第989話 ダンの嫁

「なんだかぽっかり時間が空いてしまったな」


 ミリエルが指揮をするならなんら不安はない。効率重視で動くだろう。交代はミルズガンと接触してしばらく過ぎてからでいいかもな。


 とりあえず、ガーゲーに向かうとするか。


 ミサロが入ってきたらダストシュートしてもらい、KLX230Sでロンレアを目指すことにした。


 往来はそんなにあるわけではないようで、通りすぎるヤツもいない。ただ、誰もいない道を爆走してロンレアに到着できた。


「そういや、ダンの結婚式に参加できなかったな」


 家を作ってやる約束は……巨人たちがやっているか。なにを祝いに渡せばいいかな?


 とりあえず巨人区に向かってみた。


 雑木はほとんど伐り払われ、道が見えており、走りやすくなっている。港町に入らず、迂回して巨人区に到着した。


「すっかり発展してんな」


 サイズがサイズだから全体像を見渡せないが、五軒くらいは建てられてんじゃなかろうか? 相変わらず仕事が早い種族だよ。


「ダーン! いるかぁー!」


 昼時だか家の中だと思って大声で叫んだ。


 巨人は、七、八メートルくらいなので玄関前からちょっと離れる。蹴られちゃ堪ったもんじゃないからな。


「タカト! あっちはいいのか?」


「ミリエルと交代して、今、ガーゲーを目指しているところだ。その前にダンのことが気になって寄らせてもらった。皆揃っているか?」


「ああ。揃っているぞ。中に入ってくれ」


 ダンが手を差し出してくれたので乗せてもらって家に招待された。


「いい家だな」


 ゴルグの家よりは狭いが、2LDKはありそうだ。


「ああ、親父殿が作ってくれたんだ。こっちは嫁のタミーだ」


 視界には入っていたが、かなり若いんじゃないか? 十七、八歳? ダンは二十歳くらいだったからちょうどいいのか?


「こっちはタミーの親父殿とお袋殿だ」


 お袋って言葉があるんだ。前の駆除員が広めたのかな?


「巨人の町で会いましたよね?」

 

 名前は完全に忘れたが、橋作りの職人の家族だったような記憶がある。


「ロンダン一家を預かるラッガだ。三番目の妻、ミリーだ」


 三人も嫁がいるんかい! 巨人は一夫多妻だったのか? 


「随分、若い奥さんで」


「前の嫁は病気で死んだんだよ」


「……それはご愁傷様です……」


「なに、よくあることだ。巨人を診てくれる医者はいないからな」


「そうか。なら、病気になったヤツがいたらこれを打ってみてくれ。古代エルフの薬だ。ただ、巨人に効果があるかはわからん。効果がないのならそれでいいが、変な効果をみせたり後遺症になったりするかもしれない。こればかりは打ってみないとわからないものだ」


 ドワーフには効いたが、巨人まで効果があるのはご都合ってもんだろうよ。それでも打たなきゃわからんのが古代エルフの技術なんだよな。


「それならおれに打ってくれ。最後の娘が所帯を持った。仕事は息子に譲った。もう死んでも惜しくない身だ。効果があるなら子や孫のためになるなら喜んで実験台になろう」


 奥さんに目を向けると柔らかく笑って頷いた。


 ……この時代を生きているヤツは覚悟が違うな……。


「わかった。病気とかしてますか?」


「いや、してはいないと思う」


「それなら指先を傷つけてもらいますか? そのほうが効果も見えるでしょうからね」


 回復薬とは違い、効いている感じはしないそうだ。


「わかった」


 手持ちのナイフを抜いて指先をばっさりいってしまった。思いっきりいいな!


 ホームからブラッギーを取り寄せてラッガさんの指に打ち込んだ。


「足りないか?」


 一分くらい様子を見るが、傷口が塞がることはなし。巨人の体だし、もう二本打っておくか。


 三本打って一分すると、傷口が塞がっていった。効果あんのかい! どんな理屈だよ! 都合よすぎだわ!


「どうです? 体が熱かったり息苦しいとかありますか?」


「いや、ない。それどころか腰の疼きがなくなった」


 水虫に続いて腰痛まで効果があるんかい! 万能だな!


「どうやら効果があるみたいだな。ダン。妊婦にどう影響するかわからんから産んでから使えな。それか妊娠する前に回復薬を飲ますんだぞ」


 妊娠にどう影響するかゴブリンで試してみよう。


「わかった」


「小さいから人間に打ってもらえな」


「その薬はまだあるのか?」


「三十本くらいあるから持ってくるよ。あとはガーゲーで作っているから完成したら各所に配るよ」


「それは助かる。回復薬もなくなったんでな」


「誰か怪我でもしたのか?」


「ああ。家を作っているとき足の骨を折ったり石を運んだりして腰を痛めたヤツが結構いるんだよ。この薬があって助かった」


 いいタイミングできたようだ。


「そう言えば、ゴルグもきてたっけ?」


「ああ、今は城下町のほうにいっているよ」


 あいつもすっかり出張が多くなったものだ。酒をたくさん置いてってやるか。


「ダンとミリーの結婚祝い、なにがいい? なんでもいいぞ」


 家は建ててもらったし、欲しいものをプレゼントするとしよう。


「ミリー、なにか欲しいものはあるか?」


「なんでもいいぞ。ゴブリンがたくさん出て儲けたからな」


「じゃ、じゃあ、裁縫道具と布が欲しいです」


「了解。いい裁縫道具を買ってやるよ。布もたくさん回収したからルースカルガンで運ばせるよ」


 ランティアックの回収品は館に置いてあるからな。


「ありがとうございます!」


 うんと頷いてホームに入った。

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