第1024話 マーダ村
朝になり外に出ると、巨人たちは働いていた。
「働き者なんだな」
巨人たちの働きを横目に完成した小屋に向かい、パレットを入れてコンテナボックスを積み上げた。
念のためくらいのものなので、小屋一つ分で終わり、周辺に落ちている枝を集めて一つを薪小屋とした。
巨人たちは休憩することなく黙々と柵を作り続けている。
「少し休憩したらどうだ? お茶くらいなら出すぞ」
一人休憩するのもなんなので、オレと窓口になっている巨人に声をかけた。
「いいのか?」
「構わんよ。お茶が口に合うかはわからんがな」
ホームからヤカンとレモンティーの粉缶を持ってきて巨人となった。
「これでお湯を沸かしてくれ」
百人近いのでヤカンは三つ持ってきた。四リットルのヤカンだから巨大化したら十六リットルくらいにはなっているんじゃないか?
巨人なら一杯四リットル。四人分にしかならんか。全員に渡るには昼になってそうだ。
「そのヤカンは好きに使ってくれて構わない。オレが触らなければ十五日で消えるからな」
ヤカンは安いし、十五日で消えても惜しくない。焚き火で沸かすと煤が凄くて洗ってまた使うのも面倒なのだ。
お湯を沸かすのは女性陣に任せ、沸いたらレモンティーの粉をヤカンに入れた。
「器はあるか?」
「ああ。これでいいか?」
と、木で作ったコップを出した。一人一つ持っているものらしい。意外と文化的なんだな。
ヤカンからコップに注ぎ、また族長が毒味役を行った。もし、腹を壊したらどうなるんだ?
「……美味いな……」
「他の巨人も気に入っていたよ。用意しておくから好きに飲むといい」
粉缶は安い。毎日飲んでもこちらの懐は痛まないさ。一日一万円で巨人を百人も雇えるとか、懐が痛むどころか潤ってウハウハだよ。
「報酬の武器や衣服を用意したから分配はそちらに任せる」
巨大化するのも慣れてきた。やっぱこれ、慣れが必要なものだよ。一時間は余裕で巨人でいられるようになったし、栄養剤も三粒は飲めるようになった。このまま続けたら二時間も夢ではないだろうよ。
地面に置いていた武器と衣服を持ってってもらった。
「ところで、あんたらって水浴びとかしないのか?」
我慢していたがそろそろ限界。お前ら臭いんだよ。濡れた犬より酷い臭いだわ。
「冬はしない。下手に水浴びをすると病気になるからな」
病気になるんかい! 湖の水、そのまま飲んでおいて!
「蒸し風呂は知っているか?」
「ああ。人間が使っているのを見たことはある」
「じゃあ、作れ。そして、その臭いのをなんとかしろ。武器をさらにくれてやるから」
この悪臭が消えてくれるのなら武器くらい安いものだ。いや、ただだけど。
巨人のままホームに入ると、強制的にホームサイズになる。そして、剣を抱えて外になると巨人に戻る。ただし、カロリーはごっそり持っていかれるがな。
柵を作る者を割いて岩を集めさせ、蒸し風呂を作らせた。てか、見たことがあるだけでよく作れたものだ。巨人のDNAに刻まれているのか?
薪もたくさん伐らせ、オレの魔法で水分を吸い取ってやる。
順番に入らせ、熱くなった体を冷やすために湖に入っていた。
「気持ちよさそうな顔を見ると、好きで臭くしているわけじゃないんだな」
まあ、旅から旅の生活。水浴びをするのも大変か。ましてや蒸し風呂なんて入ろうとも思わないか。
「肌着も洗えよ。石鹸を渡すから」
長いこと入ってなかったのなら肌着だって洗ってないはず。しっかり洗って綺麗にしろ。
石鹸の成分は十五日後には消える。人体の汚れは環境破壊に……なるか? こんだけいれば? 洗濯は下流でやってもらうとしよう。その水を飲む生き物には申し訳ないがな。
人数が人数なので全員が綺麗になるまで数日かかったが、以前ほどの悪臭は消えてくれた。
「心なしか雰囲気が変わったな」
オレを警戒している空気があったが、蒸し風呂に入り、洗濯するようになると女性陣の笑顔が増え、男たちもいい武器を手に入れたことで雰囲気が柔らかくなった。
「その髭、これで切り揃えろ。身だしなみに気を使え」
クシとハサミ、そして、鏡を渡してやった。
髭を大事にするのはマーダ族も同じなようで、一大お洒落ブームが始まってしまった。
「タカト」
「どうした、ガガリ?」
生活が向上したせいか、オレと窓口になっているガガリともよく話すようになり、名前を呼び合うようになっていた。
髭で顔が覆われてはいるが、まだ若いようで、感じから二十歳過ぎだとは思う。
「ここにおれたちも住んでいいだろうか?」
「……オレは別に構わんが、放浪しなくていいのか?」
どうして放浪しているかはなぜか口にしないんだよな。
「おれたちは数が増えすぎた。だが、間引くのはしたくない。半分をここに住ませたい」
間引くことがあるんだ。となれば、ラダリオンは間引かれたということか……。
「いいんじゃないか。ここを守ってくれるならこちらとしてもありがたいしな。是非ともここに住んでくれ」
今は一人でも労働力は欲しいところ。半分でも住んでくれるなら道も築いてくれそうだ。
「感謝する」
「感謝はいらないよ。ここに住むなら名前が必要だし、マーダ村ってことにするか。それならお前たちの故郷ってことになるしな」
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