第1011話 *マルデガル* 1

「マガルスク王国にゴブリンが?」


 王都までやってきて、セフティーブレットのウワサを聞いて港にやってこれば、マガルスク王国に魔王軍が襲ってきたと話を聞かされた。


「いつだ?」


「三十日前くらいです」


 そんな前かよ! こっちにも報告してくれ! 


 こっちはタカトのように純粋な駆除員ではない。女神の支援もない。ただ、駆除員の能力を引き継いだだけ。スタートが違いすぎる。


「なんて言っていても仕方がない。マガルスク王国なら十日もかからんか」


 おれは異世界の品を買えない。この世界のものを買ってセフティーホームに入れるしかないのだ。


 まあ、元々この世界に生まれ、四十年以上生きてきた。今さら異世界の品がなくても不自由はないが、酒だけは異世界のものでないとダメな体になってしまった。


 タカトからもらったものを大事に飲んでいたが、とうとうなくなってしまった。早く合流して酒を売ってもらわないと気が狂いそうだ。


「酒ならありますよ。コラウスから運ばれてきますんで」


 案内してもらった酒場にいくと、カウンターの奥の棚にズラリと酒が並んでいた。ス、スゲーな……。


「ここは、ブレット一家の酒場です。必要なものは揃っていますんで覚えておいてください」


「ってことは利用できるってことか?」


「はい。もちろん、金はいただきますが」


 売ってくれるなら金くらい惜しくはないさ。金なら無駄にあるからな。


「じゃあ、ビールを箱で買えるか?」


「大丈夫ですよ。二日前に補給されたので十箱までなら渡せます」


 まあ、セフティーホームはそこまで広くない。五箱にしてワインを三十本買うことにした。


「金が足りなくて助かりました。最近は食料が高騰してるもんで」


「そう言えばそうだったな。暴動になりそうか?」


 王都はそんなにピリピリはしてなかったが。


「そこまではなってません。カロリーバーを流しているので」


 古代エルフの食料か。あれは便利だよな。味はまあまあで、袋を破らなければ何十年と保存できる。とは言え、毎日は飽きるので市場を回って食料品を買い込んだ。


「確かに値上がりしてんな」


 王都は元々物価は高かったが、前きたときよりパンが二倍になっている感じだ。


 肉は途中で捕まえればいいので大体がパンで、あとは燻製肉と豆を買うくらいだ。


「こんなものか」


 夜はセフティーホームに入れるというのは冒険者として本当にありがたい。魔物の心配もなく雨風に当たることもない。ぐっすり眠れて風呂にも入れる。


 軟弱になっているな~と思いつつも野宿などしたくもない。セフティーホーム、マジ神だわ。


 昼間は走り続け、夜はぐっすり眠る。快適と言っていい進みをしていると、たくさんの馬車と荷物を背負った一団と遭遇した。


「マガルスクからの難民か?」


 魔王軍の襲来。王国が滅んだというウワサも耳にする。この数ではマガルスク王国は滅びたと見ていいかもしれんな……。


 まあ、マガルスク王国の民には申し訳ないが、ゴブリンが大量にいてくれるのはありがたい。こちらとしては料理ができる仲間が欲しいんでな。


 道をグングン進むと、ドワーフが集まる集団がいた。


 銃を持っているところをみるとセフティーブレットの一員か?


「すまない。セフティーブレットの者か? おれは駆除員のマルデガルだ。情報をもらいたい」


 警戒の目を向けられたので、刺激しないよう声をかけた。


「セフティーブレットのシーグです。駆除員なんですか?」


 若いドワーフが代表として出てきた。


「ああ。駆除員の子孫で女神に駆除員にしてもらった。マガルスク王国に魔王軍が現れたと聞いてやってきた。証拠となるかわからないがセフティーホームに入れる──」


 そう言ってセフティーホームに入り、すぐに出てきた。


「し、失礼しました。使徒様」


「いや、おれは使徒の子孫ってだけだ。マルデガルと呼んでくれ。タカトみたいに立派なもんじゃないからな」


 タカトは嫌がるだろうが、もうそれだけの存在として上に立たねばならない。下にもそう思わせなくてはならない。日頃からタカトを立てておくのは大事だろう。


「わ、わかりました。マルデガル様」


 様もいらんのだが、こいつらからしたらおれも同じようなもんだろう。否定ばかりもしてられんか。


「お前たちはなにをしているんだ?」


「まずは山を通ってマガルスク王国側に向かい、自治区を目指します」 


 タカトが絡むと話がどんどん前に進むな。おれにはついていけんよ……。


「そうか。おれはマリットル要塞に向かうか」


 マガルスク王国側にはカインゼルたち請負員がいるならゴブリンの奪い合いが起こる。ここはマリットル要塞に向かったほうが稼げるような気がする。


「あ、すまないが食事はできるか?」


「それならあそこで食べてください。常に温かいものを作ってますんで」


「それはありがたい。温かいものなんて久しぶりだ」 


 ドワーフの女にシチューと焼き立てのパンをもらい、感謝していただいた。あー早く料理ができる仲間が欲しいぜ。


 腹一杯食い、鍋にシチューをわけてもらったらマリットル要塞まで一気に駆け抜けた。

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