第1000話 *カインゼル* 海兵隊

 ライガからドワーフを保護して味方を増やしていると報告が入った。


「思いの外、マグラスがいい働きをしているようだ」


「ルグスは見る目があるからな」


 元冒険者ギルドで受付をしていた男のようで、マグラスの行動を見てタカトに進言したそうだ。


「どこまで流失を防げるかはわからんが、一先ず安心と言ったところだな」


「そうだな。増えたら山を通ってマガルスクに戻すとしよう」


 険しい山ではあるが、ドワーフたちなら問題ないだろう。数百キロの道のりを制覇できるだけの肉体を持っているんだからな。


「そろそろわしたちはマリットル要塞の前に出るとしよう」


「山側から攻めてくれよ。海側はアレクライトがもらうんでな」


「ふふ。冬にプラニング砲は寒そうだ」


 氷の弾を撃つとか、昔のエルフはなにを考えているんだろうな? まあ、海水を使っているから無限に撃てるのは脅威だがな。


「しばらく連絡が取れなくなるが、アレクライトは臨機応変に動いてくれ」

 

 海兵隊を連れていくと戦う人間がいなくなる。獣人たちでは最低限の戦闘しかできんだろうよ。


「ああ。なにかあれば海岸線まできてくれ。すぐに助けを出すから」


「了解」


 アルズライズに敬礼し、ルースカルガン一号艇に乗り込んで出発した。


「ラオルス。マリットル要塞はどうだ?」


「ゴブリンどもに攻められているな。あの中心に榴弾をぶち込みたいものだ」


 その気持ちはよくわかる。ゴブリンが集まるなんて美味しい状況なかなかないこらな。


「まあ、儲けたら酒を差し入れするよ」


「それはありがたい。楽しみにしているよ」


 ルースカルガン一号艇はゴブリンの群れの上を飛び越え、山の中に着陸した。


「タカトのようにゴブリンの気配がわかる能力が欲しいものだ」


 プランデットで熱源を探すが、索敵範囲にはいなかった。マリットル要塞までいかないとダメか?


「仕方がない。粉を撒くか」


 ミジャーの粉は量を間違えるとすべてのゴブリンを引き寄せてしまうからな、場所をよく選んで実行するとしよう。


「ゴルス。やるぞ。罠を仕掛けろ」


「了解」


 報酬でドライアイスを買い、海兵隊員に等間隔に置かせた。


 どれだけ撒けばいいかわからんが、これで殺すのが目的ではない。足止めとして使うまでだ。ドライアイスで殺すと出した者に報酬がいってしまうのだ。


 ドライアイスを並べたらミジャーの粉を周辺にばら撒いた。


「大隊長、ゴブリンがきました!」


 冬でエサもなく飢餓状態になっていると効果は抜群。熱源反応で視界が真っ赤だ。


 意味がないと通常視界に戻してドライアイスに水をかけさせた。


「煙が出たら退避だ! しゃがんだりするなよ!」


 地面に二酸化炭素が溜まっている。これを吸うと女神様の下にいってしまう。無差別なので注意してゴブリンが向かってくる逆のほうに退避した。


「高いところに登れ!」


 念のため高いところに退避し、ゴブリンの様子を見るとする。


 ゴブリンはすぐにやってきてミジャーの粉を食うために四つん這いとなった。


「相変わらず嫌な臭いだ」


 汗臭い中で生きてきたわしでもこの臭いはキツくてたまらんよ。


「臭いに耐えられないときはマスクをしろ」


「このくらい大丈夫です。魚が腐ったときよりマシです」


 漁師はどんな臭いを嗅いできたんだ? これ以上の臭いとか吐く自信しかないぞ。皆に示しがつかんが、これ以上は耐えられんのでマスクをすることにした。


 それでも嫌な臭いに耐えることしばし。ゴブリンの鳴き声が小さくなってきた。


「よし、やるぞ! 左右に散開。元気なのから駆除していけ!」


 数が数なだけにすべてを二酸化炭素を吸わすことはできたい。狂乱化しているのを先に駆除するとしよう。


 わしは木に登り、熱源センサーに切り替えて海兵隊員の動きを追った。


 可能な限りルンを持ってきたが、一万も二万も相手できるほど持つことはできない。手持ちのルンはこれで使い切るだろう。


 だが、それで弾代は稼げる。AK弾は安いから一人千匹も駆除したら弾に不自由することはあるまいて。


 狂乱化しているせいで海兵隊に襲いかかってくることはない。どんどんと駆除されていく。


 一時間くらい過ぎると手持ちのルンが切れたのだろう。AKに持ち換える者が出てきた。


「うーん。やはり二十人くらいじゃ万を相手するには厳しいな」


 わかってはいたが、やはり銃を持っていることに過信しているようだ。気を引き締めんといかんな。


 ドライアイスの煙もなくなったので木を下り、二酸化炭素を吸って苦しんでいるゴブリンの首にマチェットを突き刺していった。


 とは言え、数百匹に止めを刺していくのは苦行でしかないな。ほんと、わしもタカトの戦い方に慣れすぎて手に豆ができてきたよ。


「剣を握るのも久しぶりだったな」


 苦笑いしながらゴブリンの首にマチェットを突き刺して回った。


 回復薬を飲んで手の豆を治し、カロリーバーを噛りながら続けて四百匹。いや、五百匹か? もうわからなくなったよ……。


「大隊長! ゴブリンが退きました!」


 隊員がきたので慌てて表情を引き締めた。情けない顔を部下に見せられんからな。


「よし。今のうちに退くぞ」


 ゴブリンはまだまだいる。初日から全力を出す必要もない。今日はこれで終わるとしよう。


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 とうとう1000日1000話となったか。読んでくださる方がいたからできたこと。感謝でございます。


 2024年 8月16日 (金) 

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