第994話 *雷牙*

「うーみーはあおいーなーおーきーなー!」


 なんて船橋の上で大声で歌っていた。


 アレクライトにきてもう何日か。海は本当に気持ちいいな~。


 山奥で海なんてものがあるなんて知らなかったのに、この広い海を怖がることもなく、思いっきり魅了されてしまった。


「夏だったら泳いでみたいな~」


 さすがに真冬の海は冷たいのでアルズライズには止められたけどさ。


「お、陸が見てきた」


 王都沖で補給して数十日。アレクライトの能力なら一日で到着できる距離らしいけど、初めての場所だから海域や発信器を島に打ち込んだりと時間がかかってしまった。


「やっとホームに入れるな」


 移動中はホームに入れないからミサロの料理を食べられなかった。早く食べたいよ。


「ライガ、入ってこい」


 アルズライズの声が船外放送で発せられた。


 船橋上部のハッチを開けて中に入った。


「なに?」


「しばらくしたら停泊するから補給を頼む。あと、タカトに報告を頼む」


 アルズライズが使っているプランデットを渡された。


 もっと賢いならおれの口から説明したいけど、難しいことを説明できるほどまだ言葉を知らない。もっともっと言葉を覚えて、タカトの力にならないとな。


 しばらくしてアレクライトが止まり、錨を降ろした。


「アレクライト停止。乗員はライガの手伝いをしろ。ライガ、頼むぞ」


「アイアイサー!」


 タカトに教えてもらった返事をした。


 格納庫に向かうと、乗員や海兵隊が集まっていた。


「ライガ、頼むぞ」


「任せて!」


 ここでは誰もおれをいじめたり嫌ったりしない。見た目がどうとも言わない。皆、おれを受け入れてくれて、かわいがってくれた。


 この環境を作っているのはタカトだ。タカトが忌み子だなんだとか関係なくしている。この姿は個性であり能力だ。おれを成す力だ。卑下することはない。恥じることもない。そんなおれだからこそタカトに選ばれたんだ。


 タカトは駆除員にしたことを悪いと思っているようだけど、おれは選ばれて嬉しかった。おれはそのために産まれたんだって思えたから。


 駆除員はおれの誇り。そして、人として恥じない生き方をするんだ。おれはもう忌み子でも獣でもないんだからな!


 ホームに入る場所を決めてから入った。でないと、ぶつかったりして怪我する恐れがあるからだ。セフティーブレットは安全第一、命大事になのだ。


「あ、タカト」


 ガレージで荷物の整理をしていた。


「おう。着いたのか?」


「今、沖合いで停泊したところ。補給、できる?」


「ああ。そのパレットに積んでいるヤツだ。今、運ぶよ」


 タカトがリフトに乗って玄関まで運んでくれ、おれがダストシュートする。


 それを四回繰り返して補給は完了。あとは、補給品を見て追加する感じだ。


「タカト、これ。これまでの航海記だよ」


「お、サンキュー。ちょっと待ってろな」


 テーブルに置いていたプランデットをかけて、アルズライズのプランデットからデータを移した。


「こちらの記録も移したから時間があるときに見ておいてと伝えてくれ。カインゼルさんはどうしている?」


「ルースミルガンで偵察に出ているよ」


「あの人は才能の塊だな」


 それはおれもそう思う。おれの攻撃をすべていなすし、乗り物なら大抵のものは操れる。たくさんの人も従えちゃうんだから凄いよ。タカトが師匠だと言うのもよくわかる。そんな人を追い出したヤツの気が知れないよ。


 ……まあ、カインゼルも選ばれた者。きっとタカトを助けるために女神が導いたんだろうな……。


「まだホームにいるの?」


「ああ。ミリエルと交代したからしばらくは館にいるよ。朝昼晩には必ずいるから」


 へー。ミリエルと交代したんだ。まあ、ミリエルも武闘派なところがあるらしい。後ろにいるより前にいたいんだろうな~。


「雷牙、しっかり稼いでくれな。セフティーブレットの懐はお前の活躍にかかっているぞ」


 冗談っぽく言っているが、おれだって駆除員の一人だ。個人の活躍より組織としての活躍を優先させることくらいわかっている。


「任せて。誰一人殺されるようなことしないから」


 アレクライトにはほぼ攻撃特化の者しか乗ってない。おれは活路を開きつつ、全面攻撃時には全体を守るように動く。おれにとってもカインゼルは師匠なのだ。


「ふふ。男の顔になったな」


 タカトから頭を撫でられることはなくなったが、それは一人前と見られている証拠。駆除員のお荷物なんかじゃないってことだ。


「ふふ。まーね。いつまでも子供じゃいられないからね」


 タカトは寂しそうに笑う。


 わかっている。その笑いはおれを巻き込んでしまったことの後悔だって。


 だからこそおれは、いや、タカトに救われた者たちは死んではならない。安全第一、命大事に。笑って勝利することがタカトを守ることでもあるのだ。


「じゃあ、外に出るよ」


「おう。皆をよろしくな」


 タカトとハイタッチして外に出た。


「さあ、腹を満たしたらゴブリン駆除だ! 一匹残らず駆除するぞ!」


 おれも女神の使徒。ちょっと信仰の対象になっているのは困るけど、皆を鼓舞するにはちょうどいい。やる気を起こさせて誰一人死なせないようにするのだ。

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