第986話 *ミリエル* 1

「タカトさん。それ、わたしにさせてください」


 その真意を悟り、わたしにやらせてもらえるようお願いした。


「え、あ、まあ、やりたいのなら構わないが、面倒だぞ?」


「面倒なのは承知しています。タカトさんを支えられるよう経験はたくさんしておきたいです」


 タカトさんは、自分がいなくなったときを考えている。それは、明日死んでもわたしたちが困らないよう道筋を立ててくれているのだ。


 今、タカトさんがいなくなってはダメだ。どんなに道筋を立て、お膳立てしてくれてもタカトさんが死んだ時点でセフティーブレットは瓦解する。それだけは避けなければならないわ。


「わたしが前面に出ます」


 タカトさんは前面に出ても優秀だけど、裏方になっても優秀だ。でも、非情さが足りない。裏切り者を利用すると言うが、排除するときは絶対気に病む人だ。そんな負担はかけられない。それをやるのはわたしの仕事だ。


「館の職員に事情を話してきます」


 そう言ってホームを出た。


「ルー、メー。わたしはマガルスク王国に向かうわ。ルースカルガン一号がきたら用意して向かってきて。発信器は打ち込んであるみたいだからわたしの信号を追えると思うから」


「わかりました」


 わたしも二人を双子を教育している。意を汲んで動いてくれるわ。


「マガルスク王国にきたらゴブリンを駆除させてあげるからよろしくね」


 わたしの側近として利を与えておかないとね。


「「畏まりました」」


 現金な双子だけど、それだけ利に聡くなる。わたしの側近ならそのくらいがちょうどいいわ。


 館の職員にしばらく抜けることを伝え、シエイラにはタカトさんを戻すことを伝えた。館に一人は駆除員がいないと他のフォローに回れないからね。


 ホームに入ると、タイミングよく全員が揃っていた。


「ミリエル。お前をダストシュートさせたらオレはミサロのところにダストシュートしてもらう。そこからなら一番早く館に戻るだろう。ルースミルガンもあるしな」


「それならガーゲーによって長距離用に改造してもらうといいかもしれませんよ」


 十日前くらいの報告書に書いてあったわ。


「そんなことできるようになったんだ」


「はい。今も改造していると思いますよ」


「それならいってみるか。偵察用にルースミルガンが欲しかったんだよ。ついでにガレージを整理して入れるか」


「わかりました」


 他にもいろいろ話し合い、用意を済ませたらダストシュートしてもらった。


 出た場所は山頂のようで、キャンプ地になっていた。


「ミリエル様」


「ゴル、だったわね」


 ミロンドにいた請負員だったはず。顔がうろ覚えだわ。


「はい、ゴルです」


「タカトさんの代わりにわたしが指揮をするわ」


「旦那になにかあったんですか?」


「いえ、経験を積ませてもらうようお願いしたの。今回はドワーフの数が多いからね。纏め役を決め、集団として力をつけさせて人としての尊厳を持ってもらうわ。ゴルはセフティーブレットの一員として優秀そうな者を勧誘してちょうだい」


「わかりました。何人か目星はつけています」


 ゴルたちを選んだのはタカトさんだ。わたしより関わっていないのになぜか的確な人材を選んでいる。一体タカトさんの見る目はどうなっているのかしらね……?


「タカトさんのプランデットを貸してちょうだい」


 ゴルから借りてプランデットをかけた。


 名簿は作られており、主要な者と思われる者には名前が書いてあった。


 ……おそらく行動から判断しているのでしょうけど、まだ一日二日よ? それでわかるとか謎でしかないわ……。


「マリル。ミリエルよ。こちらに戻ってきてちょうだい」


 あまり話したことはないけど、メビよりは賢く、メビよりは身体能力は低いという認識だわ。


「おじちゃんはどうしたの?」


「この場を譲ってもらって館に戻ってもらったの。ドワーフのことが片付くまでわたしが仕切らせてもらうわ。また交代するまでよろしくね」


 マリルとマルゼらタカトさんの子供みたいな感じになっているけど、わたしからしたらビシャやメビの下、マルグより上の存在ね。タカトさんはこの姉弟にどんな可能性を感じているのかしらね?


「……了解」


「一度、こちらに戻ってきて。ここを片付けてバナたちと合流するわ」


「わかった。すぐに戻る」


 タカトさんの教育が行き届いていること。感情を圧し殺すことができるんだから。


 数分で戻ってきたマリルにキャンプ用具を片付けてもらい、ゴルには体を洗わせ、上等な服と装備を身につけさせた。


「ゴル。あなたをセフティーブレットゴル隊の隊長とするわ。請負員カードを渡すから仲間を増やしなさい。人数は任せます。単独で動ける隊にしなさい。わたしが相談役となるから」


「い、いいんですか?」


「タカトさんから許可は得ているわ」


 わたしにはタカトさんと同じ権限を持っている。わたしが決めたことはタカトさんが決めたも同じ。タカトさんの杖であるわたしの特権だ。


 もちろん、あとで報告して、擦り合わせはするわよ。私利私欲で動いているわけじゃないんだからね。


「ゴル。あなたはセフティーブレットの一員よ。ゴブリンを駆除するためにいるわ。それを忘れず行動をしなさい」


「ハッ! もちろんです!」


 敬礼して答えるゴル。ほんと、タカトさんの人心掌握術は魔法としか思えないわ……。

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