第21章 マリットル要塞編

第993話 *ラダリオン*

 元の姿のままホームに入り、使っていたものをダストシュートすると、巨人のサイズで外に出ることがわかった。


 今さら、とか思わないではないけど、あたしがダストシュートを使うのは誰かを送り出すときくらい。ゴミはゴミ箱に捨てるので、今の今までわからなかったのだ。


 なぜわかったのかと言えば、子供たちにお菓子をせがまれたのがきっかけだ。


 手持ちのお菓子がないからホームに入り、籠に入れた飴を全部溢れさせ、拾うのも面倒だからダストシュートして外に出したのだ。


 外に出たらその飴は巨大化したまま。なんでだ? と思ってまたホームに入り、キットなお菓子をダストシュートしてみたらやはり巨大化したままだった。


 なんか凄い発見をしたような気がしたんだけど、それを言葉にも形にもできないので、タカトに相談してみた。


「なるほど。確かめてみるか」


 タカトはわかったようでいろいろ実験してみることになった。


「腹の具合はどうた?」


 何度か試すとタカトに訊かれた。


「うーん。そんなに減ってない感じ、かな?」


「うん。やっぱりダストシュートするとラダリオンにかかる負担はないようだな」


 タカトが言うには小さくなる腕輪はあたしの魔力を食って働いていて、ホームの出入りでも魔力は使っていたみたいだ。


 確かに荷物を持って出入りしているとすっごくお腹が減る。まあ、ホームには常に食べるものが用意してある。食べたいときに食べたいだけ食べられる。お腹いっぱいになってたもまだ食べられるものはあった。だからお腹の減りなんて気にもしなかった。


「小さくなっているときにダストシュートしたときどうなっていたっけ?」


「わかんない。ただ、小さいままだとそんなにお腹が空くことはなかった気がする」


「おそらく、巨人のままだと消費が激しく、小さいならそれぼと消費はかからない。ホーム内なら大小は関係なく均一に消費される。ラダリオンだけ巨人判定されているから荷物も巨人サイズとして認識される。ホーム全体が女神から力が供給されているから決めてないルール以外の消費は勝手に使われてんだろうな」


 つまり、巨人のまま入り、ダストシュートで巨人サイズのまま外に出ればあたしの消費はゼロ、ってこと?


「まあ、いろいろやってみろ。ドワーフもいろいろ不足しているだろうからな」


 不足しているものか。なんだろう? まあ、訊いてみたらいいか。あたしは頼まれたものを出すだけだしね。


 外に出ると、ドワーフたちが集まって、試しで出したものを片付けていた。


「お嬢! ちょっといいですか!」


 あたしは巨人なので、ドワーフを踏み潰さないためにも決まった場所で入ることにし、場所の横にはあたしと会話できるように櫓が建てられていて、あたしの目線で会話できるようになっていた。


「なに?」


「山に黒くてデカい魔物が現れました!」


 黒くてデカい? 山黒かな?


「わかった」


 出てくるならゴブリンにして欲しかったけど、ここでは穴を掘ったり均したりばかり。山黒でもいいから別のことで体を動かしたいよ。


 ホームに入ってすかーえるを持ってきた。山黒ならこれで充分でしょう。巨人のあたしが使えば対物ライフルと代わりないしね。


 ドワーフの男たちも連れて、山黒らしき魔物を見た場所にむか。


「……熊……?」


 山黒ではなく、ただデカいだけの熊だった。


「こんなのがいるんだ」


 あたしの半分以上あるから体長五メートルくらいはあるかな? 熊なんて片手でつかめそうなのばっかりなのに、あたしでも跨がれそうなサイズだ。


 ただ大きいだけの熊。山黒のような魔力を放っているわけじゃない。三発も頭に撃ち込めば簡単に崩れ落ちてしまった。


「解体して運んで」


 昔は熊の肉はご馳走だったけど、思い返すとただ弾力があるだけの肉だけで美味しくもなかったっけ。


「皆に振る舞っていいですか?」


「皆で食べて。血抜きをよくして味噌煮ならほどよく食べられると思う」


「ありがとうございます!」


 ドワーフたちも過酷な生活を送っていたみたいで肉なんて滅多に食べられなかったとか。ここにきてもパンや芋、カロリーバーが主で、肉なんて食べられなかった。


 熊の肉でも喜んでくれるならあたしの労力など安いもの。でも、どんなもんかは知っておきたいので味見はさせてもらおう。


「あ、お嬢。少しいいですか?」


 集落に戻り、熊を解体するのを眺めていると、おばちゃんたちが櫓に上がってきた。


「なに?」


「先ほどの大きな服ってまだありますか?」


「服?」


 そう言えば、試した服がなくなっているな。なんかに使ったの? 古くて穴が空いてた服なのに。


「いいよ。前みたいのでいいの?」


「可能であれば革製の服や箱をいただければ……」


「箱はなんでもいいの?」


「コンテナボックスってもらえますか? 大きくして」


 まあ、空のコンテナボックスはいろいろ使い道はあるのでガレージの隅に積まれている。好きに使っていいとも言われているので構わないか。


「わかった」


 ホームに入ってコンテナボックスを抱え、自分の装備としてダストシュートさせていった。


 二十個ほどダストシュートし、窓から外を見るとおばちゃんたちがわらわら集まって運んでいった。


 なくなったら革服や服なんかをダストシュート。こんなもんかと外を見たらやはりわらわらと集まってきて服を運んでいった。


「おばちゃんは逞しいな」


 あたしも将来あんな風になるんだろうか? なんかちょっと嫌だな~。

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