第1007話 *アルズライズ* 要塞

「こちらに集まってきたか」


 カインゼルたちのほうに引き寄せられていたのに要塞側に集まってきたということはかなりの数を駆除したか撤退させられたかだな。


「どちにしてもかなりの数がいるものだ」


 ざっと見ただけでも三万はいそうだ。下手したら五万を超えているか? どちらにしても驚きはない。すべてを駆除するまでだ。


「この数を見ても顔色一つ変えないのだな」


 ナグルは暗い顔だ。


 まあ、無理もない。いくらゴブリンとは言え、数が数だ。対抗する力を持っていなければ絶望もするだろうよ。


「セフティーブレットにはどんな窮地も知恵と工夫で乗り越えてきた男がいる。この状況もあるていど読んでおれたちを派遣した。なら、恐れる必要はない。いつものように駆除するまでだ」


 今、セフティーブレットの最高戦力がマリットル要塞に集まっている。これで勝てないようではタカトに会わせる顔がない。


「これを前にしても勝てると言えるか」


「言えるな。いいところを割り当ててくれたものだ」


 全体で約十五万匹。平等に三ヶ所に振り分けたとしても五万匹。これまで駆除した数から三万匹。約八万匹も寄越してくれた。アレクライトにも請負員となった者もいる。稼がせてやらねばならんのだからこの数には感謝しかないさ。


「船長! 十四時方向を見てください!」


 アレクライトから連れてきた船員の一人が声をあげた。


 プランデットをかけて望遠にすると、なにか赤い靄が沸き上がっていた。


「ラダリオンか?」


 赤い靄の中に人の姿があった。


「なんだ?」


 ゴブリンを駆除しているのはわかるが、あんな赤い靄を生み出すような武器などあったか?


「いや、鞭か?」


 右腕を振り回しているということは手に持つ武器。あんなことができそうなのは鞭くらいだろう。


「巨人が使うとなんでも凶悪になるな」


 いや、ラダリオンが使うとか。あいつは武器を扱ったらおれ以上だ。小さくなっても勝てるかどうかだしな。


 突進しながら鞭を振り、隙間なくいるゴブリンを一掃している。


「コール、ライマー、RPGだ! 城門を吹き飛ばせ!」


 マガルスク側は町になっており壁で分かれているが、壁を越すほどの死体で要塞の敷地内にまで入られている。


 役に立っていない城門など吹き飛ばしてやれ。ラダリオンが吹き飛ばしてくれるだろう。


「他はグレネードランチャーを使って遠くの場所を撃て!」


 城塞戦は遠距離戦。RPG-7とM32グレネードランチャーは全部こちらに回してもらった。


 弾もかなりの数がある。もう少しでセフティープライムデー。惜しみなく撃て、とタカトが言っていたよ。


「お嬢、進路変えました!」


 なんかあったか?


 そちらに目を向けたらラダリオンが消え、次に大爆発が起こった。マルダートか。


「ラダリオン一人で片付けそうだ」


「巨人まで仲間がいるのか?」


「ああ。ソンドルク王国の巨人はセフティーブレットについている。タカトが王国と敵対したらすべてが味方となって最前線に立つだろう」


 今やタカトなしで巨人は生きていけないだろう。タカトが危険となれば武器を取って戦うだあろうよ。


 もっとも、その前にラダリオンやミリエルが薙ぎ払うだろうがな。


「爆煙の中からお嬢が出てきました!」


 鞭からマルチシードルに持ち換え、ゴブリンを吹き飛ばしながら要塞のほうに向かっていた。


 ラダリオンの気迫に恐れたのか、ゴブリンどもが逃げ出した。


「要塞内にいるゴブリンが逃げ出しました」


 まだ一キロくらい離れているのにか? まさか撤退の合図が出たとかか?


 ミサロは魔笛でゴブリンを操っていたという。その類いが使われているのかもしれんな。


「グース! 船員を引き連れていきのこりに止めを刺してこい。油断はするな」


「アイアイサー!」


 ライガが使ってたからか、若いヤツの返事がアイアイサーになっている。まあ、別に軍船ではない。規律が守られているなら好きにさせてるよ。


「ラダリオン。聞こえるか?」


「聞こえる」


 ラダリオンに呼びかけるとすぐに返ってきた。あいつはどんな肺活量をしているんだか。まったく息切れしてないな。


「要塞内はゴブリンの死体で埋め尽くされているから港に回れ。おれもそちらにいく」


「わかった」


 通信を切り、ナグルを連れて港に向かった。


 あの巨体ながら身軽というか筋肉が人とは違う。グロゴールをダウンさせるだけの脚力で、おれたちより早く着いていた。


「ご苦労さん。疲れたか?」


「ほどよく」


 あれでほどよくか。タカトは最強の槍を手に入れたよな。


「休んだら補給を頼む」


「わかった。タカトが用意しててくれたからダストシュートする。巨人サイズになるから注意して」


 ライガが言っていたやつか。そうなるとかなりの量になるな。


「了解。あそこに頼む」


 開けた場所からホームに入ってもらい、しばらくしてボックスコンテナが排出された。


「ナグル。兵士に運ばせてくれ」


 兵士の指揮はナグルに任せ、排出されてくるボックスコンテナを運ばせた。


 すべてが排出されたらラダリオンが出てきた。


「おじちゃん。タカトがしばらくマリットル要塞周辺で駆除をやっててくれって。じーちゃんに補給したら内陸部に移動してもらうからだって」


 内陸部か。エサを確保に動いている群れだったな。


「ドワーフたちを連れていくのか?」


「うん。ランティアックに連れていく。あたしはここに残る」


 つまり陽動か。各個撃破していく算段だな。


「了解。充填したルンは出してある。休んでから運んでくれ」


「わかった。ホームてお昼を食べてくる」


 まったく、元気な娘だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る