第981話 見落とし
城壁の上に立ち、周辺を見回した。
バデット攻略法を教えて五日。ロイランスさんたちは順調にバデットを無力化していた。
魔力を見ているバデットは本当に誘導しやすい。強い魔力を感じたらそちらに向かってしまう。より強い魔力に目がいってしまうのだ。
それだけわかれば排除する方法なんていくつも思いつく。坂の上から丸太を転がり落とすだけでバデットは骨が折れて動けなくなる。楽なものである。まあ、片付けるのは死ぬほど大変だけど。
「まあ、片付けるのはミンズ伯爵領の兵士と領民。がんばってくださいだ」
缶コーヒーを飲みながら働く人たちを眺める。まるで平日に働く人を横目に酒を飲んでいる気分である。
「マスター。少しいいですか?」
ちょうど飲み切ったらロイスがやってきた。
「どうした?」
「領民がカロリーバーを売って欲しいそうです」
「カロリーバーを? 誰か食ってたのか?」
食材はホームを通して出している。カロリーバーなんて食う必要もない。好んで食うものではないだろう。オレ、もうどんな味だったか忘れたぞ。
「ドワーフたちは好んで食ってますね。意外と好みな味みたいです」
そうなの? 知らんかったわ。種族による好みはよくわからんな。
「まあ、売ってくれと言うなら構わんよ。たくさんあるしな。あ、ミンズ伯爵領の備蓄ってどうなんだ?」
そのこと訊くの忘れったわ。
「意外とあるようですよ。ただ、山間部な街なだけに芋やカブ、葡萄酒がほとんどですね」
「芋か。それならコラウスにも欲しいな。金より芋や葡萄酒で交換してくれ」
金をもらったところで使い道はない。なら現物をもらったほうがいい。芋や葡萄酒なら巨人に渡せるからな。
「わかりました」
空缶を城壁の外に捨て、キャンプ地に下りた。
どんたけカロリーバーが美味そうに見えたんだか。ちょっと集まりすぎだろう。
「マスター、お願いします!」
「了解──」
その場でホームに入り、カロリーバーが入ったコンテナボックスを運んできた。
職員たちにより、カロリーバー一個とザル一杯の野菜と交換し、葡萄酒樽一つでカロリーバー二百個と交換することを決めたようだ。
「自分たちの分は残してあるのか?」
って心配になるくらい交換にきてるよ。
「冬越えの芋や麦は外にあるようなので問題ないようです」
なるほど。バデットは冬越えのものは食ったりしない。バデットさえいなくなれば冬は越せるってことか。それを食う者はバデットにされたからな。
……まあ、作るヤツもいなくなったってことだろうがな……。
「しかし、カロリーバーが人気だな」
もう三日も過ぎているにまだ交換にきている。大丈夫なのか? てか、運び入れんのも大変なんですけど。
ハイラックスの荷台に積んでホームに入れ、そのままコラウスの館に出している。一日何回出し入れしたかわからんよ。
「マスター。領民が外に出始めました」
「意外と早かったな」
「やはり兵士が多いと排除するのも早いようです」
居残り組が優秀だったようで兵士はまるまる残っており、ロイランスさんの判断がよかったようで専業兵士二百人と兼業兵士三百人が動けるそうだ。
「なんでマガルスク王国って兵士が多いんだ? ソンドルク王国はそんなに兵士がいないのに」
「冒険者がいるかいないかの違いであり、この国はドワーフを奴隷としてましたからね、それを見張る兵士が必要だったのでしょう」
「ん? バデットの中にドワーフはいたか?」
「いえ、いませんでした。ミンズ伯爵領にもドワーフはかなりいたと聞いてます」
「ランティアックでもいなかったよな?」
「そう言えば、いませんでしたね」
大教会にいたのはドワーフの魔法使いだった。
「……つまり、人間だけをバデット化した、ってことのようだな……」
種族によって体の構造や体質、魔力なんかも違う。ましてやあの魔法使いが人間を憎んでいたら人間だけをバデット化する魔法を使っても不思議ではない。
「そう、みたいですな」
「ゴルを呼んでくれ」
ドワーフ隊を纏めている男で、ランティアック周辺にいたと言っていたはずだ。
「わかりました」
すぐに呼んでもらい、ゴルがやってきた。
「旦那、どうしました?」
「もしかするとこの周辺にドワーフたちが群れているかもしれない。集まりそうな場所に心当たりはないか?」
「仲間がいるんですかい!?」
「これまでドワーフのバデットはいなかったし、白骨死体を見つけたことはあったか?」
「……いえ、見ませんでした……」
「お前たちは団結力がある。その力があったからこそ魔物が犇めく中を抜けてこれた。なら、追い出されたドワーフはどうする?」
「……集まります。そして、人間のいないところに逃げます……」
「なら、どこかに集まっている可能性は高いわけだ」
「……は、はい……」
「お前たちの中にミンズ伯爵領内にいたヤツは?」
「いません。ほとんどがランティアック周辺の者たちでした」
「ロイス。オレは城にいってくる。領民から周辺の地理を聞き出してくれ。そう遠くにはいないはずだ」
「わかりました」
ここは任せて城に向かった。
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