第996話 *カインゼル*

 船橋から陸が見えたと放送が聞こえた。


「了解。発信器はどうする?」


 ルースミルガンの通信を使って返した。


「打ち込める場所があるなら頼む。無理はしなくていいからな」


「では、そうする」


 通信を切ったらすぐにルースミルガンを発進させた。


「タイミングがよかったですね」


「そうだな。マナックを補充は小まめにやっておくものだ」


 副操縦士のルイロは、まだ二十代半ばくらいで、ルースミルガンを受け入れられる柔軟な精神を持っている。


 まあ、さすがにまだ操縦はできないが、それも時間の問題だろう。訓練すれば乗れるものなんだしな。


 陸まで約十キロ、と言ったところだろうか? 海の上では距離感がいまいちつかめない。魔力の減りでどれだけ飛んだかわかるていどだ。


 海面スレスレに飛び、陸間近でスピードを緩めて二、三十キロで飛んだ。


「町らしきものはないか」


 雑な地図を見ての航海だからズレるとは思ったが、これはかなりズレた感じっぽいな。


 山まで少し遠いところを見ると、まだソンドルク王国内のようだ。マリットル要塞はまだ先か?


「ルイロ。あそこの山に発信器を打ち込むぞ」


 波が当たるところは不味いだろうから山の上に打ち込むとする。


 距離は二キロもないだろうからすぐに到達。山頂の岩肌に発信器を打ち込んだ。


「少し周囲を探るぞ」


 映像からでも位置を把握できるという。なるべく周辺を映してからアレクライトに戻った。


「アルズライズ。マリットル要塞はまだ先のようだ。海岸線を進んでいいと思うぞ」


 戻ったらマナックの補充はルイロに任せてアルズライズに報告と提案を告げた。


「人の姿はあったか?」


「なかった。もう少し進まないとわからんだろうな」


 金印になっただけにアルズライズは指揮官としても優秀だ。全体を見ることもできる。タカトもそう見てるからアルズライズにアレクライトを任せたのだ。


 ……わしとしても助かる。わしは最前線に立ちたい男だからな。今さら代われと言われても全力で拒否するよ……。


「そうか。なら、海兵隊の半分を陸に降ろして斥候にするか? 陸の様子も知っておきたいからな」


「では、わしが指揮する。発信器も持っていけばより正確な位置がわかるだろう」


「そうしてくれ」


 話のわかる上司(指揮官)は話が早くて助かる。すぐに海兵隊員を集めて選別。三十分後にはプレシブスを海に降ろして陸に向かった。


 陸から進むのはわしを含めて十人。二つの小隊に分けた。


「わしは第一小隊。パズは第二小隊。第一は海岸線を。第二は山側を進め。マリットル要塞を肉眼で収めたら合流だ」


 情報ではマリットル要塞がある場所は国境であり、狭まった場所であるという。離れて行動しても自然とマリットル要塞前で合流できるはずだ。


「了解」


 まだまだ兵士としては未熟だが、復讐の一念で纏まっている。あまりよい纏まりではないが、今はそれを利用させてもらうとしよう。タカトと一緒にいるならいずれ竜人とぶつかるだろう。


 タカトは女神の使徒。ゴブリンを駆除しろと命令はされているが、行動範囲が広がれば必ず問題とぶつかるのだ。さらに、タカトは仲間の敵は自分の敵と見る。損得関係なしに一緒に戦ってくれるだろう。


 それはアルズライズで証明している。グロゴールなんて人の力でどうこうできないバケモノに向かっていって勝利した。


 その映像は残っており、その映像は海兵隊員に見せた。


「タカトといれば目的は果たせる。そのときまで力をつけろ」


 海兵隊を任された身としてはこれほど楽なことはない。最初から忠誠心マックスのようなもの。まあ、強いのも困るが、そこは培った経験で抑えればよい。無駄に兵士を三十年以上やっていたわけではないわ。


「大隊長、人がきます」


 様呼びされるのは面倒なので大隊長という立場に収まり、任務中はそう呼ぶように言ってあるのだ。


 茂みがないので山側に移動する。


 木々の間から観察すると、避難民とわかるくらい疲れ切った者たちが列を作ってソンドルク王国に向かっていた。


「放り出されたな」


 マリットル要塞の情報は少ないが、何千人何万人も収容できるとは思えない。邪魔な者は追い出すだろう。ドワーフにしたようにな。


「大隊長、あそこにドワーフがいます」


 隊員が指差す方向を見れば確かにドワーフの一団がいた。


「国が崩壊したら人間もドワーフも関係なし、か」


「あれだけの数が流れ込んだらソンドルク王国としてもたまったもんではありませんな」


 教育とは恐ろしいものだ。少し前まで魚を獲る毎日を送っていた漁師が難民が流れる問題を理解できるようになるんだからな。


「そうだな。食糧難に陥っているソンドルクに向かっても暮らしはできないだろうに」


 タカトならなんとかできそうだが、わしにそれを解決させる知恵はない。


「ライガに報告させるとしよう」


 情報を頭に入れておけばタカトはそれを利用するだろう。わしなんかより視野が広い男だからな。


「大隊長、第二小隊がきました」


「よし。暗くなるまで休むぞ。装備を外してもいいが、油断はするなよ」


 これ以上は難民の目に入ってしまう。暗くなってから山の中を進むとしよう。

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