第1010話 *アルズライズ* 要塞

「──船長。マスターから通信。要塞にくるそうです」


 指令室でナルグにマガルスク王国のことを聞いていたらミクから通信が入った。タカトから通信?


「了解。なにでくるか言ってたか?」


「ルースミルガン改だそうです」


 確か、ガーゲーで改造しているとか言っていたな。ホームに入れられるようになったのか。


「港に降りるよう言ってくれ」


「了解です」


「ナルグ。セフティーブレットのマスターがくる。アレクライトで紹介する」


 せっかくきたのだからナルグを紹介しておくとするか。


「ウワサのマスターか。どんな男か楽しみだ」


「手は出すなよ。周りから殺されるから」


「出さないよ。こんなデカい女など興味もないだろうからな」


 百八十はあるか? おれより小さいからデカいとか感じなかったが、一般的にデカい身長ではあるな。


「そうか? 女はそのくらいのガタイがあったほうがいい。軟弱では戦えんぞ」


 陸の女は細くてダメだ。島の女は余裕で男と殴り合えるぞ。


「ふふ。口説かれているのか?」


「貴族に手を出すつもりはない」


 そこまで節操なしではない。貴族に手を出して首を跳ねられたくないわ。


「この国では男爵など平民と大して変わらんよ。ただ、上の失敗を負うための存在さ」


 自嘲気味に笑うナルグ。実際、偉いヤツが逃げるまで殿をやらされているのだから笑うしかないな。


「出世がしたいならタカトに言っておくぞ。あの男は人たらしだからな。偉いヤツを唆してナルグを伯爵にするくらい雑作もないさ」


「お前のところのマスターは神かなにかか? いや、使徒だが……」


「あいつはバケモノだよ。見た目に騙されるな。するりと懐に入られるぞ」


「お前のようにか?」


 ナルグの返しに思わずキョトンとなってしまい、続いて笑ってしまった。


「ああ。そのとおりだ」


 懐どころか心にまで入られてしまった。あいつだけは死なせたくないってくらいにな。


「……それほどの男か……」


「自分の目で確かめるといい。いくぞ」


 ナルグを連れて港に向かうと、ちょうど着陸するところだった。


 灰色の機体が黒く塗り替えられているが、どこを改造したから見た目ではわからない。マナ・セーラを換えたのか?


 静かに着陸し、簡単な装備をしたタカトが降りてきた。


「ご苦労さん。順調のようだな」


「ああ。数が多いだけで楽なものだ。ラダリオンが暴れて下がられてしまったがな」


 さすがにあれだけ暴れられたら魔王軍もビビるだろうよ。こちらとしてはあのまま続けてくれたらさらに二万匹くらいは駆除できたんだがな。


「まあ、マガルスク王国から出さないでくれたらそれで構わんよ。魔王軍は自ら袋小路に入ってくれたんだからな。いずれ、逃げ出しやすいほうに押し寄せるさ」


「自滅はしないか?」


「ゴブリンのエサとなるバデットが徘徊している。冬の間はエサに困ることはないだろう。ここから去るようならミジャーの粉でも撒いてやるといい。のんびりゴブリンを駆除していればいいよ」


 バデットか。すっかり忘れていた。マガルスク王国の民がエサにされるとか魔王軍はエゲつないな。それを見抜くタカトはもっとエゲつないがな。


「ところで、そちらは?」


「マリットル要塞の現司令官のナルグ・ライックス男爵だ」


「男爵? 押しつけられましたか?」

 

 やはりタカトにはわかるか。こういうところが呆れる。心でも覗いているのかと思うよ……。


「ああ。自分たちが逃げる時を稼げと面と向かって言われたよ」


「それはいいタイミングできたものだ。なら、正式にマリットル要塞の司令官としてランティアック辺境公の名で認めてもらいましょう」


 ふふ。おれが思ったとおりのことを言う。タカトはそういう男なのだ。


「本当に可能なのか?」


「問題ありません。それを咎める者はいないでしょうからね。アルズライズ、ナグルさんを支えてやれ。マリットル要塞の港はこれから重要になってくる。文句を言ってくるヤツは排除しろ」


「了解だ」


 敬礼して答えた。


 魔力炉で永遠に動けたとして、中に乗っている者は生身だ。何十日と乗ってはいられない。港の重要さはタカト以上に知っている。こちらの味方になるなら全力で恩を売っておこう。


「必要なものはあるか? すぐに用意するぞ」


「RMAXを一台とマルダートがあったらもらえるか?」


「了解。マルダートが当たったから四十発渡しておくよ。あ、プライムデーがもう少しだから請負員カードをよく見てろよ。今回はアナウンスが入らないかもしれないからな」


 まだセフティー様は戻ってきてないのか。女神様もなにかと大変なようだ。


 すぐにRMAXとマルダート、あと、缶ビールをパレットで出してくれた。


「要塞の兵士たちに飲ませてやれ。それと、ナルグさんを風呂に入れてやれ。お前は女性に気を使わなすぎだ」


「そうか?」


「そうだよ。ナルグさん。この朴念人に女性の扱い方を教えてやってください。船には女性も乗っているんだから配慮ってものを学べ」


 別に文句が上がってきたことはないぞ。


「フフ。わかった。アルズライズに教えておくよ」


「おい。勝手に了承するな」


 おれは別に女の扱いを覚えなくても一向に構わんぞ。


「お前に拒否権はない。ナルグさんに教育されろ」


 なぜかタカトに蹴られてしまった。なんなんだよ、いったい!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る