第1015話 *孝人*

 ナルグさんがマルデガルさんを見る目が子供が親を見る目そのものだった。


 オレは人の恋愛に鋭くはないが、マルデガルさんにはナルグさんくらいがちょうどいいんじゃないかと思うのだ。


「なにをすればいいのだ?」


「まずはゴブリンを駆除してもらいます」


 請負員と駆除員が併用できるかわからんが、あのダメ女神ならそんな細かくルール決めしているとは思えない。そもそも請負員制度はなかったもの。オレの思いつきで始まったのだ。細かいルールなんて気にかけるわけがない。どちらのルールも適用されるだろうよ。


 まあ、その辺のことは後々で構わない。まだセフティーホームに入れないのだ、それまでしっかり稼いで報酬を得てもらうとしよう。


「いや、その前に兵士たちを集めてアルズライズを要塞の総司令官に任命してください。アルズライズは使えそうなヤツを選別して将来の司令官に育てあげろ。必要な手続きや問題はオレがなんとかするから」


 ランティアックとミルズガンの後ろ盾があるならなんとでもなる。アルズライズのいいように任せるとしよう。


「まともそうに見えて目茶苦茶な男だな」


「それがタカトという男だ。難しいことは考えずタカトの言うとおりにしたらいい。ナルグに罪がいくことはない」


「ええ。罪になったとしてもオレが握り潰しますから安心してください」


 ありがたきは権力者。権力を持っている者は黒でも白にさせられるのだ。


「……恐ろしいことだ。言うとおりに動くとしよう」


 すぐに兵士を要塞の中庭に集め、アルズライズに要塞司令官を受け継ぐことを周知させた。


「おれはアルズライズ。他国の者だが、従うなら悪いようにはしない。出世もさせるし給金も弾む。そして、酒場も復活させる。さすがにゴブリンが襲ってくる前に戻すことはできないが、お前たちの未来が不幸にさせないことを約束しよう。どうかおれを信じてついてきてくれ」


 アルズライズの宣言に兵士たちが湧き上がった。


 それだけ追い込まれていたってことだろう。そして、希望が見えたんだろう。こういうときはアルズライズのような見た目がごっついほうが支持されやすいんだろうな~。


「ナルグさん。あとはアルズライズに任せてゴブリンを駆除しにいきますか」


 請負員カードを発行。ナルグさんを請負員にしたらルースミルガン改に乗ってゴブリンが群れるところに向かった。


「ナルグさん。ここを押してください」


 榴弾を発射させるボタンを押してもらった。


 弾数は増やさなかったが、榴弾の威力を上げてもらったので、結構な量を駆除することができた。


「請負員カードを見せてください」


「わかった」


 見せてもらったら五十万円を超えていた。


「うーん。思ったほどではないな。もう一回やるか」


 威力は上がったが、マルダートほどではないか。所詮、支援機でしかないか、ルースミルガンは。


 二度、榴弾を補給してゴブリンに落としてやると、なんとか二百万円を超えてくれた。


「まあ、これだけあれば大丈夫でしょう」


 請負員カードの使い方を教えたら食材を買わせた。


「カレーとシチューは食材を切って放り込んで煮るだけです。この二つを覚えたらしばらくは困りません」


 炊飯器は渡してあるのでご飯は大丈夫。コンロや冷蔵庫はあったはずだからカップラーメンとかできあいのものを買えばマルデガルさんも納得するはずだ。あの人、そこまでグルメでもなかったからな。温かいのを食えたら文句は言わんだろうよ。


 たくさん作って覚えてもらい、作ったのは兵士に食べてもらった。


「兵士たちの顔つきが完全に変わったな」


「人間、食えていたら希望は持てますからね」


 この世界に連れてこられてから食の大切さを知ったよ。美味いものを食う。楽しく食う。たらふく食う。それが大事なんだってな。


 時刻も時刻なので今日はこのくらいにしてアレクライトに移り、ナルグさんに回復薬中を飲んでもらい、プランデットの使い方を教える。


 この人、なかなか優秀なようで、大まかな機能は使いこなせるようになった。


 その日はゆっくり休んでもらい、戦闘強化服、道具、AER、アサルトライフルの扱い方を一日かけて学んでもらった。


「これだけ覚えたらマルデガルさんと一緒に戦えるでしょう」


 本当はテントの張り方やサバイバルも教えたかったが、十年以上兵士をやっていた人。オレなんかより逞しく生き抜けるだろうよ。


「いいですか?」


 朝、完全装備で現れたナルグさんに尋ねた。


「ああ。いつでも」


 いつでも覚悟を決めた顔をしていたが、今日はさらに表情が引き締まっているよ。


 ルースミルガン改に乗り込み、出発した。


 マルデガルさんとは二、三日の距離だが、空を飛べばすぐ。王都らしき街並みがみえたくらいにゴブリンの気配がごっそり空いた場所があった。


「降下させます。用意はいいですか?」


「ああ、構わない」


 空いた場所にルースミルガン改を降ろした。


「マルデガルさんをよろしく」


「任せろ」


 ルースミルガン改から飛び出したら急速に離陸した。


 そのまま高い山に向かい、ゴブリンがいないことを確認したら着陸して発信器を打ち込んだ。


「あれが王都か。デッケー」


 さすが一国の首都。視界には収まり切れなかった。


 しばらく眺め、二人の健闘を祈ったら要塞に戻った。

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