第985話 多種族国家構想
上空からドワーフがいるところを探ると、しっかり生活基盤ができていた。
ドワーフの町となったミロイドも建物ができるスピードが速かった。ドワーフ、優秀な種族じゃん。魔法耐性が弱いのか? 魔法は使えるってのに。
建物の数が凄く、五百人どころかもっといそうな勢いだ。もしかして、他からも流れてきたのか?
一通り回ったらキャンプ地に戻った。
「ご苦労さん。先に休め。しばらく外にいるから酒を飲んでも構わないぞ」
ドワーフは個人差はあるが、長いこと飲んでなかったから大抵のヤツは酒の耐性が弱くなっている。ワイン一本でぶっ倒れるヤツがざらだったっけ。まあ、嫌いではないようなので夕飯に飲むヤツも結構いたけどな。
「じゃあ、ホットワインをいただきます」
ワインを取り寄せてやり、ヤカンに移してコンロにかけた。
オレはマリルのプランデットに繋げ、ドワーフたちの様子を見た。
マルゼもドワーフたちに受け入れられたようで、カロリーバーを配っていた。
「マリル。大丈夫そうならこちらに合流していいぞ。明日、オレたちもドワーフのところにいってみよう」
「了解」
先導してやり十分もしないでやってきた。獣人にも負けない脚だよ。
「風呂、入るか? 入るなら用意するぞ」
「入る」
と言うので視界がいい場所に湯船を設置し、水を集めて入れたらヒートソードで沸かしてやった。
木にタープや仕切りを作ってやり、あとはマリルに任せてオレはシチューを作り始めた。
その日は問題なく過ぎ、周辺にワイヤーを張り巡らせて三人で休むことにした。
プランデットの動体反応で起こされることもなく朝を迎え、朝飯を食ったらマリルにまた監視に戻ってもらい、ドワーフたちの様子を観察した。
「ゴル。ちょっとホームに入ってくるから観察しててくれ」
昼になったので報告に入るとする。
「あ、タカトさん。ガーゲーからカロリーバーとブラッギーが届きましたよ」
「お、それは助かる。こちらはドワーフを観察中だ」
「観察ですか?」
「ああ。ドワーフが多くてな、どんなグループがいるか調べているんだよ」
「……よくわからないのですが……?」
「んー。人間も同じなんだが、集団になればいくつかの派閥ができたり、はぐれ者ができたりする、ってのはわかるよな?」
「はい」
「そんな集団を纏めるとなるとリーダーは絶対に必要だ。五百人以上いるとなるとよほどのカリスマ性がないといけない。派閥を調べ、任せられると判断できる者に権力と武力を与える。それに相応しいヤツを輪の外から見つけようとしているのさ。あと、スパイがいないかも調べているな」
「スパイですか!?」
驚くミリエル。考えはなかったのか?
「人が集まれば裏切り者は出るものさ」
組織は大きいほうがいい。だが、大きくなればなるほど人の管理はできなくなり、派閥ができてくる。これは、種族に関係なく起こるものだと、この世界にきて学んだよ。
「できることならセフティーブレットはあまり大きくはしたくないんだよ。こうして戦線が広がると目が行き届かなくなるからな。なんとかできているのはこうして集まれるホームがあるからだ」
それでも目が行き届かなくなる場所ができている。都市国家なんて完全にビシャに丸投げだもんな。
「セフティーブレットにも裏切り者はいるんですか?」
鋭くなるミリエル。裏切り者に容赦しないタイプだな。
「セフティーブレットにはいないよ。まだ利益を職員たちに与えているし、それぞれの種族は自分たちのためにオレらについているからな。仮にいたとしてもそれを利用してやればいいだけだ。その辺はシエイラが目を光らせているから大丈夫だよ」
冒険者ギルドで生き抜いてきた女。人の裏を見る能力は高いのだ。
「オレらはセフティーブレットを纏めることに集中する。集団ってのは敵がいれば纏まってくれるからな」
皮肉なことにゴブリンがいればいるほどセフティーブレットの結束力は高まるのだ。
「ドワーフを味方にすることはオレらの生存圏を固めることにも繋がる。だが、数は多ければいいってものではない。烏合の衆はお荷物になるのなら持っているだけ不利になる。オレたちのためにするにはふるいにかけ、選別する必要がある」
「……ドワーフの国を創らせるのですか……?」
「と言うよりは多種族国家を創る」
「……た、多種族国家、ですか? か、可能なんですか……!?」
「いろいろ乗り越えなくちゃならないことはあるが、不可能ではないと思っている。まあ、上に立つのは人間種になるだろうが、纏まるための楔となるのがセフティーブレットだ。女神の使徒が多種族国家の象徴となる」
ゴブリンがいる限り、その象徴は補充される。複数人がな。組織としてセフティーブレットがあり、象徴として駆除員を置く。
「組織を守るために人を育て、長命種たるエルフがバックについてもらう。国家が腐敗したときはセフティーブレットが動く。ゴブリンを駆除する」
って言う形を目指してはいる。
「まあ、オレたちは長命でもなければ種族を守る義務があるわけじゃない。生きている間の責任と、次の駆除員を立たせる形を作ること。あとはその時代を生きる者に託すさ」
オレは神でも仏でもない。百年先を守ってやることはできない。今を精一杯生きるしかないんだよ。
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