第982話 魔法が発展した世界

 本当にマガルスク王国はドワーフを牛か豚くらいにしか思っていなかったんだな~。


 奴隷とも思ってないところに人間の怖さを感じるよ。どうしてそこまでできるのかオレにはさっぱりだ。


 とは言え、それにどうこう言うつもりはない。そうなる歴史があったんだろうからな。そういう歴史があった。それだけだ。


「あなた方が捨てたドワーフはオレがもらいますね」


 ロイランスさんにそう断言した。


 法の下に所有権を捨てたわけじゃないが、今は法が通じる状況でもない。仮に法を持ち出すのなら法の下に廃棄しなかったのならそれは不法投棄。犯罪だ。


 ってことをランティアックの文官たちが教えてくれたよ。


 ランティアックではドワーフは財産。しっかり管理されていたそうだ。それでもバデットで捨てざるを得なかったみたいだがな。 


「……好きにするといい。もうミンズ家にどうこう言えるだけの力はないからな」


 さすがロイランスさん。オレたちの動向も見ていたか。


「まあ、さすがにタダでってのも気が引けますのでこれを」


 ちょっと豪華そうな箱に回復薬中を二粒入れてロイランスさんに渡した。


「これは?」


「神世の薬です。ロイランス様とローザン様にはまだ死なれては困ります。これを飲んで長生きしてください」


「……下らぬウワサだと思っていたが、本当に神の使徒はいたのだな……」


 ウワサになるくらいにはマガルスク王国に放り込まれていたのか。クソすぎんだろう、ダメ女神が……。


「正確にはゴブリン駆除員ですね。悲しいことに五年と生きた者はいません」


「そなたは何年目だ?」


「もう少しで二年になります」


「あまり悲観していないようだな?」


「寿命で死ぬための準備や体制、仲間を募っていますからね。利用できるものはなんでも利用して生き抜いてやりますよ」


 さすがに子供ができたからは死亡フラグすぎるので口にはしません。


「これまで得た情報から駆除員の死亡理由は大量のゴブリンが湧いたから。個人ではどうしようもない大群に勝てなかったからです。なら、数には数をぶつけるまでです」


「そのためなら他種族だろうと関係ない、か」


「勝たなくちゃならないのに好き嫌いは言ってられません。やれることはすべてやる。それだけです」


 死ねないし死にたくもない。好き嫌いなど二の次どころか百の次くらいだ。


「戦士だな」


「臆病者なだけですよ」


「勇者ではないんだ、戦士は臆病なくらいでよい」


 この人は本当にカインゼルさんとよく似ている。


「あなたのような上司がいてくれたらよかったです」


「ふふ。そなたを部下にしたら死ぬまで働かされそうだ」


 間違ってはいない。優秀な上司の下にいたほうが楽だからな。


「ドワーフが逃げ込みそうな場所に心当たりはありますか?」


「そうだな……」


 ミンズ伯爵領の地図を出してくれた。


「おそらく、ここではないだろうか? 昔、鉱山があった場所でよく魔物が住み着いたりしていた場所だ。ここなら水に困らないし、狩りをすることもできる」


「ミンズ伯爵領にドワーフはどれだけいたんですか?」


「……五百から六百だと思う」


 結構いるな。でも、食糧事情を考えたら半分以下になっていても不思議ではないか。この寒さではさらに減っているかもしれんな……。


 地図の写真を撮り、方角を教えてもらった。


「ありがとうございます。あと、オレたちは出発します。ランティアックの文官は連れていきますね」


「ミンズからも文官を連れていってくれるか?」


「過酷な道中になりますよ」


「ランティアックの文官にできてミンズの文官にできないわけがない。もし、弱音を吐くなら捨ててくれても構わない。そう厳命しておく」


「わかりました。明日の朝に出発します」


 一礼して部屋を出てランティアックの文官が借りている部屋に向かった。


「サイルスさん。明日の朝に出発します。アルドラさんたちもです。ミンズの文官も同行するのでそれに対応してください」


「なにかあったのか?」


 ドワーフがいるかもしれないことを説明した。


「た、確かに言われてみれば見てなかったな。だが、この状況で生きていられるのか?」


「生きてはいると思いますよ。ドワーフは結束力は高いし、学がないだけで知能はかなり高いです。なんで反乱を起こさないのか逆に不思議ですよ」


「それは魔法で従わせているからですね。ただ、それほど強い魔法ではないのですぐ切れてしまいますが」


 と、レイズさんが教えてくれた。


「そんな魔法があるんですか? いや、バデットにする魔法もあるんだからあっても不思議ではないか……」


「そう言えば、マガルスク王国は魔法が発展しているとは聞いたことがあるな」


 とはサイルスさん。オレが思うより魔法が発展しているようだ。


「それなら益々生きている確率は高くなりますね。オレはゴルたちと先行します。あとの指揮はロイスに任せますんで力を貸してやっください」


「おれもいきたいところだが、我慢するか。あの姉弟は連れていけよ。お前はお守りがいたら無茶しないからな」


「……そうします……」


 サイルスさんにそう言われたら従うしかない。


「では、またあとで落ち合いましょう」


 そう告げてサイルスさんと別れた。

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