第1020話 鬼が出るか蛇が出るか

 夜遅くまでルフェシルさんと飲んでいたので八時過ぎに起きてしまった。


 そう長いこといっているわけじゃないが、なにがあるからわからんから出せるものは出しておこう。


 酒や調味料、石油や灯油を出していたら昼になってしまった。


「ルフェシルさん。あとはよろしくお願いします」


 館の人たちに挨拶したいと言うミサロをダストシュートし、その間にルフェシルさんのところに向かった。


「ええ。お任せあれ」


 昨日も挨拶したのであっさり言葉を交わし、出発準備を始めた。


 榴弾を詰め込み、マナックを補給した。


 昼は早めに済ませたので、缶コーヒーを飲みながらミサロを待った。


「──あ! マルグ、自治領区に置いてきたままだった!」


 姿を見なかったから忘れていたが、母親の許可が下りたからマルグを自治領区に連れていってもらったんだった。雷牙を戻したんだからマルグも戻さないとダメだろう。


 離れにロミーがいるかと思って向かったら、奥様連中がおしゃべりしていた。旦那たちの昼はいいのか?


「ロミー。雷牙を戻すからマルグも戻したほうがいいか?」


「大丈夫だよ。あの子はもうセフティーブレットの一員だからね。師匠のあんたが決めていいよ」


「……そういうものなのか?」


 師弟関係とか未だにわかってない。元の世界の常識に縛られているから七歳の子を働かすとか抵抗しかないんだよな。


「そういうもんさ。マルグのことはタカトが好きにやりな」


 なんとも厳しい時代だ。自分の子供をどう育てていいかわからなくなるよ……。


「……わかった。マルグはオレが責任を持つよ」


 なし崩しに弟子にしてしまったが、あの年代が活躍するときはオレは四十を越えている。今よりさらに体は衰えているはずだ。最前線に立てているかもわからない。後方にいられるためにも今の二十代と十代を育てておく必要がある。


 今を惜しみ、十年後に苦労はしたくない。まだ元気なうちに次世代を鍛えておくとしよう。


「ああ。マルグをよろしく頼むよ」


 うんと頷いてルースミルガン改に戻った。


 しばらくしてミサロがきたので、大まかにルースミルガン改を説明して出発した。


「あまり空は好きじゃないけど、こうして器の中なら全然怖くないわね」


 グリフォンに手綱なして乗るとか、オレでもトラウマになるだろうよ。よく落ちなかったものだと感心するよ。


「ルースミルガンを改造したら種蒔きもできると思うぞ。エルガゴラさんにお願いすれば水も撒けるようになるかもな」


 この世界、小鳥系がいない分、ゴブリンは湧水のように湧いてくる。広大な畑を守るならルースミルガンがちょうどいいかもしれんな。


「水が撒けるのはいいわね。わたしに操縦できるかしら?」


「ミサロは乗り物に強いから大丈夫だろう」


 トラクターなんて一回教えただけで乗りこなせたし、もうプロ並みの操縦技術になっているはずだ。


「それに、ホイールローダーも乗るだろう? 土を運んだりするのに便利だからな」 


「もちろんよ。あれは是非とも覚える乗り物だわ」


 不思議なものだよな、人の才能って。概念すらなかったものに乗るばかりか才能を開花させるんだから。


「これも教えて。乗れるようになればどこからでも通えるんでしょう?」


「ああ。さすがにコルトルスから自治領区までは厳しいが、経由地を回れば大体一日で移動できるはずだ」


 マナックは大量に生産されているので、支部には必要以上に置いてある。急がば回れで移動できるだろうよ。


「じゃあ、途中で交代するか」


 将来、コラウスとランティアックは道で繋ぐ。その中間地点辺りに湖がある。そこを休憩地としよう。


 前に誰かが拓いてくれたようで、Hのマークが描かれていた。


「ミサロ。ホームからカロリーバーが入ったコンテナボックスを四個くらい持ってきてくれ。万が一に備えて置いておこう」


 もう逃げてくるドワーフはいないとは思うが、逃げなきゃならない状況が起こるかもしれない。十五日で消えないものを置いておくとしよう。


 パレットを出してきてピックで固定。コンテナボックスを置いたらビニールシートを被せた。次回は板を持ってきて小屋を作るとしよう。


「じゃあ、ルースミルガン改の操縦を教えるよ」


「ええ、お願い」


 ミサロを操縦席に座らせ、扱い方を教えた。


 ルースミルガンはそう難しくはないので十五分もあれば大体は教えられ、三十分くらい練習させたら飛ばすことはできるようになる。


 コンピューターみたいなものは搭載され、安全装置や半自動装置もついている。よほどのことでもない限り落ちたりはしない造りになっているのだ。


「ん?」


 動体センサーを入れていたら反応を示した。


「ミサロ。ルースミルガン改に乗れ。いざってときはホームに入れな。かなりデカいのが近づいている」


 戦闘強化服を着ているのリンクスを取り寄せた。


「山黒か?」


 動体反応からしてそのサイズだ。いや、これは二足歩行しているな。ロースランか?


 隠れる場所がないので広い場所に陣取り、リンクスを構えた。


 ギシギシと木の間を歩いている音がしてなかなか恐怖感を駆り立ててくれる。さて、鬼が出るか蛇が出るか。なんなんだ?

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