第998話 *雷牙* 派遣小隊
コラウスからドワーフの小隊がやってきた。
タカトに報告して一日二日。それで小隊を送ってくるんだからタカトは凄いよな。前から考えていたんだろうか?
「タカトは相変わらず迅速に動く男だよ」
カインゼルは呆れている。ラダリオンに次いでタカトを見てきた人だから驚くより呆れるほうが勝ってんだろうな~。
「マグラスだったな。わしはカインゼル。今は海兵隊を纏めている。お前たちにはマリットル要塞から追い出されたドワーフを集めてマガルスク王国に戻してくれ。ライガはその補佐だ」
難民をソンドルク王国側に流さないための処置で、ドワーフの自治領区を創るためにドワーフは多いほうがいい、ってことらしい。
おれとしてはゴブリン駆除に参加したいけど、これも駆除員としての役目。我が儘言ってたらタカトに子供扱いされる。
「方法はマグラスに任せるが、こちらの差し出した手を振り払う者は構うな。手をつかんだ者だけを纏めあげろ」
おれたちは人助けをやっているわけじゃない。セフティーブレットが活動しやすくするために味方を増やしている。
ドワーフを味方にして一大勢力にすればマガルスク王国に楔が打てる、そうだ。
おれにはまだ理解できないが、それを見て学ぶために派遣小隊に参加しろとのことだった。
人を纏めるには力だけじゃダメで、言葉だけでもダメだ。金を払うだけでもダメでやる気を持たせるだけでもダメ。必要なときに必要なものを用意できてこそ組織は強くなるそうだ。
難しくて理解できないけど、知らないことを学んでいくのがおれの仕事。五年後、十年後、タカトとシエイラの子におれが教えるんだ。
二人の子はおれの兄弟。兄貴として恥ずかしいことはできない。タカトみたいになんでもできる兄貴になるんだ。そのための勉強ならなんでもやるさ。
「……お、おれがやるんですか……?」
「そう難しく考えるな。お前たちは力を合わせてあの森を歩き抜いたんだ。そのときの苦労を思えば難しくないだろう。カロリーバーはたくさん持たされたんだろ? 足りなければライガに出してもらえばいい」
カインゼルが大まかな計画をマグラスたちに教え、おれはホームに入ってタカトからどんな補佐をしたらいいかを学んだ。
「わからないときはそのときに話を聞くから」
まあ、夜はホームに入ってミーティングを行う。おれも大まかなことを教えてもらったら外に出た。
「ぼっちゃん。よろしくお願いします」
「ライガでいいよ。ぼっちゃんって子供扱いされているみたいだからさ」
確かに見た目は子供だ。でも、人間で言えば十二歳くらい。ぼっちゃんとよばれる年齢でも幼くもない。
「ラ、ライガですか? ふ、不敬になりませんか?」
「ならないよ。おれらは仲間なんだからさ」
タカトからも言われている。年上には敬意を持て。下であることを自覚して、先を進む者から教えてもらうなら真摯に受け止めろってね。
「わ、わかりました。ライガと呼ばせてもらいます」
「じゃあ、おれはマグラスって呼ばせてもらうよ」
おれも怯えて生きてきたからマグラスたちの気持ちはよくわかる。大人や強い者に怯えてきたら上の者に馴れ馴れしくなんかできない。卑屈がもう体に染みついているのだ。それをなくすには時間がかかる。少しずつ関係を深め合っていくしかないないのだ。
「は、はい。わかりました」
タカトみたいに上手く笑えないが、マグラスたちが打ち解けてくれるようにっこり笑ってみせた。今度はおれが受け止めなくちゃならないんだからな。
「よし。陸に出発するぞ」
カインゼルが話を纏めてくれ、ルースカルガン一号艇で陸に向かった。
マリットル要塞付近は目立つので、ソンドルク王国側の森の中に着陸した。
「ライガ。発信器を海に浮かべているから通信はできるようになっている。定期的に連絡してくれ」
「了解!」
カインゼルに親指を立てて答えた。
ルースカルガン一号艇が飛び去り、とりあえず森の中から街道沿いを目指した。
「止まって!」
もう少しで出そうなとき、人の臭いがして皆を停止させた。
「おれが様子を見てくる」
ドワーフたちも森を進むのに慣れているが、物音を立てずには無理だ。おれだけ先行して様子を探った。
木々の隙間から覗くと、ドワーフの一団と金持ちそうな人間がいて、倒れている女のドワーフを蹴っていた。
「このグズめ! これではまた野宿だろうが!」
ハイ、お前はゴブリン。サクッと駆除しましょう。
ブーメランを飛ばして首を跳ねてやった。
「マグラス! ゴブリンを駆除しろ!」
人間の形をしたゴブリンも駆除の対象だ。そこに慈悲はない。
戻ってきたブーメランをキャッチし、木々の間から飛び出した。
ゴブリンは十六匹。大人が十二。子供が四だ。
醜く太ったゴブリンはマグラスたちに任せ、オレは武装したゴブリンを駆除する。
武装したゴブリンはそこそこ強いが、苦戦するほどでもない。二、三撃食らわせたら倒せるていどだ。
マグラスたちも出てきてゴブリンを駆除する。ちゃんとゴブリンと認識できたようだ。
「……た、助けて……」
子供のゴブリンが命乞いをするが、ゴブリンに年齢性別は関係ない。等しくゴブリン。ゴブリンは駆除する対象なのだ。
「ゴブリンに生まれたことを恨むんだな」
おれにゴブリンを人に戻してやる優しさはない。文句なら女神に言ってくれ、だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます