第1016話 *アルズライズ* 要塞

「送り届けてきたよ」


 夕方近く、タカトが戻ってきた。


「そうか」


 そう短く答えたらため息をつかれた。なんだ?


「お前は所帯を持ったほうがいいと思うぞ」


「おれにはいらん」


 考えたこともなくはないが、目を閉じると二人の姿が浮かび上がる。消えない限り、おれはこのままで構わない。


「お前が居場所とアレクライトをくれた。それで充分だ」


 またため息を吐かれ、姿を消した。しばらくすると、箱に入ったものを持ってきて渡された。


「ミサロが作ったケーキだ。あと、オレはランティアック方面から戻る。ラダリオンはカインゼルさんのほうに回すからしばらくこちらにはこれない。アルズライズの判断に任せるよ」


「ああ。こちらは任せろ」


 フフと笑い、ルースミルガン改に乗り込んで飛び立った。


 消えるまで見送ったら小隊長クラスを集めた。中隊長クラスはいないと言うんだからマガルスク王国は腐っている。


「ルグリア。お前を副司令官に任命する」 


 ナルグは本当に優秀で、組織表を作ってあり、ルグリアを副官として使っていたようだ。


 本当ならルグリアを司令官にして要塞を仕切らせようと思ったが、まだ組織がしっかりしてないところに任せたらそれは丸投げだ。まずはおれが強権を奮うほうがいいだろう。責任もおれが受け持てるのだからな。


「給料を払う部署は残っているのか?」


「辛うじて残っております」


 上のヤツは逃げたということか。本当に腐ってやがる。が、排除できたのだから悪いことばかりではない。駆除してくれたマグラスたちに感謝だ。


「まずは給料を払ってやれ」


 下に置いていたコンテナボックスを机に上げた。


 今、金を払ったところで使い道があるとは思えないが、こちらにはこれだけの金があると兵士たちに示すためのもの。安心させるためのものだ。出すべきときには惜しみなく出す。


「わかりました」


 給料のことはルグリアに任せ、各小隊に町の治安を回復するように命令を下した。


 元々、町は要塞の下に置かれていたので、治安維持も要塞兵士の役目だったとか。揉め事を起こす者は捕まえてゴブリンの死体を片付けさせるとする。


 おれも町に出てドワーフがいたら労働力という名目で取り上げる。この要塞からドワーフは外しておくとする。


「お前たちはソンドルク王国に移ってもらい、そこで田畑を耕してもらう」


 奴隷として生きた時間が長いからか、誰も表情を、いや、感情を出す者はいない。諦めの極致なんだろう。


「そこではロンレア伯爵領の民となって税を払い、発展に貢献してもらう。十年、そこで暮らしたら戸籍を与える。ソンドルク王国ロンレア伯爵領の民とする」


 と言って理解はできないだろうが、食事をさせ、綺麗な服を着させると、自分たちが置かれた状況を理解できてきた。


 タカトほど人を見る目はおれにはないが、リーダーシップを発揮する者は見ていればわかる。そいつらを集めて代表格とし、同胞たちを纏めさせた。


 第一陣をアレクライトに乗せ、ロンレア伯爵領へと運ばせた。


 アレクライトの足なら五日もあればロンレア伯爵領までいけ、ミサロにランティアックで集めたものを出してもらい、こちらに送ってもらった。


 マガルスク王国にはまだまだドワーフがいる。どこから流れてくるかわからないから必要なものは今のうちに用意しておくことにしたのだ。


 町の治安が戻ると秩序も戻ってくる。


 こちらにはカロリーバーがあるのでそれを報酬としてゴブリンの死体を片付ける仕事をさせる。


 食うものがあるなら心に余裕が出てくる。どこから調達してくるのかわからないが、屋台が並び始めた。


「司令。どうやらソンドルク王国から行商がやってきているようです」


 兵士に探らせたらそんな答えが返ってきた。


「行商? 儲かっているのか?」


 おれは商売のことはさっぱりだが、需要と供給はタカトから教えてもらった。需要がなければ商売は始まらず、供給は儲けがないと起こらない。要塞になにか儲けとなるものなんてあるのか?


「塩作りの村が復活したのだと思います」


 塩? あ、あったな。用もないから忘れていた。


「売れるのか?」


「マリットルの塩はかなり有名なので売れると思います」


 そうなのか。まったく知らなかった。やはりおれには領主のような真似事はできんな。まあ、やろうとも思わんがな。


 おれはゴブリンを逃がさないために要塞を回復させ、終わったらマガルスク王国に返す。税の徴収や復興は生き残った貴族がやればいいのだ。


「商売が復活するならそれでいい。治安維持はそのまま続けてくれ。片付けの進み具合はどうだ?」


「あまりよくありません。数が数なので追いついておりません」


 まあ、こちらは三百人いるかどうか。数万もの死体を片付けるには圧倒的に足りてない。今が冬でなければ疫病が流行っていたことだろう。


「そうか。無理はさせなくていい。これから寒さは厳しくなるからな」


 少しずつやっていくしかあるまい。こちらが有利なんだからな。


「ルグリア。留守を頼む。おれは少し酒代を稼いでくる」


 ニヤリと笑ってみせた。


 人心掌握には酒が一番。たまに出て酒代を稼ぎ、兵士たちに振る舞う。兵士たちも支持してくれているので敬礼で見送ってくれた。


 さあ、稼ぐとするか。


 ─────────────────


 2024年 9月1日 (日)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る