第1021話 マーダ族(巨人)
現れたのは巨人だった。
かなり野性的な衣装で、顔は髭に覆われている。近寄ったら凄く臭そうなのがここからでもわかった。
巨人もこちらに気づいたようで、手に持つ石斧を構えた。
「こちらに戦う気はない! あんたはここら辺の者か!」
銃口を下げて問うた。
「……違う。おれはマーダ族だ」
マーダ族? ラダリオンがいた一族か?
「聞いたことがある! 各地を放浪している一族だと!」
「そうだ。よく知っているな」
「コラウスに巨人の村があることは知っているか!」
「ああ。ロースト村には世話になっている」
そっちか。まあ、あちらのほうが山だからな。関わりやすいのはあちらか。
「コラウスの巨人とは仲良くやらしてもらっている! 巨人と対立することはない! もし、急ぎでないのなら取引したいことがある」
「なんだ?」
「ここら辺を平らにして人間用の小屋を作って欲しい。雨風防げるていどのもので構わない。引き受けてくれるなら食料を渡す」
ビニールシートを外し、コンテナボックスからカロリーバーを出してみせた。
「魔法でこれを巨人が食えるくらい大きくできる!」
袋を破いて食ってみせた。
「これを大きくさせる魔法がこちらにはある! どうだ!」
てか、叫びすぎて喉が死にそうだな。早く巨人になれる指輪を使わんと。
「……族長と相談してくる」
「わかった。こちらも用意する」
ミサロには残ってもらい、ホームに入って着替えた。
念のためにとガレージに置いてあるこちらの世界の刃物類、大工道具を運び出した。
「タカト。時間がかかるようなら操縦していい?」
「一人では危ないぞ」
「落ちそうになったらホームに入るから大丈夫よ。いいでしょう?」
「まあ、それならいっか。無理しないようにな」
念のため、セーフティーモードにしておくか。
「わかった。任せて」
ミサロも乗り物好きなところがあり、センスもいい。無茶はしないだろう。セーフティーモードにして任せた。
飛んでいくミサロを見送り、缶コーヒーを飲みながら待っていたら巨人が続々と現れた。
子供の姿がないところを見ると、後ろに隠しているのだろう。ラダリオンから聞いた話より慎重だな。
荷物を持って巨人になった。
「このとおり魔法で巨人になれる。ただ、長いこと巨人になっていられないのでやるかやらないかすぐに聞かせてくれ。これが礼の品だ」
まったく外界と繋がりがないわけじゃないようなので、こちらが巨人になってもそう驚くこともなかった。
「……引き受けよう。人間用の小屋を作ればいいんだな?」
答えたのは槍を持つ男で、なにかデカい獣の皮で作ったものを纏っていた。こいつが族長か?
「ああ。荷物を置くための小屋だ。五つ作ってくれたら鉄の武器もやろう」
腰に差した山刀を抜いて地面に刺した。
「いいだろう。引き受けた」
「道具を渡す。好きに使ってくれ」
また小さくなり大工道具を持って巨人になった。
「食料は前払いだ。この袋を破ればすぐ食える」
また袋を破いて食ってみせ、カロリーバーを入れた作業鞄を族長(仮)の横にいた男に渡した。
作業鞄を持った男が下がり、族長が仲間たちに指示を出した。
「場所はどこでもいいのか?」
「湖から少し離れた場所ならどこでも構わない。時間がかかるようなら鍋と塩くらいならタダで提供するぞ」
さすがになんの材料もない状態だし、小屋を作るような技術力があるとも思えない。二、三日はかかるだろうよ。
「……そうしよう。塩は助かる」
巨人でも塩は大切だ。旅から旅のマーダ族では塩は黄金より価値があるんだろうな~。
仲間に指示を出し、森の中に入っていくと、しばらくして女子供を連れてきた。
……案外、多いな。八十人くらいいるんじゃないか……?
ラダリオンの話では五十人くらいだったのに、この様子ではまだ隠れている者がいても不思議じゃない。もしかしらた百人は余裕で超えているんじゃないか?
元に戻り、栄養剤中を飲む。落ち着いたら鍋と食塩一キロを持ってきて巨大化させる。
「結構慣れてきたな」
これも慣れとかあるんだろうか? あのダメ女神は雑だから使いこなすまで時間がかかんだよな。まったく、説明書くらい寄越せってんだ。
「これは好きに使っていい。邪魔にならないなら持っていっても捨ててもらっても構わない」
この世界の鍋なので熱の伝わりが悪いそうだ。使い道がなかったから巨人に渡すとしよう。
「ありがたくもらう。鉄の鍋は手に入れられないからな」
巨人にしたらそうだろうな。土器みたいなものを使っていたとラダリオンが言っていたからな。
鍋は四人家族用くらいのサイズでしかないが、巨人には最新家電みたいな感じなんだろう。湖で水を汲み、竈で沸かすとなんか干し肉みたいなのを入れ、草、芋なんかを入れて塩で味つけ。族長がまず口にした。
まず上からってより率先して毒味した感じっぽい。二口くらい食べたら他に回した。
ラダリオンからかなり縦社会だと感じていたが、この厳しい環境で生きるにはそうせざるを得なかった、ってことだろうか? だからって非道なことはなく、ちゃんと一族のことを考えている動きだった。
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