第1019話 ガーグルスの卵料理

 ミサロが冬の間、自治領区にいくことに決まった。


 その間、雷牙は館とコルトルスの町、そして、都市国家を回ってもらうことにした。


 やはり六艇で運用するには行動範囲が広すぎるよな。早くコラウスからロンレアまでの道を整備しないと破綻しそうだ。


 館、と言うかコラウスは今のところ平和だ。請負員もそれなりに揃っている。ゴブリンの気配もそうはない。離れても問題はないはずだ。ルースミルガン改があれば数時間で戻ってこれるしな。


 ミサロが説明してくるまでに、ルースミルガン改で雷牙を館に運んだ。


 夜の飛行だが、発信器が導いてくれるので迷うことはない。自治領区からだとコラウスまで一時間と八分か。条件がよければ一時間を切る感じだな。


 一時間なら館から通ってもいいが、通勤に一時間は嫌だな~。二十分でも嫌だな~って思ってたのによ。


「雷牙。先に入っててくれ。シエイラに顔を見せたら入るから」


 挨拶しないで出発したからな、帰ってきたらただいまを言うとしよう。


 館は夜勤の者だけで、他は食堂で食事をしているとのことだった。


 独身者は大体食堂で食べており、リクリエーションルームでもあるから結構な数がいた。 


 オレに気がついて立ち上がろうとする者もいたが、そのままでと手で制し、シエイラのところに向かった。


 ドワーフやニャーダ族の女たちといたが、すぐにシエイラの横を空けてくれた。


「ただいま。なにも言わず出かけて悪かったな」


「大丈夫よ。こうやって帰ってきたんだから。大変だった?」


「いや、アルズライズやカインゼルさんたちが上手くやってくれたからオレは見ているだけだったよ。マグラスたちも同胞から英雄扱いされていたっけ」


「ドワーフ、結構いたの?」


「約四百人といったところだな。さすがに多いからランティアックまでかなり時間がかかるだろう。途中に生き残った都市があるみたいだからな」


 ドワーフたちもいるので聞かせてやった。


「またあとで詳しく話すが、配置をいろいろ変える。館に駆除員がいなくなるが、ランティアックとの距離が短くなったからちょくちょく帰ってくるよ」


「無理はしないでね。こちらは大丈夫なんだから」


「ああ。安全第一、命大事にやるよ。じゃあ、夜に出てくるよ」


 一度、食堂から出てからホームに入った。


 中央ルームには皆が揃っており、夕飯を始めていた。


「お、卵料理ばかりだな。あれ一つでこんなに作れるものなのか?」


 主に玉子焼き系がほとんどだが、卵を使う料理がテーブルいっぱいに上がっていた。


「大体そうね。半分以上はラダリオンが食べちゃったけど」


 まあ、それはいつものこと。これが我が家の食卓なのだ。


 オレも混ざってガーグルスの卵料理をいただきます。鶏の卵よりちょっと薄いな。味つけされているから美味い、って感じかな?


 ビールのお供としてはちょっと物足りない。これは朝に食ったほうがいいかもな。


「巨人にしたら卵一つでも満足できる量かもしれんな」


「そうね。エサの量が大変だけど」


 確かにあの巨体を維持するエサとなると、広大なエサ用の畑が必要となる。元の世界でも人口増加と食糧事情は対だ。オレらがら生きている間は大丈夫だろうが、百年二百年先はどうなるかわからんな……。


「ドワーフに豆を作ってもらうか? 最初は豆を植えたほうがいいんだろう?」


「別に豆じゃなくても構わないわよ。気候がどんなものか見てから決めるわ」


 農業はずぶの素人なオレには口は出せない。ミサロに丸投げするとしよう。


「プライムデーが近いし、必要なものがあったら遠慮なく買っていいからな」


 今の段階で七千万円を超えている。それだけあれはホイールローダーを四台は買える。マリットル要塞に二台。自治領区に一台。ミズルガンに一台でいいだろう。


「わかったわ」


 夕飯が終わればミリエルから状況を聞き、ノートに書き写したら外に出た。


 時刻は十時を過ぎていたが、シエイラやルシフェルさん、残留組の職員が集まっていた。


「遅い時間に悪いな。シエイラ、眠いようなら下がってもいいんだからな」


 腹も膨らんできた。無理しないようにしてくれよ。


「大丈夫よ。ほんと、心配性なんだから」


「シエイラはあたしたちがついているから任せておきな」


 ドワーフとニャーダ族の女性陣が力強く頷いた。頼もしい限りではあるが、シエイラの負担になってないだろうか? オレなら四六時中ついてられたら鬱陶しいと思うがな……。


「じゃあ、マガルスク王国の状況を簡単に話すな」


 ホワイトボードにマガルスク王国の地図を描き、マリットル要塞、ランティアック、自治領区、ミズルガンと赤い磁石を張り、一つ一つ簡単な状況を話していった。


 それでも一時間以上かかり、なんだかんだと解散したのは二十三時を回ってしまった。


「今のところ順調と言ったところね」


 皆が下がったらルシフェルさんと二人で酒を飲みながら話を続けた。


「ええ。思った以上に順調です。それが逆に怖いところです」


「そういう感覚は大事にしたほうがいいわ。必ず当たるから」


「……当たっては欲しくないですね……」


 そんな感覚を身につけたら胃にきそうだ。


「ふふ。まあ、あなたなら大丈夫でしょう。こちらは任せて自分のことに集中しなさい」


「頼もしい人がマスター代理でよかったです」


「任せてちょうだい。もう汚れる仕事はしたくないしね。大切な職場は命懸けで守るわ」


 よくそれで何百年と冒険者をやってこれたものだよ……。

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