第984話 接触

「おぉ! 旦那、おれにも打たせてくれ!」


「おれも!」


 効果を見たドワーフたちが色めき立った。


「おいおい、もうちょっと様子を見ろよ」


 って説得も水虫が治ることを知ってしまっては聞く耳を持たない。仕方がないので全員に打たせた。


「おー! 治った!」


「もうあの痒みとはおさらばだ!」


 うん、まあ、本人たちが喜んでんならいっか。てか、エルフの薬、スゲーな! 技術が進むと水虫すら一瞬で治すのな。オレも水虫――いや、水虫薬じゃなかったわ。怪我や病気全般に使うものだわ。


「じゃあ、これはお前たちに渡しておくよ。まだたくさん造れるものだから遠慮なく使っていいからな」


「コラウスにいる仲間たちにも渡してやってください!」


 ドワーフ、どんだけ水虫になってんだよ。種族病か?


「あ、ああ。ミリエルに言っておくよ」


 こりゃかなり生産しておかんといけないな……。


「よし。食事を済ませたらもう少し進むぞ。明日には鉱山に辿り着きたいからな」


 喜ぶドワーフたちに食事をさせたら山頂まで目指し、そこで野営とする。


 マリルには合流してもらい、交代で休んでもらい、オレはホームに入った。


 皆とミーティングを済ませたらミサロが作ってくれたビーフサンドを持って外に。先に休んでいたマリルと交代して見張りに立った。


 朝方に交代して三時間くらい眠った。ドワーフのことはゴルたちに任せる。休むのはそれからで充分だ。


 朝飯を終えたらまたマリルに先行してもらい、ゴルたちに道を切り開いてもらって進んだ。


「――おじちゃん。ドワーフを発見。狩りをしているよ」


 そろそろ休憩しようかと考えていたらマリルから通信が入った。


「了解。姿を現さず見張りを続けろ」


「ゴル。二人を先行させろ。花火を上げて散っているドワーフたちを一ヶ所に集める」


 警戒はされるだろうが、散り散りになられるよりいい。あまり手間はかけたくないからな。


「わかりました! マグ、バナ、お前たちがいけ。よく説明しろよ」


「任せろ。おれは口だけは達者だからな」


 ドワーフにも口が達者なヤツがいるもんなんだな。


 マグとバナが先行したら打ち上げ花火を三発打ち上げた。


「おじちゃん、ドワーフたちが逃げ出したよ」


「バレないようあとをつけろ」


「了解」


 マリルの信号を見ながらマグとバナを先導し、オレらも向かった。


 昼前にマリルに信号が停止した。


「ドワーフがたくさんいる場所を発見。かなりの数がいるよ。ちょっと町みたくなってる」


 まあ、バデット騒ぎは去年から起きており、今年の春には籠城してドワーフを追い出したそうだ。それだけ時間があれば生活は作られるだろうよ。


「映像をもらうな」


 距離的に二キロちょっとなので、マリルのプランデットを遠隔操作できる。どれどれ。


「……確かに町みたくなっているな。数もかなりいそうだ……」


 百人もいればいいなと思っていたが、これでは五百人いても不思議ではないぞ。食料はどうしてたんだ?


「あ、二人が接触したよ」


 視線が動き、マグとバナが同胞たちに槍を向けられていた。


 口が達者なのがバナのようで、体を使いながら同胞たちを説得していた。


 裏切り者と断罪されることもなく、リュックサックを下ろしてカロリーバーを出して信用してもらえるように毒見した。


 食糧事情が悪いのだろう。相手方のドワーフが味見をして驚いた。


 もしかして、エルフとドワーフは種として近いのか? ブラッギーが効いたりカロリーバーを美味いと感じるんだから。


 他のヤツらもカロリーバーを食い出し、二人に渡した分がなくなってしまった。


「ゴル。もう一人いかせろ。マルグもいけ」


 プランデットを外してマルグを見た。


「了ー解」


 にっこり答えるマルグに、オレもにっこり返して頭をわしわしさせた。


「ナグル。マルゼを守れよ」


「任せろ。なにがあっても守り抜く」


「そこまでしなくていい。マルゼなら一人でも逃げ出せるから」


「そうだよ。子供扱いしないでくれよな」


 そんな言葉が出ることが子供だが、この世界じゃ子供でいられる期間は短い。元の世界のようにはいかないのだから一人前にしてやるのが大人の仕事だ。


「マルゼがヘマをするようなら殴っても構わん」


 怒るのも大人の仕事だからな。


「そうそう。おじちゃんに恥をかかせたら殴ってくれて構わないよ。任された仕事はしっかりこなしたいからね」


 ほんと、子供らしくない覚悟だよ。オレがこのくらいのときは甘ったれだったのにな。こっちが恥ずかしくやるよ。


「まあ、人がいるってことを示すためのものだ。皆の手伝いとしていけばいい」


「了解!」


「では、いけ」


 ナグルとマルゼをいかせた。


 オレらも一キロまで前進し、高い山に向かった。


「ゴル。お前はここにキャンプ地を築け。オレはブラックリンで周辺を探ってくるから」


「わかりました」


 ウォータージェットで周辺を薙ぎ払い、空間を作ったらホームからブラックリンを引っ張り出してきた。


「そろそろルースミルガンを出して偵察しなきちゃならんな」


 それにはガレージを整理しなくちゃならない。ミルズガンに着いたらがんばるとしよう。


 明日から本気出す的なことを決意して空に舞った。

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