第999話 *マグラス* 派遣小隊

「マグラス! ゴブリンを駆除しろ!」


 ライガの声におれは木の後ろから飛び出した。


 おれたちはもうゴブリン駆除ギルドの一員。セフティーブレットだ。ゴブリンを駆除することに恐れてはダメなんだ。


 EARは何度も撃った。ショットガンも撃たせてもらったこともある。大丈夫。おれらならできる!


「恐れるな! 女神様はおれたちを見ているてぞ!」


 旦那は祈られたり崇められたりするのは嫌いらしく、おれらの信じる神にでも祈っとけと言っていた。


 だが、おれらは神など信じなかった。助けを求めても助けてくれなかったからだ。


「女神様はおれたちを見ている!」


 おれの叫びに仲間たちが応えた。


 神などいなかった。そう信じていたが、女神様はおれたちを救うために旦那を、セフティーブレットを寄越してくれた。


 今さらって思いはある。もっと早く助けてくれよと恨む気持ちもある。


 だが、旦那が言っていた。


「女神は家畜を救ったりはしない。人の繁栄だけを望んでいるだけだ」


 ってな。


 おれたちは家畜じゃない。ドワーフって種だけで人なんだ。


「女神様に愛される人とあれ!」


「おおっ!」


 木々から飛び出すと、人間と同胞がいた。いや、あれは人間の皮を被ったゴブリンだ。


 躊躇いはなくなり、銃口を向けて引き金を引いた。


 他の仲間たちも躊躇ったりはしない。あれはゴブリン。女神様が嫌う害獣なのだ。


 我を忘れてゴブリンを撃ち殺していく。


「駆除完了! 完了だ!」


 ライガの叫びに我を取り戻した。


 なんてことはない動きだったに息切れが激しすぎる。喉が熱くなるくらい呼吸が上手くできなかった。


「息を整えて水を飲んで」


 ライガがペットボトルを渡してくれた。


 なんとか息が落ち着き、ペットボトルの封を切って一気飲みした。


「ライガ、すみません」


「気にしなくていいよ。これが初めてだったんだから。落ち着いたら同胞たちを見てやって。おれが見張りに立つから」


 見た目は十歳くらいだが、やっぱり使徒は違うな。大人びてるよ。


「わかった。マグニは火を起せ。ルクロは水を出せ。ガイズとシーゲは穴を掘れ。死体を埋めろ」


 それぞれに指示を出す。


 おれらは同じ歳くらいで、同じ鉱山にいた者同士だ。おれがリーダーみたいになっているが、おれたちは同等だ。誰か一人欠けてもコラウスに辿り着けなかっただろう。


 とは言え、小隊として動くならリーダーは必要だ。任されたのならやるしかない。


「おれはマグラス。ゴブリン駆除ギルド、セフティーブレットの一員だ。ゴブリンを駆除するためにやってきた」


 レッグバッグからカロリーバーを出し、袋を剥いて十四、五の女に渡してやった。


「食い物だ。たくさんあるから遠慮なく食え。水もあるから取り合う必要はないからな」


 とりあえず腹を空かせているだろうからカロリーバーを食わせた。


 カロリーバーは三つか四つで一食分になるそうで、たくさん食べたからって栄養になるとは限らないそうだが、腹一杯食えることが落ち着かせることに繋がるはず。食い切れない数を出してやった。


「腹が満ちたらお湯で顔を拭け」


「お湯ならホームから持ってくるよ」


 ライガがそう言うと姿を消し、しばらくして湯船を運び出してきた。


 タンクに入れた水を湯船に入れ、剣を水に入れると一瞬にして湯になった。これがヒートソードってヤツか。隊長クラスに渡される神代の武器なんだな。


「タオルもあるから遠慮なく使って。使ったら捨てても構わないから」


 とてつもなく高価なものに見えるが、駆除請負員が触ってないと十日で消えてしまうもの。消えるまで使ってても構わないさ。


 ライガが服も出してくれ、ボロ雑巾みたいな服からまともな服に着替えさせた。


「あ、ありがとうございます」


 代表者らしき男がおれに跪いた。


「おれたちに跪く必要はないよ。さあ、立ってくれ」


 男の肩を優しく叩いて立たせた。


 おれたちは運よく女神様に救われただけ。偉くなったわけじゃない。それを忘れて偉ぶったらゴブリンになってしまう。女神様にも顔向けできなくなる。


「主人を殺したことが憎いってヤツはいるかい?」


 そう優しく尋ねてみた。


 顔を見回し合い、跪いた男がおれを見た。


「……わ、わたしたちはどうなるのでしょうか……?」


「このまま自由に生きろってのも戸惑うだろうから一時的にセフティーブレットが雇い入れる。今はまだ金があっても使い道はないだろうから食料はこちらが用意する。腹一杯食わせてやるからおれたちに従ってくれ」


 ほんと、難しいよな。


 おれたちもこんな感じだった。誰かの命令がなければ動けず、人間たちの顔色ばかり見ていた。今こうして人としての矜持を持てているのはセフティーブレットの職員のお陰だ。


「マグラス。さらなるゴブリンがきたぞ」


 ライガの声に街道を見たらゴブリンの集団がいた。矜持を持つとゴブリンが醜く見てほんと反吐が出るよ。


「ライガ。おれらがやります」


 仲間たちもEARを構えた。


「女神様が嫌いなゴブリンを根絶やしにしろ」


 おう! と気合いの籠った返事に駆け出した。

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