第22章 マーダ編
第1017話 委任状
マガルスク王国に発信器を打ち込みながら飛んでいたからランティアックまで五日もかかってしまった。
「思った以上にマガルスク王国は広かったな」
四国くらいの大きさかと思ったが、九州も足したくらいあるのかもしれない。まだまだ距離感がつかめてないようだ。
バデットが徘徊していることもなく、人の姿が疎らに見えた。
城門前も片付けが始まっているようで残骸や瓦礫がなくなっている。意外と行動力がある土地柄なんだろうか?
城の広場に着陸させると、兵士たちが集まってきた。
「ご苦労。皆、いい顔になったな」
出発したときよりさらに表情が引き締まっている。良好な状況になっているいい証拠だな。
「ありがとうございます!」
敬礼で応える兵士たち。これで意識改革されたらいいんだがな。
「男爵様は?」
「お部屋におります」
やはりあの人はあの部屋に住んでいそうだ。
勝手知ったる他人の我が家。案内されることもなく城に入り、男爵の部屋まで向かった。
さすがに警備の兵士はいるが、オレを見ると敬礼して道を譲っています。
「失礼します」
開け放たれた扉をノックして部屋に入った。
「お久しぶりです。お元気そうでなによりです」
ちょっと気軽すぎたかな? とは思ったが、敬意を忘れなければ構わんだろうと机の前に立った。
「そちらも息災のようでなによりだ。順調のようだな」
「はい。優秀な仲間がいてくれるので最前線を任せられています。現在の状況を説明したいのですがお時間は大丈夫でしょうか?」
ブランデーを取り寄せて机に置いた。
「酔わずには聞けないことか?」
「祝杯みたいなものですよ」
最悪な状況で祝杯もないだろうが、マガルスク王国としては辛うじて朗報の類いだ。祝いとして構わないだろう。
「結果から言うと、マリットル要塞は無事です。集まったゴブリンも全滅はさせてはいませんが、遠くまで下がらせました」
写真を出して男爵に見せた。
「ただ、主要な人物は逃げ去ったようで爵位を持つ者はいません。今はセフティーブレットが司令官を代任させています」
「……あまりいいウワサは聞かなかったが、逃げ去るほどとはな……」
「なので、ランティアック辺境公代理の名で委任状を書いてください。ミルズガンにも書いてもらうので。もちろん期間限定、事が終われば辞任することも明記してください」
こちらには侵略する気はなく、そちらも都合よく使わせないためにだ。そして、セフティーブレットは国の一部にはならないために、だ。
「慎重な男だ」
「仕事を増やされたくないだけですよ。なんでもかんでも押しつけられたら堪りませんからね」
国の復興とか何十年とかかる。そんなことに労力をかけているほどオレは暇ではない。ゴブリンを駆除して暮らしを豊かにする必要があるんだよ。
「ふふ。そうだな。他国の者に頼ってばかりはいられんな。委任状は作っておく。ミルズガンはどうなのだ?」
「まだ接触はしていません。ドワーフのこともあるので」
「そうか。よく纏められるものだと思うよ。ドワーフは放置できない種族だからな」
「女神が創造したかもしれない種族ですからね。人間にも負けていませんよ。ただ、数が少ないだけ。増えたら人間の居場所を奪われるかもしれませんね」
「それでもドワーフに味方するか」
「女神からしたらどの種族が繁栄しようと構わないんですよ。ただ、今回は人間を繁栄させるために動いているだけ。オレはゴブリンを駆除でき、老衰で死ぬことだけを考えて行動しているにすぎません」
オレは人類平和を願っているわけじゃない。極めて個人的なこと。オレとオレの大切な者が生き残ればいいのだ。
「そうか。まあ、お前はそれでよいのかもしれんな。下手な野望は身を滅ぼす。身のほどを弁えている者が最終的に残るものだ」
妙に説得力がある言葉だ。きっと男爵の信条なんだろうな……。
「……三日ほど待ってくれ。それまで委任状を用意しよう」
「わかりました。オレはドワーフのところから通うとします」
館にばかりいると、こちらの様子がわからなくなる。雷牙には悪いが、交代してもらうとしよう。
「それは助かる。ランティアックもまだ落ち着いてはいない。タカトがいてくれるのなら兵士たちも安心するからな」
「それなら周辺を回ってみますか」
最近、車やバイクに乗っていないし、戦闘もやっていない。自分のために時間を使っていない。初心を忘れないよう鍛えなおすとしよう。
「あ、そうそう。これを渡しておきます」
ブラッギーを入れたコンテナボックスを取り寄せた。
「これは薬です。大抵の病気には効果があります。水虫なんかにも効きますよ」
髪を増やせるかまではわからんけどな。
使い方を教え、試しに足を怪我している兵士に打ってもらった。
「……足の痛みが消えました……」
「このとおりです。体調不良の者に打たせてください。なくなったらまた持ってきますんで」
ランティアックの者には長生きして苦労を肩代わりしてもらいたい。病人を労働者に変えてくださいな。
「では、またきます」
そう言って部屋を出た。
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