第980話 逞しいヤツら
「お前は本当に口が上手いよな」
サロン的な場所から出るとサイルスさんに呆れられた。
「オレは大したこと言ってませんよ」
これと言って感動的なセリフを吐いたわけでもない。普通のことを普通に言っただけだ。
「やる気を出したのはロイランスさんの中でいろんな感情が燻っていただけ。オレがやったとしたら勝算を示しただけです」
勝ちが見えたら人は動くもの。切った張ったの世界で生きてきた人なら勝ち筋が見えたら体が勝手に動くはずだ。少なくともカインゼルさんはそうだった。
「お前は言って欲しいことを狙ったかのように言うんだよ」
そうなの? 別に狙って言っているわけじゃないんだがな?
「まあ、動いてくれるならなんでも構いませんよ。ロイランスさんとの打ち合わせはお願いします」
元冒険者ギルドのマスター。打ち合わせや擦り合わせは得意だろうよ。しばらくミンズ伯爵領に止まるんだから仲良くなっておいてくださいな。
「ランティアックの文官を使ってくれて構いませんから」
サイルスさんが元冒険者ギルドのマスターであること、貴族であること、貴族対応係であることはランティアックの文官たちに教えてある。あちらも全面に立つより動きやすいだろう。裏方には裏方の動き方があるだろうからな。
「仕方がないな。役目を果たすとしよう」
ゴブリン駆除だけが仕事じゃない。仕事をしやすいようにするのも仕事である。
「では、またあとで」
サイルスさんとはそこで別れて皆のところに向かった。
変な絡みを受けている様子もなく、車を座にして夜営の準備をしていた。
「マリル、マルゼ。街の情報収集をしてきてくれ。今回は静かにだ。こちらがお世話になっている身だからな」
この二人はちょっと過激すぎる。そして、容赦がなさすぎる。いやまあ、オレが教えたんだけど、もうちょっと隠密って意味を教えんといかんな~。
「了解!」
「任せて!」
その張り切りが不安でしかないが、経験を積ませる必要もある。リスクを恐れてリターンは得られない。
「マーダ。誰かつけてやってくれ」
「過保護だな」
「お前のとこの娘と一緒にするな。あの年代は守られて当然なんだよ」
ビシャとメビは特別だ。体力も技術も基礎ができていた。銃だってオレより上手かった。とてもじゃないがマリルとマルゼとは比べられないよ。二人が可哀想だ。
「お前もおちおちしてたら娘たちに追い抜かれるぞ」
「ふん! まだ娘たちに負けんわ。お守りはおれがするよ」
シュッって感じで消えてしまった。
「気に触ったかな?」
仲間たちに尋ねてみた。
「気にすることない。優秀な娘を持った父親の代償さ」
「そうそう。ガンバレ、父親だ」
からかうように言う仲間たち。マーダも大変だ。
「ん? ゴブリンがいるな。はぐれか?」
百匹くらいの集団が察知範囲内に入った。
「ゴブリン、いるのか?」
「ああ。あちらの方向、距離は三キロだな。集まっているところをみると、群れかもしれないな」
まだ遠すぎてよくわからん。
「駆除してきていいか?」
「百匹じゃ稼ぎにもならんだろう」
五人で割ったら七万くらい。わざわざ出向くのも手間でしかないだろう?
「まだ酒を飲む時間でもないしな。ちょっと運動してくるよ」
「まあ、好きにしたらいいさ。暗くなる前には帰ってこいよ」
「了解」
城壁をスイスイと登って外に出ていってしまった。じっとしてられないヤツらだよ。
ニャーダ族は放っておいてホームから食材を運んでくるとする。
暗くなってくる頃、ニャーダ族の男たちが帰ってきた。猪二匹をお土産に。
「タカト。血抜きをしてくれ。これで酒を飲むとしよう」
まあ、息抜きも必要かと、血抜きをして捌くのはマーダです嫁さんとドワーフたちがやってくれた。
「お前たち、慣れてんな?」
「コラウスに向かうまでよく猪を狩って生き抜いてましたから」
さすがあの距離を制覇したヤツら。逞しいことこの上ないな。
せっかくなので酒はオレが出してやり、見張りはオレとミシニーが立つことにした。
「……そんな理不尽な……」
「お前は少し禁酒しろ。飲みすぎなんだよ」
静かだな~と思っていたらずっと酒を飲んでやがった。完全にアル中になりやがって。回復薬中でも飲んでおけ。
皆が飲んで食っている間にホームに入ってシャワーを浴び、皆とミーティングを済ませて戻ってきた。
いい感じに酔いが回ったようで、何人かは潰れて眠りについていた。疲れてんだろう。ぐっすり眠るといいさ。
「ミシニー。先に休んでいいぞ」
「酒も飲んでないのに眠れるか。タカトが先に休んでくれ」
初めて会った頃のミシニーはどこにいったのやら。こいつは最前線に送らないとダメエルフになりそうだな……。
「姉弟が帰ってきたら話を聞いててくれ」
「了解。ホットワインは飲んでいいよな?」
イライラされても困るのでホットワインを飲むことを許した。飲みすぎんなよな。
「じゃあ、先に休ませてもらうよ。なんかあったらすぐに起こしてくれ」
そう頼んでハイラックスの荷台にマットを敷いて眠りについた。オレも結構どこでも眠れるようになったもんだよ。ZZZ……。
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