第1001話 *アルズライズ* アレクライト
ルースカルガン一号艇から送られてくる映像に呆れてしまった。
「……いつも思うが、どこにこれだけの数がいたんだ……?」
軽く見ても五万はいるのではないか? それだけの胃袋をどうやってささえていたか意味がわからん。マガルスクの民を食ったとしても増えすぎだろう。
「とりあえず、港にいるのを片付けるとするか」
マリットル要塞には港があり、アレクライトでも停泊できそうな立派なものだった。
本当は海岸線のゴブリンを駆除しようと思ったが、指揮官でもいたのか、アレクライトの姿を見たら逃げ出してしまったのだ。
「港にいるゴブリンは逃げんな」
となれば要塞周辺にいるゴブリンは特攻か使い捨て要員と言ったところか。知恵を持つのがいるじゃないか。
まあ、烏合の衆を引き連れた将軍など怖くもない。ただ恐れるのはその数のみ。確実に削いでいくまでだ。
「ライズ。少し暴れてくる。あとは任せた」
「ラー」
船長のおれが率先して動くのはどうかと思うが、椅子に座りっぱなしってのも体に悪い。おれは長生きしなくてはならんのだ、日頃から健康に注意する必要があるんだよ。
後部甲板に移動したらレッグバッグからバールを抜いて準備運動をする。
「よし。ニーア、頼む」
ルースミルガンに乗り込み、港まで運んでもらった。
港までは約一キロ。一分もかからず到着。ニーアがEARを窓から出して下にいるゴブリンどもを撃ち払った。
空いた場所に降ろしてもらい、押し寄せるゴブリンどもを薙ぎ払ってやった。
「うん! まだ衰えてない!」
戦闘強化服を着るよう勧められたが、自分肉体を使ってこその健康維持。一時間や二時間、問題なく動ける!
とは言え、狂乱化してはいないようなので、三十分でいなくなってしまった。
「ライズ。プラニグ砲は撃てるか?」
障害物もないのでプランデットで通信してみる。
「問題ない。一号艇で観測砲撃可能だ」
「届く範囲で撃ってくれ」
「ラー」
しばらくして空気を裂くような音がして着弾音が聞こえた。
氷の弾なので爆発はしないが、高いところから撃ち込まれるのでグロゴールでも直撃を食らえばただでは済まない威力を持っている。
加えて海水を使用しているから尽きることもない。雨のように、いや、雹のようにゴブリンどもに降り注ぐだろうよ。
「灯台があるな。あそこに発信器を打ち込むか」
発信器はなるべく高いところにあったほうが受信しやすいとのこと。二十メートルもある灯台なら受発信しやすいはずだ。
灯台の扉は固く閉じてあったが、無理矢理壊して中に入った。
螺旋階段を昇り、灯りのところに着くと死体が転がっていた。
「……出れなくなって自害したか……」
無理もない。逃げ道を閉ざされ、食料もない。窓もないので飛び降りることもできない。気が狂って暴れ死にするのも不思議ではない。
「ここで腐らせるのもなんだ、出してやるか」
請負員カードでブルーシートを買って包んでやり、発信器を打ち込んだら外に出してやった。
「狂乱化してなかったのか?」
着弾音が段々と遠ざかっている。と言うことはゴブリンが逃げ出したということだ。あれだけ集まれば狂乱化するものなのにな。率いているヤツの力か?
遺体を下に下ろし、高台に登ってみた。
マリットル要塞の港はかなり大きく、桟橋は四本。重要な地だってのがよくわかる。
「……復活するのは何年先になるんだろうな……?」
ぼんやり眺めていると、要塞のほうから兵士たちが駆けてくるのが見えた。
港はマガルスク王国側にあり、港まで石畳の道が敷かれいる。
「重要な地だけあって兵士の数も多いようだ」
やってくるのは百人ほど。装備からして貧しているわけでもないようだ。
まあ、ここは国境の要塞。千や二千の兵士がいても不思議ではない。その分、食料消費も激しそうだがな。
高台から下り、兵士たちと向かい合った。
「何者だ!」
「ソンドルク王国の金印冒険者、アルズライズだ」
冒険者ギルドは女神が創ったものだとタカトが言っていた。それならマガルスク王国も体制も同じはずだ。
「金印!?」
金の印を見たら驚いた。と言うことは同じと見ていいだろう。
「金印冒険者ではあるが、ゴブリン駆除ギルド、セフティーブレットの一員である。マガルスク王国の入国と入港の許可を得たい」
王国は滅びたようなものだが、マリットル要塞や生き延びた領地はそれなりにある。後々揉めないように正式に入るとしよう。
「そちらの代表者は?」
「わたしだ」
四十過ぎぐらいの男が声を上げた。
「入港を許してもらえるなら食料をいくらか渡すこともできる」
マリットル要塞としても食料はいくらあっても困らんだろう。ゴブリンをなんとかせんと種蒔きすることすら不可能なんだからな。
「わ、わかった。こちらに」
国境の要塞なだけに問答無用、ということはないようだ。まあ、問答無用なら問答無用で構わん。こちらは要塞など無視してゴブリンを駆除するまでだ。
バールを取り上げられることもなく兵士たちのあとに続いて要塞に向かった。
さて。どうなることやら。
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