢な男がグルングに跳びつき、ナイフを目に突き刺した。


「タダオンが倒したぞ!」


 やっとのことで倒すと、誰かがそう叫んで雄叫びを放ち合った。


 巨人の狩りはなかなか迫力があった。やはり大自然の中で生きてきた巨人はおっかねーや。人間を憎む種族じゃなくてよかったよ。


「さあ、解体して運ぶぞ!」


「ガガリ! 魔石を忘れるなよ! 出てきたら高く買ってやるからな!」


 あれだけの巨体だ。さぞや魔石もデカいだろうよ。山崎さんに渡してやろう。

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