第997話 *マグラス*
「マグラス。いいところにきた。ちょっといいか?」
ミロイドの町からセフティーブレットの本部にきたら担当の職員に声をかけられた。
「はい、なんでしょうか、ルグスさん」
「今日、何人できた?」
「六人です」
なんか仕事の誘いかな?
「六人か。まあ、最初はそれでいいか。ちょっと食堂で待っていろ。好きなもの食っていいぞ」
それはありがたい。おれらは下っぱの下っぱだ。荷物運びで暮らしている。
それでもマガルスクにいた頃より断然恵まれている。働けば給金がもらえて腹一杯食える。たまになら酒だって飲める。本部にきたらこうして美味いものをおごってもらえる。天の国はここにあったんだな。
皆で食堂に向かい、好きなものを食べていたら旦那がやってきた。
セフティーブレットの一番偉い人でマスターと呼ばれているが、おれらドワーフの間では旦那と呼んでいる。マガルスクじゃ旦那ってのが最上の呼び方だったからだ。
「こいつらか?」
「はい。まだ若いそうですが、マガルスクからきただけに体力はありますし、EARの練習もさせてます。人柄も悪くはありません」
な、なんだ、いったい? なんで褒められてんだ?
「そうか。ルグスがそう言うならこいつらにするとしよう」
そう言うと、旦那が消えてしまった。
「マグラス。お前を派遣小隊の長にする。これからマガルスクに向かってもらってカインゼル様の下についてもらう。家族には前金で金貨一枚が払われ、お前たちを駆除請負員とする。あちらでしっかり稼いでこい」
う、請負員だって? おれら、請負員になれるのか!?
「あ、もちろん、嫌なら断ってくれて構わないぞ。無理強いは禁止されているからな」
「とんでもないです! 請負員にならしてください!」
仲間たちも断るなんてことはない。請負員になればさらに暮らしがよくなる。使徒様の配下として名誉も与えられる。もう勝ち組確定だ。断るヤツなんていないよ!
「そうか。命からがら逃げてきたのにまたマガルスクにいくのは辛いだろうが、カインゼル様の下につくなら悪いようには扱われないはずだ。もし、侮辱されるようならちゃんとカインゼル様に伝えろよ。セフティーブレットの一員を蔑ろにするヤツは許さない。お前らもセフティーブレットの誇りを持って行動しろ。汚すヤツはマスターの代わりにおれらが殺すからな」
おれたちドワーフの中でも旦那の言葉は有名だ。種族に関係なくセフティーブレットの一員は見捨てない。どこにいようと助けにいく。だから生きて助けを求めにこいって。
家畜以下の存在だったおれたちには衝撃的な言葉だった。そんなバカなと思った。
だが、旦那は同胞のために半分以上の職員を連れてマガルスクに向かった。他に重要なことがあったのにだ。
「セフティーブレットの一員として恥じぬ行動をします!」
真っ先に敬礼して答えた。
あの人の下でなら命を賭けるだけの価値がある。おれはもう家畜以下の生き方なんてしたくない。どうせ死ぬなら誇り高く死んでやる。女神様の下にいったとき、褒めてもらうんだ!
「その意気やよし。だが、安全第一、命大事にを忘れるなよ」
そうだった。無謀な賭けをするくらいなら逃げろって。生きていれば勝ちだって。逃げたことが恥ならセフティーブレット全員で挽回させてやるってのがセフティーブレットだった。
「まあ、そう意気込む必要はないさ。自分たちにできることをやればいい。取り返せる失敗なら何度も失敗して学べ。それを補うのは上の仕事なんだからな」
旦那は別の世界からきたらしいが、なるほどだと思う。マガルスクにいたクソ野郎どもとは大違いだ。皆が崇拝するのもよくわかるぜ。
「これをお前たちに支給する」
服や靴、EARにリュックサックと、無知なおれらでもわかるくらいのものを渡された。
「い、いいんですか?」
「構わんよ。これはお前たちを守るためのものだ。惜しみなく使え。それと、マグラスはこれを装備しろ。魔法でたくさん入る仕様になっている。数百人分のカロリーバーと薬を詰めておいた。それを使って同胞を組織しろ。補佐としてしばらく雷牙をつけさせるから」
ライガって、あの白い毛を生やした獣人の子だっけ? 一、二回しか見たことないからうっすらとしか覚えてないよ。
「雷牙にも人を纏めるって大変さを学ばせたいからな。よろしく頼むよ」
「お、おれが教えるんですか!?」
ライガって子も使徒だろう? そんな凄い子におれが教えるのかよ?!
「見せてやるだけでいいよ。見たところお前は人を纏めるのが上手そうだからな」
お、おれ、人を纏めるのが上手いのか? てか、旦那と話したのこれが初めてだぞ? それでわかるものなのか?
「配慮もできる男なのでうってつけでしょう」
な、なに、その期待? スッゲー重いんだけど!
「ふふ。上に立つってのはそういうことだ。たくさん苦労して出世しろ」
改めてとんでもないことになったと感じてしまった。
「よし。準備ができたら出発しろ。家族にはこちらから連絡しておくから」
考える暇なく装備を着込み、あれよあれよと空飛ぶ箱に入れられ、マガルスクへと向かわされた。
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